短大生時代②

年に4回ほど大会があり、アマチュア選手権も入れると結構な回数試合に出場した。
大会当日は早朝から準備が始まる。

一日中踊っても崩れない様なヘアセットが必須だ。ウィッグを何本ものヘアピンで強固に固定。半数くらいは前日から美容室で大会用のヘアセットをしていた。
セットが崩れない様に漫画を枕にして極力寝返りを打たない様に寝るのだ。
完全に寝不足である。

ヘアセットが終わったら次はメイクだ。
皆さんもご存知の通り、ダンサーのメイクは舞台メイク並みに濃い。
1年生の時に先輩から教わる基本的な顔の作り方から、それぞれ好きなプロダンサーのメイクを真似て、腕を上げていく。
当時のNo.1プロダンサーは”トニー&ゲイナー”
ダンスメイクにも流行りがあるらしく、私の時は目尻にラインストーンを貼るのが流行っていた。

メイクが仕上がってから家を出発するので、皆サングラスをかけて集合場所へやってくる。派手な頭をしたサングラスのお姉ちゃんたちとリーゼントで学ランの男たちが、早朝の地下鉄駅でたむろしている風景は異様だった。

会場に着くと、それぞれ衣装に着替えたりメイクの仕上げ、付けまつ毛を付ける。
準備が終わるとすぐに開会式が始まる。朝の9時だ。

上位に入賞する→最後まで残る→踊る回数が多い→体力の勝負
と言うわけで、私たちカップルは決勝まで進む事が多かったので、数分の演技の後フロアーを退場するなり「オエッ!」と嘔吐しそうになる声、無言の「ハーッハーッハーッ」と言う息の上がる音しか聞こえない。
カップル同士の会話なんて、決勝に於いてもうなんの意味もないのだ。
そして、会話をせずとも目配せで通じ合える様になっているのがカップルなのだ!

ダンス中、リーダーと呼ばれる男性が他のダンサーとぶつからない様に進行方向を決める。パートナーと呼ばれる女性はそれを、繋いだ手や触れている体の向きで察知する。これぞボディートーク。
モダンでは大抵、進行方向は女性の背中向きになる。そう、女性は後ろ向きに歩く事が多いのだ。しかも、天井を見る様に背中を反っている為進行方向を見るなんて無理だ。
リーダーの目を見る事すら難しい体勢だが、唯一繋がっているリーダーの手と右上半身時には右太ももで次のルーティーンはこれ、とか歩幅はこれくらい、とかここでポーズ決めるよ!とかを伝えてくる。

言葉無くともここまで伝え合える。
そこに至るまでには、それ相応のカップル練習が必要になるのだ。

今にも倒れ込みそうな状態でも、フロアに一歩入ると自然と笑顔になり、呼吸も落ち着く。
正に舞台だった。
モダン4種目(ワルツ・タンゴ・スローフォクストロット・クイックステップ)
ラテン4種目(チャチャチャ・サンバ・ルンバ・パソドブレ)
これらを4回踊り続けて15時の閉会式を迎える。

大会が終わると必ず打ち上げがあり、疲れた体でもスキップしてススキノへ繰り出した。
あの時のエネルギーの源はどこにあったんだろう。もう思い出せない。
最終電車に乗り遅れない様に、家路に着いた。
地下鉄駅から自宅まで、バスに乗らないと帰れない距離だったが、大抵遅くなった時は母か父が迎えに来てくれた。

部員全員で海キャンプをしたり、みんなでドライブへ行ったり、学校近くの後輩の家に上がり込んで朝まで飲んだり。これぞ大学生という時間を過ごした。
青春だった。


私は短大だったが、社会人になってもリーダーが4年生最後の1年は大会に出場し、全国大会出場のため仕事を休んで東京へ行った。
彼は就職が決まり実家を出て一人暮らしを始めたが、不便な場所だったので
車を持っていた私が、休みの日に泊まりに行く社会人同士の付き合いになっていた。

波乱の人生〜序章〜へつづく

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