人がジェンダーから解放され進化するたった一つの道。アリとハチから学べる事。
人間は、社会を作る動物である。それゆえに、社会的動物と呼ばれる。同様に、犬のように、群れのボスのヒエラルキーを中心とした動物、ボノボのように性愛を契機として群れを形成していく動物、これらも社会的動物と言われる。
このような、比較的高度な知能を持った哺乳動物だけが社会を作るわけではない、実は、私たちの身の回りには非常に高度な社会を形成する動物が居る。それが、アリやハチである。アリやハチは、女王を頂点として、餌の獲得、幼虫の飼育、巣の防衛、いざというときの予備要員といった様々な仕事を分担し、巣という社会を維持している。これらの動物を真社会性動物という。
この記事では、ジェンダー問題のそもそもの根幹から見つめなおす中で、その根本的な問題をいかにして克服可能かということについて議論していく
生まない人々
世界的に少子化が止まらない。そんなバカなと思うかもしれない、発展途上国では子供がいっぱい生まれているのではないかと考えている人も居るのかもしれない。しかし、実のところ、合計特殊出生率は下がり続けている。後発発展途上国が多いアフリカにおいても、1950年代から70年代にかけて、6.5~6.7を記録していた合計特殊出生率は、2010-15で4.73にまで下がっている。先進国になると暗澹たる状況である、西ヨーロッパは戦後しばらくしてからは2以上だったものの、2010-15で1.573となっている。ちなみに、これは比較的多産と言われる移民の影響を含んだ数字である。アジア諸国に目を向けてみよう、カトリックが強く避妊や中絶に拒否感があるフィリピンは2010-15で3.05と比較的高い数字を出している。しかし、そういった宗教的な制約の無いベトナムになると2010-15で1.962と大きく下げている。なお、日本は移民も少なく2010-15で1.409となっている。(数字はいずれも国連から)
合計特殊出生率は医療などの状態にもよるが、日本の場合2.07を下回ると、人口が減ると言われている。男女はほぼ1:1で生まれるので、当然に女子が一生の間に二人の子供を産まなければ、絶対に人口は減少するし、それよりも少し多く生まなければ成長過程での死亡や男子が僅かに多く生まれる分をカバーできない。
実は、人類規模で、世界的に少子化が進んでいるのである。
そして、合計特殊出生率は、様々な数値とリンクするように減っている。それは、経済や文化の発展、女子教育の浸透、女子の経済力の獲得などである。サハラ以南のアフリカなどで行われているエッセンシャルな女子の権利向上運動は、多産のリスクや資源が分散する問題点を認識させ、より良い生活を得るためのバースコントロールを生み出している。そして、経済と文化の発展に合わせ、男女平等が広がり、結婚や出産に対する社会的圧力が減少することになり、あるいは、女子が自らの持つ情報や、今まで付き合ってきた男と比べて、大したことない男と結婚するインセンティブが減少した。
筆者がOECD各国のジェンダー開発指数と、合計特殊出生率をプロットしたところ逆の相関が見られており、この点からも、ジェンダー平等や女性の解放というものは、出生を阻害していることが明らかである。
用語解説:合計特殊出生率
合計特殊出生率とは、女子が一生の間に産む子供の数を統計的に処理するための指標。いわゆる、単に合計特殊出生率と言われて報道されているのは、期間合計特殊出生率と呼ばれる。期間合計特殊出生率は、例えばこの1年で15歳の母親から生まれた子供が〇人だとして、それを15歳の女子人口で割る(おそらく、非常に小さい数字になる)、そして16歳の、17歳のと、49歳まで全て同じように、生まれた子供と母親の数を割って計算し、その数字を足した数。全ての年齢の女性の出生率(子供を産む率)を足すので、その計測期間(この場合は1年の)の、アクチュアルな女性の子供を産む動きが分かる。
もう一つ、コーホート合計特殊出生率と言われる指標がある。これは、1985年に15歳の母親から生まれた子供が〇人だとして、それを1985年の15歳の女子人口で割る。次に、1986年の16歳の母親から生まれた子供の数を、1986年の16歳の女子人口で割る。これを同じように2019年に49歳の母親まで計算し、全てを足した数値である。これにより、1970年生まれの女子は、一生の間に何人ぐらい子供を生むのか、というのが分かる。この数字を得るには35年もかかるが、実際のところ、子供の数というのは、その世代によって全然違うので、より人口を見定めるには有効な指標である。実は、この指標を基に、将来人口の推計は行われている。
不妊の階級
このような社会環境の中で、先進国や一部の途上国で、恋愛や結婚をせず、子供を持たない人々が出現してきた。
恐らく、日本においては、これは不可抗力的な結果という部分がある。それは、氷河期世代の存在である。いわゆる就職氷河期に当たった世代は、需要が冷え込む中、その親世代である団塊世代を食わせるために、正規の仕事にありつけなかったり、安い賃金のまま据え置かれるなどの目に遭い、そして、結婚をせず、子供を産まなかった。しかし。そのような状況でも娯楽や生きる目的のような何かが無ければ、人は生きていけない。実は、それは自宅に居ながら楽しめ、数万円の消費でも満足を味わえる、オタク消費やジャニーズ、そしてネオパチンコたるソシャゲーなどの存在である。バブル時代のスキーやゴルフ、エンスーはあまりに高価すぎたのだ。
日本は、このような形で団塊の世代に次いでボリュームゾーンを占める団塊ジュニア世代=氷河期世代の消費活動にフィットした消費者経済を発展させていく。いわゆる「お一人様の時代」というやつである。
実は世界的な少子高齢化も同様の構造が見て取れる。それは、経済のグローバル化に伴う、先進国~ある程度発展した途上国の労働者の相対的な価値の低下である。今は、ヨーロッパにおいて、若者が仕事を得ると言うのは、非常に困難な作業と化している。何か月も無給のインターンを勤め、それでやっと採用されるかどうかという話は枚挙に暇がない。アメリカにおいては、ラストベルトと呼ばれるような白人ブルーカラーが働いてきた工業都市が良い例である。途上国はまだ夢があるというのも、それほど当たっていない。ある程度発展した途上国では、若者は良い仕事を得るべく四苦八苦し、多くの場合それが適わないまま、あまり割の良くない仕事で燻る羽目になっている。
このような中で、私たちは一つの存在を感じることができるのではないだろうか? 「不妊の階級」というものの存在を。
真社会生物になれない人間
「不妊の階級」というのは、ハチやアリなどの真社会性生物における、いわゆる働きアリや働きバチのことである。真社会生物は女王という、群れで唯一無二の存在しか産卵しない。働きアリや働きバチは、特別な例を除けば産卵する能力が無く、このような存在を不妊の階級と呼んでいるのである。この存在こそが、真社会生物を真社会生物たらしめていると言われている。
さて、しかし、実際に合計特殊出生率が世界的に下がる中で、不妊の階級というのは出来てきているのかもしれない、というのは考えられたとしても、人間社会には女王が居ないという最大の問題がある。一人の女性が一生の間に出産できるのは、せいぜい5人から10人程度な上、多産は早期胎盤剥離の原因となる。すると、私たちは、より多くの女性に子供を数人産んでもらうという戦略を取らざるを得ない。しかし、多くの女性は、命をかけてまで、あまり大したことが無い男の子どもを産みたくない。どうすればいいのか?
一つの手段は、実質的にハーレムを形成することである。国などによる出産・子育て支援を極大化することにより、女性のお眼鏡にかなう男性の子どもを持ち、その男性が子育てに協力しなくても問題なく生活できるようにするという方法である。これは、不可能ではないにせよ、恐らく政策的には非常に困難で、多数を占める独身者の反発も招く。そして、実際のところ、多くの女性は子育てへの協力をある程度重視し、その上で出産をしている。
一つの手段は、婚活パーティーのようなものを開催したりすることである。まあ、これに意味が無いとは言わないが、はっきり言って焼け石に水にしかならないであろうことは想像に難くない。
一つの手段は、旧ソ連で行われていた母親英雄ように、多数の子どもを産んだ女性に勲章と、それに伴う年金や特権を与えるという手法である。ただ、旧ソ連が行ったこの施策は、恐らく伝統社会が継続し元々多産だった少数民族の女性ばかり勲章を貰うことになったという結果になっている。恐らく、今同じことをやっても同じことになるだろう。
一つの手段は、男性にフェミニズムを教育し、より助成に好ましい男性を増やすことである。しかし、はっきり言って、これは全く意味が無いだろう。女性が性的に好む男性と、フェミニズムに対する認識は全く関係が無い。(なお、OECD各国のジェンダーギャップ指数と合計特殊出生率には正の相関がある、これは恐らく出産・育児支援が制度化されやすいため)。もちろん、有害な男らしさを捨て、ホストやスカウトのように、女性に対して優しく振る舞い、女性の気持ちに寄り添うような態度を取り、男らしさ2.0を得ることがフェミニズムだとすればその限りではないが、そんなものは不可能だろう。
恐らく、人類は今のところ、この少子化をうまく解決する手段を全く持っていない。
希望
実は、今はどうしようもないが希望はある。
これは、受精卵からの人工子宮ではなく、未熟児状態から人工子宮で保育をすることに成功したという事例だが、人類の技術というのは日々進んでいる。つまり、いずれ、受精卵を人工子宮に着床させ、子供を産む機械で出生数をコントロールすることが可能になるという可能性があるということである。政府が女王となり、精子や卵子を抽選などを基に採取し、税金により子供の面倒を見ることができれば、それは少子化を完全に克服したことになる。
そして、その時にこそ、人々は生殖の呪縛から解き放たれ、人は真社会生物へと進化し、不妊の階級をして安寧を得られると筆者は考えているのである。
いつもありがとうございます!