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「The Person You Mean to Be」 Dolly Chugh 著

人は、限定倫理的に物事を判断して、限定合理的に行動を決定します。そして「限定」の範囲は非常に狭く、99.999996%の情報が無意識に追いやられているのです。つまり、人は、0.000004%の情報だけを経験的に選択しているのにすぎません。たぶん、これが自我の大きさなのでしょうね。


そんな狭い範囲での判断で、自分が完璧に正しいと考えるのはおこがましいのです。われわれにできることは「(完全に)いい人」になるのではなく、「いい人に向かう人(good-ish people)」になることです。そのためには、固着したマインドセットではなく、成長指向のマインドセットであることが大切です。成長指向のマインドセットの人は、失敗をカバーアップするよりも失敗から学ぼうとします。また、人を言い負かそうとするのではなく、よく人の話を聞こうとするのです。そして、彼らはbelieverに留まるのではなくbuilderなのです。believerである間は、単に想いを馳せるだけですが、builderは行動します。行動はスモールステップでいいのです。


believerがbuilderになるのを妨げる4つの因子があります。それは、救済モード、同情モード、価値観強要モード、型はめモードの4つです。


まず救済モード(Savor mode)は、他者を助けるということで、いい気持ちになってしまうことです。「あなたのためよ!」で他者をコントロールしちゃうなんてことはよくあることで、要は、自分の価値観世界観を他者に押し付けることになってしまいがちなのです。


同情モード(Sympathy mode)は、救済モードに似ていますが、より問題解決に向かわない傾向です。このモードの人たちは、問題を持っている人に対しては同情するが、彼らがコンタクトしてくるのを嫌うのです。あくまで上から目線であり、同情はしていても、相手の気持ちを自分のことのように感じる共感はないのです。


価値観強要モード(Tolerance and Difference-Blindness Mode)は、違いを見ない傾向です。「みんな同じで、みんな天使なのよ!」っていうタイプです。違いはあるのです。違いがあってその違いに苦しんでいる人もたくさんいるのです。違いを認めず、みな同じという価値観を押し付けるのは、自己満足的な暴力と言えるでしょう。


型はめモード(The Typecasting Mode)は、たとえば「巨人軍ファンに悪いやつはいない」みたいな傾向です。根拠もないのに人をジャッジしてしまうモードです。


この4つのモードと対極にある姿勢は、好奇心を持ち、興味を持ち、関わろうとする姿勢と言えるでしょう。


builderになるためには行動を起こすこととのことですが、行動のやり方には工夫が必要です。


まずは、対決よりも、話を聴くということです。対決しても物別れに終わることが多いからです。ちょっと気分が悪くなっても、相手の主張を聴いてみるということですね。その上で自分の意見を述べるのです。


著者は、20%の人は今の世界に固着しようとし、20%の人は現状に満足せず改革しようとするといいます。前者をstuck20、後者をeasy20、そして明確な意思を持っていない60%をmiddle60と、著者は呼んでいます。著者によれば、easy20は、stuck20と直接対決するよりも、middle60に語りかける方が効果的だろうと言っています。


僕は、著者の考えに納得する部分もありますが、そこから考えることがいくつかありました。


まず、easy20とstuck20は表裏一体だろうと思うのです。例えば幕末で尊王攘夷を叫んでいたeasy20が、明治維新後stuck20に変貌してしまったような例はたくさんあります。


また、middle60に話を聴いてくれる空気があればいいのですが、stuck20の強力なプロパガンダに洗脳されてしまっている場合は、だれも話を聴いてくれないかもしれません。


さらに言えば、easy20がmiddle60を洗脳してしまう場合もあると言えます。easy20が力をつけてきて、大衆であるmiddle60が変革に熱狂するときです。こうした場合がもっとも危険だと言えるかもしれません。ナチスの台頭してきたときは、そういう状態だったのではないかと思います。実はナチスは、easy20だったのではないかと、僕は思います。


middle60が暴走しはじめると、止めることはほとんど不可能です。「話せばわかる」が通じない状況に陥ってしまいます。


僕は、easy, middle, stuckの他に、状況を俯瞰的に見ることができるwatcherが必要だと考えます。例えばマスコミは、watcherの役目を担うはずです。そして、watcherが健全な社会では、自浄作用もあるでしょうし、変革も平和に行うことができるでしょう。


しかし、それができるほど、人間はまだ進化していないのかもしれません。

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