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「僕には数字が風景に見える」 ダニエル・タメット著 講談社文庫

良い本に出会いました。

著者のダニエル・タメットは、共感覚の持ち主で、サヴァン症候群でアスペルガー症候群と言われていました。


彼は、数字を見ると色や形や感情が浮かんで来ると言います。1は明るく輝く白で、89は舞い落ちる雪、11はひとなつこく、1179は堂々とした数字で、581はこじんまりしているのだそうです。素数は滑らかで丸いので、例えば1979が素数であることが彼にはわかります。こうした感覚は、共感覚と呼ばれる現象です。


サヴァン症候群とは、ダスティン・ホフマン主演の映画「レインマン」で有名になった、記憶、計算などに驚異的な才能を示す現象です。本書の著者のダニエル・タメットは、例えばπの小数点以下22514桁まで、ひとつの間違いも犯さず暗唱することができ、類稀なる語学能力を示し、スペイン語やドイツ語やフィンランド語やアイスランド語などを、あっという間にマスターします。世界で最も難しい言語のひとつと言われているアイスランド語を1週間でマスターしてしまいます。


そして、アスペルガー症候群であるため、きちんとした決まりがあることには対応できるのですが、行間が読めず、少しでも決まりと違うことが起こると混乱してしまいます。


そんな彼ですから、学校では仲間外れになりがちで、いじめを受けたり、人とうまく話せなかったり、同級生と上手に付き合えなかったりしたために自信を持てずに過ごすこともありました。


そんな中、彼は、ひとつづつ困難を克服していきます。バスにも乗れなかった少年が、やがては一人でイギリスからアメリカに行くのです。


彼が、ひとつひとつチャレンジをして行くことができたのは、何人かの人たちが暖かく彼を受け入れたからかもしれません。彼は、自分がゲイだということに11歳の時に気づき、16歳の時に初めて同級生に告白し失恋します。しかし、その相手の同級生がいいやつだったのですね。彼は、優しい口調で、「きみの求めるような人間にはなれない」と話し、その後、ダニエル少年がこうべを垂れて歩き去るまで辛抱強く見つめていてくれたのだそうです。リトアニアでのボランティアで知り合ったアジア系のグラルチャンという女性は、ダニエルがゲイであることを知ると、「自分から進んで厳しい道を選んだあなたは偉いわ」と彼を励まします。


やがて、ダニエルは、レインマンのモデルになったキム・ピークに会うことになるのですが、その場面は感動的です。ダニエルが自分の誕生日を「1979年1月31日」と答えると、キムは「65歳になる日は日曜日だね」と答えます。そしてキムの誕生日が「1951年11月11日」と聞くと、ダニエルはにっこりして「その日は日曜日だ!」と言います。いいシーンです。


そして、ダニエルは恋人のニールと暮らすようになり、エッフェル塔の上から見晴らすような、夜空に流れ星を見るような、完璧な安らぎと絆を感じる瞬間を、ときおり味わえるようになります。その瞬間は、天国をかいまみるということなのかもしれないという言葉が、この本のエンディングです。


暖かい静かな感動をもたらしてくれる本でした。


そしてそして、この本の専門的な表記などのチェックをして、文庫版あとがきを書いているのは、精神科医でハートコンシェルジュの顧問の山登敬之先生です。




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