「裏切り者の中国史」 井波律子 著 講談社学術文庫
中国の歴史の中の裏切り者たちについての本。
どんなに挑発されても動かず相手が弱るのを待ち、いざ攻撃に転じると徹底的に敵を殺戮する司馬懿には凄みを感じましたが、蟻地獄みたいで、お友達になりたくないですねぇ。諸葛孔明が病死してしまうので、結果的には司馬懿が孔明の攻撃を守り切ったと言うことになりますし、司馬一族は最後には中国全土を統一するので、司馬懿のやり方が、勝負に勝つコツなのかもしれませんが・・・。やっぱり、諸葛孔明や周瑜がいいなぁ。
残念と思うのが、唐の第9代皇帝玄宗ですね。
玄宗は一連の権力闘争によって荒廃した政治機構を立て直し、「開元の治」と呼ばれる安定した社会状況をもたらすなど、すこぶる英明な君主(p.179)でしたが、四半世紀の間最愛の女性だった武恵妃が死んで8年後に出会った楊貴妃に溺れてから転落が始まります。その時玄宗は61歳、楊貴妃は27歳です。結局、安禄山の反乱で蜀に逃げる際、兵士たちの楊一族に対する不満が爆発し、その不満を静めるめるために玄宗は側近の高力士に楊貴妃殺害を命じます。その後玄宗は2年生きますが、全くの孤独の中でこの世を去ります(762年)。
晩節は汚したくないものだと思いました。
その他にも晩年に美女に溺れて堕落しちゃう偉い方は多いようです。困ったもんです。
満州族の清に身を売り国を売り、清が中国全土を支配する契機を作った裏切り者と言われる明の勇将であった呉三桂(p.226)も、陳円円という女性に溺れたのが「裏切り」の契機だと言われています。国よりも愛する女性をとってしまったのですね。
呉三桂は、「国を売った人」として、何世代にもわたって「裏切り者」として糾弾されたのですが、じゃあ戦い続けるのがよかったのか・・・。
しかし、例えば、中国がモンゴル人に支配されていた元の時代、知識人が大衆芸能の分野に活路を見いだし、それが「西遊記」「水滸伝」「三国志演義」を生み出した(p.261)わけでもあるので、支配されても差別されても戦わずに平和を維持した方がいいのか・・・。
なかなか難しいテーマです。