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チケット転売は無くならない?その理由

初めまして。ヤマハでプロダクト、UXデザイナーをしている柘植と言います。ライブの真空パックをコンセプトにした「Real Sound Viewing」というプロジェクトをやっているのですが、そのプロジェクトをやっているとライブについて色々と考える機会がたくさん出てきます。その中で気づいたことを書きたいと思います。

人気ライブのチケット倍率は30倍!?

音楽が好きな人にとって大事なアーティストのライブ、コンサートを見れることは大きな喜びです。

しかし人気アーティストになればなるほどそのチケットはとりにくくなります。例えば星野源さんだと公演によっては当選確率が20%、米津玄師さんは14%ほどと言われています。7人応募して一人しかあたらないレベルです。さらに人気アイドルの卒業コンサートに至っては倍率が30倍にもなるほど。競争率が非常に高いです。(私自身もサザンオールスターズやPerfumeなど人気のアーティストさんのライブに何度も応募していますが、チケットが取れず見れていないライブがたくさんあります。。。)

その結果、ここ数年「チケット転売」がかなり問題になりました。中でもチケットキャンプを運営していたmixi子会社が不祥事を起こし、大きな問題になったことは大きくニュースにも取り上げられ、多くのアーティストがチケット転売反対運動を展開することにも繋がりました。

不正転売禁止法が6月 施行! チケット転売は無くなる?

この流れを受け、6月14日に「チケット不正転売禁止法」が施行され、主催者が認めている場合を除き、転売を行えなくなりました。これでチケットの高額転売をするダフ屋行為は大きく減ると思います。

しかし、私はチケット転売問題の本質はこの法律では無くならないと思っています。なぜならチケット転売問題の本質は需要と供給の不一致だからです。

チケットが転売されるのも、高額になっても売れてしまうのも「大好きなアーティストのライブが見たい!」と思っている人の数に対して、供給されるチケットの数が圧倒的に足りていないのです。(実はアメリカではニーズがあるなら高くなるのは「市場原理でしょ?」というスタンスでチケット転売が普通に行われています。)

「音楽の進化」の歴史とチケット転売問題

そしてこのチケット転売問題の根っこは音楽の発展の歴史そのものにあります。その歴史の変遷を超ざっくりまとめてみたいと思います。

19世紀 「音楽を聴く=ライブを見る」時代

エジソンが蓄音機を発明するまで、音楽とは生演奏のことでした。またこの時代はまだ電気が普及していない時代です。音を大きくするマイクやスピーカーも無く、楽器の生音がそのまま観客の聴く音でした。当時一番大きいヨーロッパのホールでも1,000人超が最大席数だったようです。この時代までは「音楽を聴く人」と「ライブを見る人」の人数がイコールの時代です。

蓄音機発明〜普及の時代

1877年にエジソンが蓄音機を発明し、人類史上初めて「録音」し、一般家庭で音楽を「再生」することができるようになりました。この後30年間で技術、生産も進歩し数十万枚のレコード(SP)が販売されました。同時にそれまでイコールの関係だった「音楽を聴く人」と「ライブを見る人」の数が、「音楽を聴く人」>「ライブを見る人」の関係になっていきます。1883年には1,000台のレコードプレイヤーが販売されます。アメリカ人口  6,300万人だったので0.001%程度です。

ラジオが発明された時代

1922年にラジオ放送が始まり、さらなる変化が起こります。それまでは音楽を聴くためには1曲ごとレコードを買わなければならなかったのが、ラジオさえ買えばどんどんと新しい音楽が聞けるようになり、ラジオが爆発的に普及します。1932年のラジオ販売台数は230万台、当時のアメリカの人口 が1億人なので2.3%程度です。

「音楽を聴く人」>>「ライブを見る人」

テレビが発明された時代

それまでは「聴く」だけだった音楽に今度は映像が加わり、音楽を「見る」ことが可能になります。音楽番組も増え、有名になるアーティストも一気に増えていきます。1973年に1,700万台のテレビが販売されます。当時のアメリカの人口が2.3億人なので7.3%程度です。

「音楽を聴く、見る人」>>>「ライブを見る人」

インターネット配信、ストリーミングの時代

音楽がインターネット上で配信される時代になり、iTunes, Youtube, Spotifyが主戦場になります。世界中の人がどんな音楽でも、何回でも自由に聞けるようになり、人類史上で一番音楽が聞かれる時代と言えるでしょう。2018年にSpotifyで一番再生されたアーティストはラッパーのDrakeで再生回数は82億回超です。

アメリカの音楽ストリーミングサービスの利用者約1.8億人、人口は3.2億人で56%です。

「音楽を聴く、見る人」>>>>>>>>>>>>「ライブを見る人」

これを踏まえて音楽を聴く人の伸び率のイメージはこんな感じになります。

ライブのキャパシティーは?

音楽を聴く人の人数や回数は技術とメディアの進歩で数億、数十億にまで増ました。では一方でライブのキャパシティはどの程度進歩したのでしょうか。
音楽の録音、再生の進歩と同じように、ライブもスピーカーや音響機器の進歩によって進化をとげ現在では5万人程度のスタジアムでコンサートが行えるレベルまできました。1800年台の大きなホールのキャパで1,000人程度だったので50倍です。

しかし!これに対して音楽を聴く人は桁違いで増えたのです。

仮にラッパーのDrakeが1800年に最大のホールで年間100回コンサートをやったら1,000人 × 100=10万再生ですが、2018年Drakeの再生回数は82億回です。8万2千倍です。

先ほどのグラフに重ねるとこんなイメージなります。


その差は絶望的なほどに歴然です。

エド・シーランがYoutubeのフォロワー全員にライブを見てもらうには?

もう一つ例としてシンガーソングライターのEd Sheeranで考えてみたいと思います。彼のYoutube のフォロワー数は3,200万人です。またEd Sheeeranは超メジャーにもかかわらずライブを非常に積極的に行うアーティストとして有名です。2018年は日本を含め世界中を巡り71公演を行いました。

仮に東京ドーム規模の4万人の会場で71公演を行うと280万人のファンがライブを見れます。しかしフォロワーは3,200万人。全員が見れるように公演をするには11年と3ヶ月かかります。

「Ed Sheeranのチケット取れたよ!」

「すごい!いつの公演?」

「11年後の東京ドーム公演!」

「・・・。」

という感じです。

じゃあ公演回数もっと増やせばいいんじゃない?という意見も聞こえてきそうですがアーティストも生身の人間です。休みが必要です、移動も体力使います、体調も崩します。1年を数十カ国周り、71都市で公演ですら相当なパワーが必要です。

チケット転売問題の本質

最初の主張に戻ります。「チケット転売問題の本質は需要と供給の不一致」です。

150年の進化で音楽が色んな聞き方でいつでもどこでも聞けるようになりました。トップアーティストは80億回以上の再生数を稼ぎ、19世紀の数万倍の聴く機会が音楽好きな人達に提供されるようになりました。
その何十億回と再生された音楽を聴き、見て、アーティストの音楽が好きになれば、その人のライブを見たくなるのは人間の自然な感情です。

しかし、生身のアーティストがライブできる回数は限られています。結果的に起こるのは「非常に大きくなったライブへの需要」と「実際にライブが行える限界=ライブの供給」の不一致です。これがチケット転売問題の本質的な問題です。

問題を解決するには?

これからも音楽の配信は進化を続け、もっと多くの人がいつでも、どこでも色んな音楽を聴けるようになっていくでしょう。今のままではライブの供給は変わらないまま、需要だけがのびていきます。

私が今進めているプロジェクト「Real Sound Viewing」 はこの課題を解決しようとしています。今まで見たくても見れなかった、ライブの体験を、VRやARを使わずに、限りなく本物に近い形で保存し、その空間を再現する仕組みを作っています。この仕組みはリアルタイムで「見たくても見れないライブ」だけではなく、解散してしまったり、亡くなってしまったり、様々な理由でライブが行えなくなったアーティストのライブを保存して後世に伝える仕組みにもなります。
最終的には美術品や工芸品のような数十年、数百年と名作を残せる有形文化財のように、名ライブ、名演奏を無形文化財として数百年残していけるようにしていきたいと考えています。

DesignshipというイベントでReal Sound Viewing のプロジェクトのプレゼンをした記事があるので興味を持ってくれた方はこちらを読んでください。

プロジェクトの動機

このプロジェクトを始めた原体験は高校のときに見たBlankey Jet Cityというロックバンドの解散ライブです。このライブの迫力に大きな衝撃を受け、私の人生が変わってしまったという経験と、同時に会場の周りにチケットが取れなかった人たちが集まり、たとえ会場に入れなくてもその場にいたいと思う人たちが非常に多かった様子が目に焼きついています。ライブには人生を変えるほどの力があると同時に見たくても見れない人たちが大勢いる、この課題を解決したくてこのプロジェクトを推進しています。

引き続きnoteでプロジェクトで考えていることや情報発信をしていきたいと思うので興味を持っていただけた方はフォローいただければと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました!


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