(美しい言葉)

「美しい言葉というものを人はすぐに忘れてしまうのですよ。」

誰かが、こう言ったのが始まりだった。

以来、人々は「美しい言葉」をノートに記録するようになる。

こうして自称“詩人”達が世にあふれ、

言葉は世界中に氾濫した。

それらの言葉は本となって出版され、テレビによって放送され、新聞によって報道された。

街中に言葉があふれ、文字は都市のあちこちに堆積した。

人々はやがて有り余る言葉に興味を失い始める。

あふれる言葉はゴミとなり、人々は言葉を廃棄し始める。

やがてあらゆる言葉が廃棄され、空っぽになった街のどこかで、

誰かが思い出したようにこう呟く。

「一体美しい言葉というものは、どこに転がっているのだろう?」

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