コングロマリット

 東芝が事業を3分割して、それぞれ上場会社にすることを正式に発表しました。また、それに先立ち9日(現地時間)には海を越えた米国でもかつての巨大企業GEが同じく3分割してそれぞれ上場会社になることを発表しています。

 2社に共通するのは、不祥事やM&Aの失敗等により、業績が停滞又は成長しないため、株主からの要求もあり、追い込まれての「分割」であるというのが実際のところではないかと思います。

 さらに、背景には「デジダル時代」「第四次産業革命」もあるのではないかと思います。産業分野ごとに技術革新や成長スピードには大きな違いがでてきており、各分野での経営判断はスピードを求められています。

 経営者が巨大な複合企業の多くの事業を同時に経営することは難しくなってきているとも言えると思います。

 これまでの主流は、不採算事業や非中核事業の「事業売却」でした。日本でも日立やパナソニック、ソニーなどもこれまでに多くの事業を売却してきています。もちろん、東芝もGEも行ってきました。

 GEは11月1日に金融事業の売却が3年がかりでやっと完了し、株式市場でも今後の業績伸長が期待されていましたが、わずか8日後に「分割」を発表しています。

 今回のような「会社分割」を「スピンオフ」とも言います。スピンオフを実行して株主に本当に利益をもたらすかどうかは分割時点ではわかりません。分割後にそれぞれの会社が成長しなければ、「果実」を得られないということです。

 例えば、X社の時価総額を1,000億円とし、これをAの事業を行うA社(元のX社をA社として存続)とBの事業を行うB社とCの事業を行うC社に分割する場合、A事業を500億円、B事業を300億円、C事業を200億円と評価し(合計額はX社時価総額に相当)分割すると、元のX社の株主は、B社、C社の株を割り当てられる(無償)ので、分割した瞬間は各株主に損得は発生しません。

 また、分割の瞬間は元のX社の株主構成と全く同じ株主構成のA社(元のX社)、B社、C社の3社が誕生することになります。(増資等を並行して行えば変化します)

 すなわち、分割直前に1株1,000円だったとすると、A株は1株500円、B株は1株300円、C株は1株200円になるということになります。

 その後、A株が800円になり、B株は400円、C株は200円(同額)になったとすると合計で1,400円になるので「果実(40%の利益)」を得たことになります。

 逆に、A株600円、B株200円、C株100円になったとすると合計900円で損(-10%)ということになります。(実際には成長が無いと思った会社の株式を売却する行動を起こすのが普通です)

 日本では過去に1社しか例がありませんが、欧米では多くの例があり、分割後の時価総額が合計で増える例ばかりではありませんが、日経記事によれば「S&P米スピンオフ指数」のパフォーマンスは市場平均を上回っていると報じています。

 日本の上場会社で唯一の例(2020年3月)であるコシダカとカーブスは現時点では約10%弱分割前より価値が上がっています。

 成功例としてよく言われるのが独シーメンスであり3分割後の合計時価総額は分割前に比べて約2.5倍になったと言われており、さらに有名なのはイーベイからスピンオフしたペイパルです。逆に米デュポンは3分割後約90%に落ち込んでいます。

 各種報道などでは、「コングロマリットディスカウント」の解消と言われることが多いと感じますが、「コングロマリットディスカウント」が発生する又は発生していると言われる企業は、基本的に抱えている事業の相互の相乗効果が出ていないからであったり、望めないからであり、かならずしも「コングロマリット」が悪いわけではないということを認識することが大切であると思います。

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