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人見知りが人違いされた話

今年で51歳になるが、いい歳こいて人見知りである。更に、割と派手な見た目をしているが、かなりの引っ込み思案である。

子供の頃から人見知りの引っ込み思案ではあるが、引きこもりでもニートでもないし、あがり症でもない。その証拠に27年前にSOPHIAというバンドを組み、運よくプロデビューし今でも人前で演奏している。

そう、俺は人見知りで引っ込み思案ではあるが、それは他人とのコミュニケーションに少し時間が掛かるだけで他者を拒絶する訳ではないのだ。しかし、その人見知りと引っ込み思案が招いたレアな体験がある。
 
SOPHIAとしてデビューする直前、1995年6月のLIVE TOURで北海道札幌に行ったときの出来事。まだ飛行機移動など出来ないペーペーだった俺たちはフェリーで北海道に行っていた。北海道公演の場合、ライヴの前日に行って泊り、翌日の本番終了後にそのまま車で港に行き、フェリーに乗って移動することが多かった。いわゆる“前乗り”というヤツだ。

フェリーを降り、機材車で札幌の外れにある安いホテルにチェックイン、その日は丸々OFFになる。あの頃、OFFの時間のほぼ全てをパチンコに費やしていた俺は、部屋に荷物を置いてそのまま腰まである長髪をなびかせ、パチンコ屋を求めてすすきの方面へ向かおうとホテルを出た。

ここで事件が起きる。
 
ホテルの自動ドアが開いた瞬間

「○○選手ですか!握手してください!!」

と20人くらいの男の子たちが大興奮で話しかけてきた。

「すっげー!○○選手だ!」

と口々に言っているのだが興奮故に早口で、その「○○選手」が聞き取れなかったが、少なくとも俺のファンではないことだけは分かった。
そして興奮状態の若者に次々に笑顔で握手を求められた。

一筋の悪意もない笑顔の暴力である。意味も分からないまま一瞬で“興奮のるつぼ”の中心になってしまった人見知りの俺には為す術がなかった。後で知ったのだが、この日は同じホテルに格闘技団体が宿泊していて、その団体の選手と俺を勘違いしたらしい。
 
完全に気後れした“人見知りかつ引っ込み思案の俺”は「人違いです」の一言が言えないまま全員との握手をする羽目になった。こうなったらこの地獄から一刻も早く脱出するために手短かに握手を済ませ、足早にその場を去るしかない。

うつむき加減で声も出さず「早く終わってくれ」と祈りながら全員との握手を終え、立ち去ろうとした刹那、「サインください!」の声。

アホか!今の俺が誰設定なのかも分からんのに何を書けと言うのだ?なぜ俺を泥沼に引きずり込もうとする?
「時間がないんで…」と今からパチンコに行くクセにその場凌ぎの嘘を吐いて立ち去ろうとすると、そこに「一緒に写真お願いします!」と悪魔の一言。
 
…なんだと?そんなことして誰が得するんだよ。このままで終わらせておけば幻の○○選手と握手した思い出だけが残るじゃないか。しかし「俺も!俺も!」と騒ぎ始め、結局全員で集合写真を撮る事になってしまった。なんだここは?蟻地獄か?
 
撮影と言っても、まだ携帯電話すら一般的ではない時代。カメラはもちろん懐かしの「写ルンです」である。逃げ出したい!という俺の心の叫びは誰の心にも届くことはなく、ホテルの入り口を完全に塞ぐ状態で若者たちが俺を囲む。
もう観念して顔がバレないように長い前髪を顔の前に垂らし、うつむき加減で乗り切ろうとした刹那、また悪魔の一言が聞こえた。写ルンですを構えた少年の
「ファイティングポーズでお願いします!」

…馬鹿か?お前は馬鹿なのか?一切の邪念のないキラキラした目で訴えてきているが、お前が懇願している相手は○○選手でも格闘家でもない、ただの売れないアマチュアミュージシャンなんだぞ!?
現像して出来上がった写真に写っているのは“20人以上の若者と一緒にファイティングポーズを取る、見ず知らずの無名のアマチュアミュージシャン”なんだぞ。
そんな俺の心のツッコミも虚しく、シャッターは次々と切られる。撮影が終わり、俺がそそくさと逃げるように立ち去るとき、満面の笑みを浮かべながら「ありがとうございました!」と叫ぶ彼らの声に俺の心が痛んだ。
俺は何にも悪くないんだけどね。

 
しかし、気になる。○○選手…一体誰なんだ!?
当時、俺の髪はお尻に届くくらいの長さだった。そんな俺ほどの長髪の格闘家なんかいるのか?しかし、20人以上が一斉に見間違えることなどあり得るのだろうか?しかも、彼らとは10分以上は一緒にいたんだ。俺には永遠にも感じられたが。
ホテルで出待ちするほどのファンが見間違えるほどのその○○選手と俺は似ているのだろうか?
その後、いくら調べても該当する選手は見つけられなかった。
今でも狐につままれた気分だが、もっと気になるのは現像した写真を見て彼らは何を思ったのだろうか?という事だ。
ガッカリしただろうし、「誰だよコイツ」と逆ギレもされてると思う。
キレたいのは俺だがな。
 

28年ほど前の出来事だが、謎は解けないままだ。
これからも謎のままだろう。
 
○○選手…誰なんだろう…。
情報求む!


…と、記事を書いたのだが、あれから気になって改めて調べてみた。俺の記憶では当時のスタッフに事情を説明したときに「パンクラス(格闘技団体)が泊まってるらしい」と聞いたのだが、当時どれだけ調べてもわからなかった。

あれから27年以上の時が経ち、改めて考えてみた。

俺ほどの長髪の選手は格闘技の選手としては考えにくいし、俺は小柄ではないが格闘家と間違われるほどの体格はしていなかった。

「あれ?もしかして女子プロレスラーと勘違いされた?」

当時、腰まである長髪の俺は街でもよく女性と勘違いされていた。ナンパされたことも何度もある。大体、座っているときに女性だと思われ、話しかけながら近づいてきて俺が立ち上がるとビックリされるのが常だったが。

当時の俺は身長176cmで体重が70kgくらい。170cmくらいの少し体格のいい女性がヒールのある靴を履けば同じくらいになる。

「これは…もしや…」 

さっそく調べてみると、確かに1995年の6月に北海道で全日本女子プロレスが興行を行っている。

当時の選手を調べてみると…いました。いましたよ。

長髪で身長も体重も年齢も大きくは違わない選手が。


それは「北斗 晶選手」!!


う~ん、これは納得せざるを得ないかな。当時の北斗選手はデンジャラス・クイーンと呼ばれ、イカついメイクをしてリングに上がっていて、ノーメイクの北斗選手はみんな知らなかっただろうし。

北斗選手は当時、身長170cm(実際は168cmらしい)で体重も70kg程度と俺とそれほど変わらない。

俺も休みだったのでゆったりした服装だったことを考えると…。


他にも、


「豊田真奈美選手」かも?


と思ったが、豊田選手は普通のお化粧なのでさすがに見間違えないかと。
でも身長も体重も北斗晶選手と変わらないし、長髪で髪の色も当時の俺に近い。何より年齢が俺と1つしか変わらない。
もしかしたら豊田選手の線もある?


確証はないが、状況的にはどちらも可能性はかなり高い気がする。

うん、違っていても自分的に腑に落ちたので良しとしよう。


しかし、ますますアノ写真の所在が気になる。


改めて、情報求む!

みなさんのお気持ちは毛玉と俺の健全な育成のために使われます。