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第3回 川島祐樹と豊島園から西高島平

写真企画「本当は嘘なんだ〜27枚だけ撮らせてください〜」
https://note.com/yoshiokahikari/n/n44e069495a88

寝坊をかますところから始まった。

朝日と一緒に撮ってみますか、と先に言い出したのは絶対に私で、寝坊OKにしましょう、ともし万が一川島くんが寝坊しちゃってもいいようにと思ってえらそうに言っていたのも絶対に私で、私は早起き得意なんですけどねみたいなことももしかしたら言っていたかもしれなくて、朝起きたら川島くんから不在着信が3回。私って。過去に戻れたら全ての発言を取り消したいし、遅刻すんのはおめえのほうだよと教えてあげたい。私が川島くんだったら、なんだんだよこいつ。となるけど、寝起き丸出しのガッサガサの声で「川島くん、今起きました」と正直に言うと川島くんは電話の向こうで笑っていた。ぼくもまだ家なんで大丈夫です、と。本当だったらいいけど、もしほんとはもう駅にいて私のことを永遠に待っていたのならどうしよう。

私って。

6時31分。
駅に到着して、改札を出ても川島くんはいなかった。そういえば待ち合わせ場所を明確には決めてなかった。とりあえずとしまえんの方に出ればいいかな、とエスカレーターを上がってるとき、「おはようございます!」と右っ側から聞こえて来て、ハッと顔を上げたら川島くんがいた。

今回撮影したのは川島祐樹くん。
去年の10月とか11月くらいに出会った俳優部さんです。
映画学校の同期が短編映画を撮ってて、川島くんはその作品に主演で出ていた俳優さんでした。
私はそのときは現場でちまちま美術などお手伝いをしているだけのスタッフだったのでたぶんおはようございますとお疲れさまですくらいしか川島くんと話したことがなくて、当時の話をすると、川島くんはその現場では私に嫌われているんだと思っていたらしい。嫌うも何もまだ他人…と、思ったけど言ってない。
そんな川島くんに今回の話を持ちかけた時は割と本当に緊張したわけで、さらに遅刻をかましたわけで、これはもう今日はとっとと27枚撮り終えて早く帰ろうと思いながら川島くんと、閉園したとしまえんの入口を見ていた。
豊島園で撮りたいと言ったのは川島くんだった。遊園地はもうないことを承知で待ち合わせし、遊園地の前は10秒で通り過ぎて歩き始める。

この時点で私が川島くんについて知ってることは3つ。
1、さわやかな好青年(に見える)
2、人見知りなほう(らしい。本当か?)
3、遅刻しても怒らない(NEW!)

川島くんは、歩くのが好き。
最寄り池袋ですってふざけて言ってたけどほんとは中野とか練馬とかのほうに住んでいる。でも池袋で降りて40分かけて歩いて帰ってるらしい。それって最寄り?
最寄りは自分で決めるんです、と、名言っぽいけどちょっとよくわかんないことも言っていた。
池袋から家まで歩いて帰る途中、イルミネーションがあるらしい。木の先のあたりが電飾足りてないけど、その感じがまたお気に入りらしい。
あと、最近は2日連続たぬきを見たと嬉しそうに私に動画を見せてくれた。ほんとにたぬきだった。2日目のたぬきは速すぎて動画は撮れなかったけど、2匹でいたという。親子だったのかな、恋人だったのかな、たぬきって本当にいるんだ。

川島くんは、サッカー部だった。
私は高校生の時サッカー部がサッカー部というだけで話すのが苦手だったので、こんなにいい人オーラが出ているはずの川島くんに謎に感じる緊張感に納得した。サッカー部の人に対する偏見ですね。すみません。
念のため、ポジションどこですか、と聞いたら、センターバックです、と言われた。どこ。
センターバックは、ディフェンダーの真ん中にいる人のことらしい。フォーメーションによって位置は変わるけど、守りのリーダーみたいな人らしい。なんか凄そうで強そう。ディフェンダー。センターバック。
給食で1番好きだったのは赤飯で、渋いっすね、と言ったら「いや今の自分の好きな食べ物言っちゃっただけかも」と笑ってた。
吉岡さんは給食で何が好きでしたか、と聞かれて、真っ先に思いついた「海苔の佃煮」と答えると、それこそ渋いですね、と返って来た。
慌てて冷凍みかんも好きだったことを伝えた。何を慌てたのかわからない。
みかんといえば、川島くんは朝ごはんにみかんを食べてきたらしい。私から遅刻の連絡を受けて、とりあえずみかんを食べていたらしい。それを聞いてホッとした。ほんとは駅についてて永遠に私を待ってたんじゃなくてほんとに家にいたんだ、よかった。

川島くん、たしかに人見知りだと思う。
でも人懐こいほうの人見知りだと思う。
今回やっと気づいたけどこの散歩しながら写真を撮る企画、歩いている間は向かい合わせにならずに済む。
向かい合わせになるのは写真を撮る時だけだ。
向かい合わせは人見知りの敵。でもそれも27回乗り越えればいいだけ。
いい歳した大人が人見知りを自称するのは恥ずかしいけど、これは仕事ではないのだから許してもらおう。
私は川島くんとたぶん、まだちゃんと目を合わせていない。

川島くんって怒ったりするんですか、と彼が何回も人に聞かれてるかもしれない質問をすると、怒るってよくわかんないですね、と言ってた。最近いつ怒りました?と聞くと、うーん、と川島くんが考え込む。
これは話が広がらないやつだ。
通り過ぎたセブンイレブンの前におでんの旗が出ていて、私こないだおでんを食べました、というと、「僕もおでんが食べたくてセブン行ったんですけどおでんやってなくてそのコンビニ。おでんの旗出てたのに。何回かそういうことがあって。旗が出てるのに!」と川島くんは怒ってた。

真っ直ぐな道と斜めの道に分かれていたら、私たちはナナメの道を選ぶことにした。
道の先が見えない方が楽しいよね。たまに行き止まりにぶち当たり、とぼとぼと引き返してまた次のナナメの道を進む。
歩きすぎてもはや自分達が豊島園にいないことは分かっていたけど、とにかく歩いた。
途中神社を見つけて、お賽銭をした。コロナ対策なのかガラガラの鈴はなくて、私たちはリズム悪くぬるっとお祈りをした。本当は叩くんだよな。と思いながらそれぞれ静かに手を合わせた。
祈ることが思いつかずに「お疲れさまです」とだけ唱えたことを話したら、それはきっと神、吉岡さんの願い先に叶えに来てくれますよ、家の中に見慣れないものあったら多分神からですよ、と川島くんは言ってくれた。川島くんは何を願ったんですか、と聞こうかと思ったけど人の願いごとを聞くなんてあれかなと思ってやめた。

どういう流れでその話になったか忘れたけどちょっと恋の話もした。
川島くんは、わりとすぐ人のことを好きになるらしい。
それこそ昔は自分の彼女役の人を好きになったりしたこともあったけど、これはだめだ、とその気持ちを抑える癖がついちゃって今や好きがよくわからなくなったらしい。
僕はどうしたらいいですか?と聞かれたけど、多分確実に絶対に相談相手を間違えている。なぜ私に聞く。
もう別に抑えなくていいんじゃないですか?もう大人になったんだし、と適当に言ってみた。
一気にやめるんじゃなくって、少しずつ。あれだ。良い例えが今になって見つかったけど、怪我したとこを痛くないように手で押さえながら湯船に入って、少しずつ手の力を抜いていく感じ。
それにしてもすぐ人を好きになれるって素敵な才能だと思います。嫌いな人ばっかりより絶対いい。絶対そのままでいいと思います。
次は一緒にお化け屋敷に行ってもらえる人だといいですね。

4時間近くナナメの道を選んだりドンキの看板に向かってみたり勘で歩き続けた私と川島くんは、最後の1枚を撮る頃、西高島平にいた。
坂の多い町だった。坂を下りたり登ったり階段を下りたり登ったりしてた。西高島平って三田線の端っこですよね、初めて来たね、とか話しながら。
坂を登り切ったら景色のよい場所に出て、狙ってないけどエンディングっぽいかんじになった。
一度座ったら歩き疲れたのか2人してなかなか立てなくなって、しばらく景色をぼーっと見てた。
歩きすぎてハイになった川島くんは「良い企画だと思いますこれ」とかちょっと文章に書くのは恥ずかしいのでここには書かないけど散々褒めてくれた。ありがとうね、ありがとう。社交辞令じゃないっぽくてほんとの言葉で、嬉しかったです。
最後の最後に教えてくれたけど、川島くんは神社で「ちゃんと家に帰れますように」と願ったらしい。
西高島平から電車に乗って、地下に潜る瞬間を見ようとか何とか言ってたけど、2人して爆睡してしまったので見逃した。

川島くんと分かれて、家についたのはお昼過ぎだった。
私はコンビニで赤飯のおにぎりを買って帰った。
いつもツナマヨか高菜ばかりしか選ばない私が、初めて赤飯のおにぎりを買った。おいしかったです。ちょっと懐かしい味がした気がします。

足がとても疲れて、とても楽しかった。
落ち葉の中から鳩が飛び出して来て、川島くんが「ワァ!」って両足で跳んだのが面白すぎて今思い出しても笑えます。両足で跳んでる人を久しぶりに見ました。
その瞬間の写真を残せなかったことだけが悔しいです。笑い転げてる場合じゃなかった。これを書きながらまた声に出して笑ってしまい、喫茶店で隣の席にいた人がこっちを見ました。
あと、遅刻してごめんなさい。
川島くんおすすめの蛙亭の動画も今度観てみますね。
また散歩しましょう。

撮る人・文:吉岡晶
撮られる人:川島祐樹
Twitter https://mobile.twitter.com/yuki12___17
Instagram https://instagram.com/02yu_ki

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