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第5回 古川はると町田

写真企画「本当は嘘なんだ〜27枚だけ撮らせてください〜」
https://note.com/yoshiokahikari/n/n44e069495a88

インスタグラムでDMがきた。

神奈川で大学生をしながら、役者をしている、と彼女は言った。
丁寧な文面はようするにつまり、私に27枚撮って欲しい、ということだった。
正直、いったん見て見ぬふりをした。
どうしよう。
知らない女の子だった。会ったことない。話したことない。めちゃくちゃ丁寧なダイレクトメールだった。こっそりインスタグラムを見に行ったけど、まだ開設したばかりなのかあんまり写真はなかった。
でも変な人ではなさそう。
でも変な人じゃない人が、なんでまたわざわざ私に。
どうしよう。

1日返信を寝かせた私は、是非撮らせてください、と返信した。会ってみよう。
気まずかったら27枚を5分くらいで撮り終えてすぐ帰ろう。
元々、そういう企画なんだった。

町田は、ちょうど2人の最寄りの間くらいの駅にしようとして選んだ駅だった。
彼女は春に上京してきたばかりであまり東京をよく知らないし、私は上京してもうすぐ8年になるけど東京をよく知らないので、適当に話して本当に適当に何となく町田にした。
少し明るめの服を着てきて欲しい、とお願いしたら、カラフルなロングスカートがあるのでそれを着ていきます、と彼女は小さい声で言った。

どんなスカートか楽しみにして撮影日当日、町田に15時、今回は遅刻せず(当たり前ですね)待ち合わせ10分前に到着した私は西口の改札を出たセブンらへんにいますと連絡をする。
数分後、カラフルなロングスカートを着た女の子が、恐る恐る私に声をかけてきた。

こんにちは、明けましておめでとうございます、よろしくお願いいたします。

緊張した。
相手の緊張も伝わってきた。
歩きながらぺこぺこと挨拶を交わし、とりあえず出口を目指す。

人が多いですね。
ですね。

今回撮影するのは古川はるさん。
まったくまったく初めましての俳優部さんです。
この時点で私が古川さんについて知ってること。

1.神奈川在住の大学1年生
2.19歳

人のいない方に向かいましょうか、と私たちは初めての町田を頼りなく歩き始めた。
あ、ゴルフ専門店ですね、とか私は間に困るとひたすら目についた看板や店の内容を報告する人になってしまうんだけど、古川さんはニコニコと本当ですね、などと頷いてくれた。

お正月、実家には帰れなかったらしい。
家族に、帰ってくるなと言われたらしい。
そうだよね。
大学1年生のスタートは5月で、入学式はなかった。授業は全部オンライン。サークルの勧誘もオンライン。オンラインの勧誘てどういうこと?と思って聞いてみると、メールで勧誘が送られてくるらしい。
なんだかよくわかんなくてサークルには入ってない。
友達とかできました?と聞いてみたら、少しだけ、と返ってくる。
何もかもオンラインで、少しでも友達ができたってだけで頼もしい。
私が大学生で19歳の時は、オンラインでも何でもなかったけど友達作りに難航していた。

4年間このままはいやですね、と古川さんは言ってた。
4年後のことをぼんやり考えた。
今と全く変わってなかったら恐ろしい。
思い描いていた大学生活とはかけ離れた毎日を、古川さんは東京でひとり、側から見ればなんてことはないように過ごしている。
何と言ったらいいかわからなかった。
かける言葉は見つからず、励ますのも慰めるのも全然違うし、こんな状況じゃなかったら富士急ハイランドとか、2回くらい誘われててもおかしくないよね、と、的外れなことを言ってしまった。
古川さんは1回先輩に誘われました、と言った。
結局それは人数が多くて予定が合わなかったりコロナも怖いからとなくなったそうだ。

高いところは得意ですか、と聞いたら、はい、と返ってきた。
ジェットコースターとかは、と聞いたら、あの、上下のやつが苦手です、と返ってきたので、タワーオブテラーみたいな、と言うと、そうですそうです、と返ってくる。

歩き始めて数十分、長い長い滑り台を見つけた私たちは、なにあれ!!長!!とここにきて2人してテンションがあがり、滑り台に向かって歩き出した。
この間滑り台を滑ったけど、大人になって体重増えてるからか子どもの時よりめちゃくちゃスピード出て怖かったという話を古川さんにした。

2人でしばらく長い滑り台を眺めて、ふと古川さんが滑ってきてもいいですか?と言った。え、滑ってくれるんですか?(確かに滑ってる写真は撮りたい)はい、私、滑りたいです(きっぱり)。
長い長い滑り台を滑るための長い長い階段をゆっくり登って行く古川さんの後ろ姿は頼もしかった。

出会ったときにすでに気づきつつあったけど、古川さんは19歳とは思えないほど落ち着いた話し方をする。
19歳の大体の話し方レベルがよくわからないけど。関係ないかもだけど上京一年目でもホームシックにはそんなにならないというし、1人もわりと得意だというし、どことなく達観しているような、大人っぽい子だと思った。
そんな一見落ち着いた女の子が長めの滑り台に大真面目にスタンバイしてるって時点でちょっと面白い。
周りでは子どもたちが、今か今かと順番を待っている。

古川さんは、おもむろに滑り出した。
私は滑り台の下のところで手を振り、ヘラヘラしながらシャッターを切った。
相当おもしろかった。
うねうねと曲がる滑り台を、背筋をピンと伸ばした古川さんが滑りおりてくる。私はなぜ新年早々初対面の女の子が滑り台を滑るのを見守っているのか。よくわからなかったけど、滑り台の終わりの最後の最後、勢いあまって古川さんが前からコケたときの表情が忘れられない。めちゃくちゃ良い顔してた。
スーパーマンが飛び立つときみたいに、ドンッと前向きに飛んでった。

私も膝から崩れ落ちて笑っていたけど、本人が1番笑っていた。まだ残像が残ってる。
最高だった。空でも飛ぶつもりなのかと思った。飛べるかと思った。
せっかくおしゃれしてきたブルゾンを枯葉まみれにして爆笑する古川さんにつられて、しばらく笑った。

食べ物はお肉が好き。家族とする焼肉など、肉ならば基本何でも。
最近観た映画、Amazonプライムで、沖田修一の「南極料理人」。
本当はNetflixに入りたいけど、高いから諦めているらしい。
ちなみにジブリだと、絵が好きなのは借りぐらしのアリエッティで、内容も含めてだと千と千尋の神隠し。
吉岡さんは何が好きですか、と尋ねられ、今の気分だと猫の恩返しかなあ、というと、わあ私昔なれると思ってました、主人公と同じ名前なので、と嬉しそうに言っていた。
そうか、はるちゃん。確かにおんなじだ。

今は難しいけどいつか行きたいのは東北とか、北海道とか、北のほう。
山口県出身で、雪を全く見たことがないわけじゃないけど、雪がどっと積もってるところを見たいらしい。好きになるのは「人の好きなものを否定しない人」。
自分の好きなものを否定されると、悲しくなるから。
地図は苦手で、迷ってるのは自分なのにGoogleマップを疑う時がある。
友達と話す時は大抵聞き役。
あとはひたすら笑ってる人。友達とマクドで4時間とか喋ってたときも、ひたすら私が笑ってたって、と話してくれた。
確かに私と話してても、よく笑う。
基本の顔が笑ってる。

東京はよく知らないけど、出かけるとしたら下北沢。演劇を観に行ったついでに買い物をしたりする。
今日着てきたスカートも下北沢の古着屋で買ったもの。
着るの何回めですか?と尋ねたら、2回めくらいです、と恥ずかしそうだった。
かわいくて買ったはいいものの派手すぎていつ着たらいいかわからなくてあまり着れていなかったらしい。1回めはいつ着たのか聞いてみる。
近所を歩くときに。近所だったらいいと思って、と古川さんは言った。
よく似合ってると思います。と、やっぱり本人には言ってないけど、よく似合っていた。
でも私もお気に入りの服ほど人と会う時には着られないので思わぬところで古川さんとの共通点が見つかった。
記念すべきこのスカートの2回目の散歩に、ご一緒できてよかったです。
似合ってたよ。

歩き疲れた頃、2人で大判焼き屋さんの前を通り過ぎ、しばらく様子を伺うような空気の後、食べようか…?と誘ってみた。
古川さんは、食べたいです、と言い、私たちは回れ右して大判焼き屋さんに引き返した。
散々迷った挙句に私はクリームチーズのやつを選び、古川さんは抹茶とあんこのやつを選んだ。
食べてるとこを撮影しようとして1枚だけ撮ったけど、食べてるとこ撮られるのやだよなとそれ以上撮るのをやめた。
古川さんは食べてるとき本当に幸せそうで、うまく撮れなかったけど、とても良い顔してた。
私が大判焼き屋さんだったらめちゃくちゃうれしい。大判焼き屋さんは忙しそうで絶対に見てないので、代わりに私が見ておきました。
そんなに美味しそうに食べてくれてありがとう。

並んでベンチに座って、熱い大判焼きを冷ましながらハフハフ食べてたら放課後みたいな気持ちになった。
こんなに立派じゃなかったし種類もあんことカスタードクリームくらいしかなかったけど、私も昔学校の近くにあったおやき屋さんに寄り道していたなあ、本当は校則で寄り道禁止だったけど、ハラハラしながらおやき食べたなあと思い出した。

私たちは8つも歳が離れてるから小学校ですら同じタイミングでは通っていないわけで、そう考えたら相当不思議な縁で並んで大判焼きを食べてる。
おいしかった。
チーズタッカルビのも食べたかったし、フォンダンショコラのも食べてみたかった、売り切れになってる絶品こし餡は絶対に絶対に美味しいやつだと思うのでいつか町田に来ることがあったら迷わずこし餡にいこう。

こんな決意、明日にはきっと忘れてる。

放課後を擬似体験してしまった私はすっかり中学生か高校生の気持ちになって、古川さんと一緒にゲームセンターに行った。
とりあえずエアホッケーをすることになって、写真を撮りたい私は右手にカメラ、左手にマレット(パックを打つやつのこと。今回のことがあって初めて名前を調べようとググりました)を持って試合に挑んだ。これまた思いの外楽しくて、この競技はこんなにも楽しかったかと私は内心びっくりしてた。
ぎゃあぎゃあ騒ぎながらパックをガチャガチャ打ち合って、カメラを構える暇などない。

300対200で私が勝利した。
私は利き手ではないほうで戦ったから、果たして私がエアホッケーが強いのか、古川さんがエアホッケーが弱いのか、もう1人どっちかが別の誰かと戦う日が来るまで真相はわからない。楽しすぎた。思わぬところに、得意なスポーツ(?)を発見してうれしい。
しかしこの競技、1人ではできないのが残念です。次も誰かを誘わなきゃいけない。
エアホッケーしようぜって、かなりハードルの高い遊びの誘いだ。

次も古川さんと来よう。
もうちょっと強くなってもらおう。

ついでに2人でプリクラを撮った。
私は10年ほど前からいつだって気持ちはギャルなので、プリクラが大好きだ。だって音楽も鳴ってるし、絶対可愛く写るし、色んなペンで落書きできるし、何よりシールになってる。
けど大人になればなるほど撮れる機会は限られてきて、撮ろうってなることもなくなって、もし万が一撮ろうってなったあとにも最近の進みすぎててわかんなーいこんなに目が大きくなるの?!と小芝居を打たなきゃいけないのもつらい。
初対面の古川さんには小芝居の必要がなかった。記念に撮りませんか?と言ったら、古川さんは、撮りたいです!と二つ返事で応えてくれた。
古川さんもプリクラを撮るのは久しぶりだったらしい。
願わくば30代も40代も50代も、プリクラを撮りたい。落書きに「はつぷり」「ひさぷり」と書き続けたい。今日の私は古川さんとのプリクラに、意気揚々と「はつぷり」と書いた。嬉しい。
プリクラの中で同じポーズを撮る私と古川さんは、親友に見えないこともなかったけど、やっぱり微妙に仲もそんなに良くは見えないしどういう関係かよくわかんない2人だった。

プリクラを二等分して、お財布の中にしまった。
誰にも見せない。
それか、もう二度と会わなそうな人のスマホにでも貼ろう。
それか、宝物にしよう。

20歳になったら、お酒を一緒に飲みたいですね。
そう言ったら、はたちになったらまた連絡します!たまに思い出してください!と古川さんは言ってくれた。

控えめなんだか、積極的なんだか、よくわかんない女の子だった。
人を緊張させない人だった。
私の方が大人なはずなのに、いちいち私に気を遣わせないようにしてるのがすごくわかった。
中学生の妹がいるって言ってた話を思い出す。
ああ、お姉ちゃんなんだなあ、となんとなく思った。

東京に出て来たばかりの古川さんが、これから少しずつ色んな人に出会うんだと思ったらわくわくします。私がわくわくしてどうする。

地元の高校で演劇部だった古川さんは、東京で本格的にお芝居をしようと努力している。
これからどんどん飛び込む場所で出会う人たちが全員愉快で誠実だったらいいのにね。なかなかそれは難しいかもしれないですね。なんか変だな、と思ったらすぐに逃げよう。お金の話は最初に確認しましょう。
27枚も人様の写真撮ってクリエイター気取りの私が言うのもなんだけど、クリエイター気取りの大人たちに足元を見られないで。気持ち悪い人やおかしい人がたくさんいます。
コロナで今稽古してる舞台がどうなるか、とちょっと不安そうな古川さんに私はやっぱり大した言葉はかけられなかった。
私はお芝居ができないけど、俳優さんとお芝居を作る苦しさと楽しさをほんの少しだけ知っていて、それは自分の身や心を削ってまで続けなければいけないことではないんじゃないかって思います。他のクリエイター気取りの大人たちが何と言おうと。
でも続けて、こんな日本だしこんな今だしこんな世界なのでコロナがもう少し落ち着いても何かしらに心が折られることはあるだろうけど途中ちょっと休んだりしても続けて、今すぐは難しくても、私は古川さんの出る舞台を見てみたい。あれ、社交辞令っぽいですね。

古川さんが東京で出会った人間の初期メンバーのうちの1人として私も恥ずかしくない人間でいようと思ったら、背筋が伸びる思いがした。
まずはいい加減部屋の掃除をしなければ。
あとは振り込み等をきちんと済ます。

いつか古川さんが面白い人とか尊敬する人とかに出会えたら、私にも教えてほしい。
でも別に東京で誰かに頑張って出会わなきゃいけないわけじゃないし、私もその人に会ってみたいわけじゃないから、もしそうなったらお話だけ聞かせてください、という感じです。

つまり、またいつか会ってお話したいです。

古川さんが20歳になるのは11月だって。
まだまだ先ですね。
でもきっとあっという間だろうな。
そういえば古川さんの好きな季節は秋だって言ってた。誕生日があるのも、好きな理由のひとつだったんだろうか。聞きそびれました。

声をかけてくれてありがとう。
びっくりしました。うれしかったです。
また散歩しましょう。

撮る人・文:吉岡晶
撮られる人:古川はる
Twitter https://twitter.com/laughal_
Instagram https://instagram.com/laughal_

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