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これから愛する君へ

「なぁ、好きってなんだと思う?」
「確かに言われてみるとわからないねぇ。」

「わたしは君のこと好きだけど…」

それがサラと付き合い始めたきっかけだと思う。サラとは大学1年の時に付き合い始めたのだが、中学、高校と同じ学校だったらしい。らしいというのもサラとは一度も同じクラスになったことがなく、まともに話したのもまさに大学に入ってからだった。
向こうはおれのことを認知していてくれてたらしく、「知ってる人がいて心強い!」と話しかけてくれた。

そっからは早かった。
「アキラ君優しいって聞いてたから!」
「結構評判良かったんだよ?」
「よかった~。聞いてた通りな感じだ!」
ぐいぐいきすぎだろうと思ったが、それもそのはず。中学のときからおれのことが気になってたらしい。大学で見かけてこれは運命だと思ってアタックしたそうだ。

でもおれは好きという感情がよくわかっていなかった。
確かにサラとは話が合う。趣味も似通ってるし、話も合うし、好きな食べ物のジャンルもほぼ一緒。
加えてサラは顔もいいしおれのことを思ってくれる。でも本当にこれが好きという感情なのか。ただの性欲や勘違いではないのだろうか。
そこでサラに聞いてみたんだ。
「なぁ、好きってなんだと思う?」
「確かに言われてみるとわからないねぇ。人それぞれなんじゃぁないかな。」

「まぁ…わたしは…君のこと好きだけど…」
少しわかったぞ。好きという感情が。
おれのことを好いてくれる人が、おれは好きなんだ。

そして運命のあの日。あの日からすべてが始まったんだ。

「この電車であってるよね?今日はどこ行くんだっけ?」
「今日はね、」
ドンッ
えっ。あっ。

手は、伸ばさなかった。そう、伸ばさなかったのだ。
伸ばしていれば何か変わっていたのかもしれない。サラが助かっていたのかもしれないし、二人とも死んでしまった可能性もある。
しかしおれは手を伸ばさなかったんだ。そのせいでおれは今地獄を見ている。


「おーいアキラ!」
「シュン…」
こいつはシュン。少し前まではたくさんいた友だちも、いまや話しかけてくれる人はこいつだけだ。
「元気出せよ!なんて無理な話だが…お前に会いたいやつがいるってよ。」
誰だこの女の子は。
「カオリです。じつはアキラ先輩にお話が合って…」
「おれに話…?」
「はい!実はメンバーを探してまして…」
背中にギターケース。そうか。軽音サークルの後輩か。以前は良くバンドを組んでライブもしていたが、あの事件があってからは一度も足を運んでいない。
「以前先輩のライブを見た時に衝撃を受けまして…今活動を休止していると聞いて、ぜひうちのバンドにと思ったのですが…」
シュンお前、おれの状況わかって連れてきたのか。
「まぁまぁ、そう睨むなって。おれも最初はやめた方がいいって言ってんだけどこいつ中々引き下がらなくて。まぁ、気分転換になるんじゃないかぁ、なんてな。ははは。ごめんごめん。冗談だよ。ははは。」
バン!
「私は冗談じゃありません!本気です!先輩の歌声で私は感動したんです!」
また面倒なのに目を付けられたな。"今は大丈夫"だし一回あしらえばあきらめてくれるだろう。
「わかった。一回だけな。」

「で、なんでお前もついてきてるんだ?シュン」
「そりゃ心配だからに決まってるでしょ!まだショックから立ち直れてないんだろ?」
いや、ショックどうこうの話じゃない。あれが来たらおれにはどうしようもない。
「先輩!次歌ってみてください!歌える曲合わせますんで!」
さて、おれの番か。無事終わればいいんだが。

マイクを持つのも久しぶりだ。うまく歌えているだろうか。はじめて合わせるにしてはいいんじゃないか?
あ、ダメだ。来た。
「私のいないところで楽しそうね。」
来てしまった。サラが。
「あの時手を取ってくれなかったのに、この娘の手は取るのね。」
ああ、やめてくれ!サラはそんなこと言わない!絶対サラじゃない!なのに声も、姿も、サラそのものだ。
「う、うう。」
「ストップだ!止めてくれ!大丈夫かアキラ!」
またこれだ。
「休憩室へ運ぶ!手伝ってくれ!早く横になr……」
意識が遠く…やめろ、サラの声で喋るな…

「目が覚めたか。」
「シュン…ここは…おれは…」
「ここは休憩室だ。ぼくが運んだ。お前歌ってる最中に急に座り込んで意識失ってたんだよ!」
最悪のタイミングであいつが来たな。あの事件以降、たまにサラの幽霊がおれに語りかけてくる。でも絶対あれはサラじゃない。サラはあんなこと言うはずがない。
「すみませんでした。私の身勝手で。」
「いや、それを止められなかったぼくにも非があるんだ。そんなに気を落とさないでくれ。あとはこっちに任せてくれるかな。」
「でも…」
「いいから。」
そうして彼女は部屋を出ていった。
「アキラ!本当にすまない!おれが悪かった!」
「いや、シュンこそ気にしないでくれ。これはおれが悪いんだ。だから、」
「お前は何も悪くない!悪いのはながらスマホしてサラちゃんにぶつかったあのクソ野郎だろ!」
「でも手を伸ばせなかった…」
「そしたらお前が死んでたかもしれないんだぞっ!」
シュンがこんな大きい声を出すのは初めてだった。
「ごめん怒鳴ったりして。おれはお前が生きててくれて嬉しいんだよ。いや、誤解はしないで欲しいんだ。サラちゃんも生きてた方が良かったけど、非情かもしれないがお前に何もなくて本当によかった。
もちろんお前がそう思ってないことも分かってるつもりだ。目の前で好きな人を失ったんだ。ああ、クソごめん。こんなこと言ったら逆効果だよな。少し頭冷やしてくる。」
「ま、待ってシュン!」
バタン。そう言ってシュンは出ていった。
でもおれはその言葉で気づいた。気づかされた。
おれはサラがいなくなったショックよりも、手を伸ばせなかったことと、この幽霊がいるショックの方が大きく感じていることに。
おれにとって、サラはいったいどんな存在だったのだろうか。


はぁ、確実に言い過ぎた。ついさっき倒れたやつにどなった挙句、目の前で好きな人を失ったのにもかかわらずお前が無事で嬉しいなんて。
ほんとに最低だ。
「あ、あの。」
「なんだ、まだいたの?もしかして聞いてた?カオリちゃん。」
「ご、ごめんなさい。盗み聞きしてしまって。」
カオリちゃんにも悪いことをした。アキラのことを言いふらすのもあれだと思って、事件のことを話してなかったのが裏目に出てしまった。ぼくは大事な選択をすべて外す。
「聞いていいのかわからないですけど、話してくれませんか。アキラ先輩のこと…」
「と言っても結構聞いちゃったでしょ。」
「えぇ、まぁ。」
「まぁ、仕方ないか。言いふらすのはやめてくれよ。」
ぼくはすべてを話した。
目の前で彼女を失ったこと。そしてもしかしたら彼女を救えていたかもしれなかったこと。
「そんな…噂には聞いていましたが、そんなことがあったなんて…」
サラちゃんとアキラが付き合っていて、サラちゃんが亡くなったことは知っていたらしい。
「私にできることはないでしょうか…」
「うーん、そっとしておくことじゃないかな。」
自分に言い聞かせるように、そう言った。


夜、眠りにつく前にはかなりの確率でサラと遭遇する。おかげで毎日寝不足だ。
「今日は楽しそうだったわね。」
「うるさい。サラはそんなこと言わない。お前は一体なんなんだ。」
「だからサラだって言ってるでしょう?なんでも答えてあげるわよ。初めて話した場所?あなたの好物?一緒に見た映画?全部知ってるわよ。だってサラなんだから。あなたが見殺しにした。」
「だからそんなこと言うはずないだろう!もう、一体何が起きてるんだよ…おれに何して欲しいってんだよ!」
「なら私のことについて話てみなさい。あなたが私の何を知っているか。」
「なんだって言ってやるよ。好きな小説か?好きな食べ物か?それとも、中学生の時に表彰された時の話でもするか?」
「ふふふふ。」
「な、なんだよ。」
「私はサラじゃないんじゃなかったの?」
「なっ、」
「ほんとに面白い人ね。そうやって必死になって。
本当は、私の事なんか好きじゃなかったくせに。」
「そんなわけないじゃないか!おれは本当にサラを、」
「あなた、気づいてないのね。ズバリ言うわ。あなたが本当に好きなのは私じゃなくて__」
おれは、今でもその言葉が頭から離れない。

「今日は1人ですか?アキラ先輩。」
君は確か…
「やだなぁ、忘れたんですか?カオリです。隣で食べてもいいですか?」
もう座ってるじゃないか。
「すみません。この間は…無理言ってしまって。シュン先輩からお話聞きました。」
シュンのやつ…
「お話聞いてしまったからには、私にできることは何でもしますから。」
「ははは、ありが」
「あら、デート楽しそうね。」
クッソ、こんな時に出てきやがった。デートなんかじゃねぇよ。
「私がいなくなったらすぐ新しい女に乗り換えるのね。持てる男は辛そうだわ。」
うるさい黙れ黙れ。
「でもきっと、私と一緒で見捨てられるんだわ。」
「先輩?大丈夫ですか?」
黙ってろよもう。ほんとに。
「だってそうよね。私のこと好きじゃなかったんでしょ?」
ああもう、昨日のお前の言葉で気づかされたよ。
「せんぱ」
「お前のことなんか好きじゃねぇよ!さっさと消えやがれ!」
あ、今、声に出て…
「あ、そう、ですよね。迷惑ですよね。ごめんなさいほんとに。」
「あ、ちが、君に言ったんじゃ、」
「すみません。すぐ消えますから。」
ちょ、待っ。
「あははははははは!」
「てめぇ!誰のせいでこうなってると思って、」
「あなたのせいでしょ!こうなったのは。でも嬉しい。あの子じゃなくて私を選んでくれるなんて。あの子は消えても私は消えないわ。」
なんなんだよ…
なんでこうなるんだよ。
お前が本当にサラだというのなら、助けて…くれ…悪いのは全部おれなんだから…

「よう、聞いたぞ。食堂で女の子泣かせたんだってな。どうしたどうした。お前らしくもない。」
おれらしく、ない、か。
「いや、おれは元からこんなんだよ。」
「アキラ、お前ほんとにどうした。なぁ、ぼくに何か隠してるだろ。」
「なんも隠してないよ。」
「嘘だ、絶対何か隠してる。」
シュンになら、話してもいいのだろうか。
「いいか、悩んでることがあったら迷わずぼくに話せ。心配かけたくないとか思ってるならむしろ逆だ。秘密にすることはぼくに対する裏切りだ。信用されてないってことになる。」
そうだ、シュンになら。
「これでもぼく、アキラの親友やらせてもらってると思うんだけどなぁ~。」
いや、親友であるシュンだからこそ言えない。言ったらばれてしまう。おれが全ての元凶だということを。
「ごめん、本当に何もないんだ。」
「そうか…何かあったらすぐに言うんだぞ。絶対にな!」
本当におれにはもったいない親友だ。なんでおれなんかに、優しいんだよ…


「どうでした?」
「いーや、ダメだった。なんでもないってさ。」
さかのぼること1時間前。涙にまみれたカオリちゃんと廊下ですれ違った。
「あれ、カ、カオリちゃん?大丈夫?」
「シュン先輩…シュンぜんばいいいいいいい!」
それから食堂での出来事を聞いた。自分が余計なことをしたせいでアキラにどなられたこと。
そしてもう一つ。カオリちゃんがアキラに近づいた本当に理由を。
「私、アキラ先輩のことが好きなんです。一目ぼれでした。そして、彼のやさしさに触れて、バンドやってる姿をみて、この人だって思いました。でも、バンド終わりには必ずサラさんがいたんです。私は悔しくて仕方なかったんです。でもある日、サラさんが亡くなったって噂で聞いて。初めは本当に何か力になれたらって思ったんですけど、でもどこかでチャンスだって感情も出てきて…
ほんと、最低ですよね。怒鳴られて当然です。私、なんてことを…」
「カオリちゃんはそのことをカミングアウトしちゃったの?」
「いえ、多分私の態度で気づかれたんだと思います。急に消えろって。」
あいつがそんなことするだろうか。急に怒鳴るとか。ぼくじゃあるまいし。
そもそも最近のあいつは変だ。確かにショックは大きいだろうがそれだけじゃない気がする。何か隠してるな。聞いてみるか。
となったのが1時間前。結局なんの進展もないわけだが。
「カオリちゃん、もしよかったらなんだが協力してほしい。」
「え?こんなクズ女に協力仰いでどうするんですか。」
「アキラの事情知ってるのはおれとカオリちゃんだけだからね。あんまり広めたくないし。それに、あいつのこと好きなんでしょ?」
「シュン先輩、性格悪いって言われません?」
「いやぁ、君ほどじゃぁないさ。」
彼女を亡くした男をつけ狙った女に協力を求めるなんて、我ながら引くわ。
でも、それであいつがもとに戻れる可能性が少しでも上がるなら。ぼくはどんな手でも使うよ。


「私を拒否することも減ったわね。自覚した?自分の過ちに。」
「ああ。気づいたよ。おれは君が好きだったんじゃない。おれはおれが好きな人が好き、というのも少し違う。おれはおれが好きだ。そのおれが好きなサラにおれが共感しただけだったんだ。
昔からそう。周りにやさしくするおれが好きだった。クラスの中心にいるおれが好きだった。テストでいい点をとるおれが、部活で勝負に勝つおれが、そんなおれが好きだったんだ。
だからサラのことよりも、自分を選んだ。あの時手を伸ばさなかったのはおれが一番大事だったから。だからお前がおれの前に現れたんだろう?なぜ私を見なかったんだ、結局自分が一番大事なんだろうって。なあ、お前サラなんだろ?なあ、おれはどうしたら良かったんだ?おれは今でもあの時手を伸ばさなかったことに後悔はしていないんだ。だけど、おれはあの時手を伸ばしていたらって…あれ、なんだよこれ。なんだよ…もう、自分がわかんねぇよ…」

「よ、アキラ。」
シュン…もうほっといてくれよ…
「アキラに話があっるってさ。」
「アキラ先輩。」
「カオリさん…」
「すみませんが、少し軽音部に来てくれませんか?」
「いや、もうおれはやらないって、」
「違います。私の音楽を聞いてほしいんです。」
なぜみんなおれに関わるんだ。もう辞めてくれ。
「せっかく誘ってくれたんだから行けばいいじゃない。」
サラお前…
「アキラ、カオリちゃんもお前に謝りたいんだとよ。嫌じゃなかったら聞いてくれないか。」
シュンまで…
「謝るって…悪いのはおれなのに…」
仕方なく、おれは行くことにした。

「カオリちゃん、ギターだけじゃなくてボーカルも行けるんだねぇ。」
確かに上手い。おれなんかスカウトする必要ないんじゃないだろうか。
「カオリさん、なんでおれなんかに…」
「さすが自分大好き男ね。ちゃんと相手のこと見なさいよ。」
サラ?
「他人のことをちゃんと見てくれる人なんて、なかなかいないんだから。」
サラ…?
「アキラ先輩!どうでした…?」
「かなり上手い。と、思う。」
「ほんとですか?ありがとうございます!」
「…すみませんでした。この前は。急に怒鳴ってしまって…」
「いえ、あれは私が悪かったんです。」
「そんなわけないじゃないですか。おれは…おれが悪いんすよ…」
おれはなんでこんなに恵まれているんだろう。
「どうしておれなんかに…」
「私は先輩のことを…尊敬してますから。」
「おれを?」
「はい、初めて軽音部であった時からずっと。だから先輩頼ってください。力になりたいんです。」
話すべきなのだろうか…
「話したらいいじゃない。あなたが話さないのは嫌われるから?それともプライド?いずれにしろこのままじゃあなたは変われないってことよ。」
なぜ悩みの原因であるサラにこんなこと言われなきゃいけないのだろうか。
「わかった。話すよ。全てを。サラのことも。おれのことも。」
おれはそうしてすべてを話した。全てを。
その中でおれは、おれが嫌われていないかだけを考えていた。
サラの顔は見れなかった。


「シュン先輩。私最低ですわ。」
「うん、まぁね。」
「自分のことしか考えてないって、まさにその通りじゃないですか。私!」
すっかりめんどくさい女になつかれてしまったな。
「でもまぁ、カオリちゃんの場合とあいつの場合じゃ結構違うけどな。」
「どういうことですか?」
「そもそもみんな自分が好きなんだ。自分第一なのは当たり前。ただあいつは他人に興味がなさすぎるのが問題なんだ。友達も多かったがそこまで深く踏み込んだりしないし。めちゃくちゃ優しかったけど、それもその場その場だけであとは知らないって感じだったし。」
「そうなんですね…」
「だからまぁ、案外あいつを救うのは君みたいな人なのかもしれないな。」
「え?」
「カオリちゃんみたいに、自分のためには他人にずかずか入っていく人。」
「馬鹿にしてます?」
「うーん、どうだろね。」
いいなぁ、みんな自分が好きで。ぼくは自分が嫌いだよ。


結局私は何をしたいんだろう。
好きな人を助けたいのか、私の物にしたいのか。
でもやっぱり、諦めることはできない。好きになってしまったんだから。
どんなにゴミクズになろうとも、えっ


おれもそこまで鈍感ではない。カオルさんが言いかけた言葉。
でもおれは結局好きになれないんだろう。だからこんなおれなんかを好きにならないでくれ。
なんだ?外が騒がしいな。
「おい、学内に不審者だってよ。」
「しかも女子を人質に取ってるんだって。確かあの子、軽音部の子じゃなかったか?」
いや、まさかな。おいおい、嘘だと言ってくれ。
そこにいたのは紛れもないカオリさんだった。

「近づくなてめぇら!おれはここの教授に用がアンだよ。
早くハヤミ教授を連れてこい!人質を切りつけられたくなかったらなァ!」
クッ、人が集まりすぎている。
「通してください!通して!
カオリさん!」
「なんだてめぇは!早くハヤミを連れてこい!」
「お、落ち着いてください。ハヤミ教授連れてきますから。」
「みな落ち着き給え。ハヤミは私だ。」
「ハヤミてめぇ。」
ハヤミ教授の登場だ。これでカオリさんも開放して貰え、
「私は犯罪者などに屈しない!早くナイフを下ろして投降するんだ。」
はぁ!?この状況で犯人を刺激するなよ!馬鹿なのかてめぇは。
「いいからこっちに来い!じゃねぇとこいつをぶっ殺すぞ!」
な、ど、どうする。助けるか?いやでも…どうやって。
「何を迷ってるの?」
サ、サラ!?
「また見殺しにする気?」
そんなこと言ったって。もう足も震えてるし、おれは、おれは…
「私がなぜあなたの前に現れたかわかる?」
何だよこんな時に。
「それはあなたが自分を嫌いになったからよ。今まで自分が好きで好きで仕方なかったあなたが、手を伸ばせなかったことで自分を嫌いになったの。だからあなたは自分のことを好きでいてくれたサラを作り出したのよ。バランスをとるために。」
な、それって…
「でもあなたは想像以上に自分を責め立てた。自分を保つために産んだ存在に、精神をぐちゃぐちゃにされるなんてかわいそうな男ね。」
おれが作った?サラを?
「そしてあなたは自分を嫌いになった。いや、なり過ぎた。
だから今度は自分を好きになる番よ。」
でも、そしたらおれは…
「自分を好きなことは悪いことじゃない。でしょ?そしてあなたはもうわかってるはずよ。自分以外に、見るべき存在のことを。」
「(助けて…)」
気が付いたら、走り出していた。
「行きなさい。私はあなたのそこに惚れたのよ。さよなら。私の愛しい、英雄さん。」

考えずに飛び出した。彼女の安全を考えれば絶対もっといい案があったはずだ。でもそれでは間に合わなかったかもしれない。あの時のように。

犯人はぎょっとして動き出しが遅れた。まさか飛び込んでくる馬鹿なんているとは思わなかっただろう。
まずはナイフかカオリさんか。普通ならカオリさんを選ぶのだろうが、以外にも冷静だったおれはナイフを弾き飛ばすほうが安全だと考えナイフを持つ右手に集中する。
そう、そのまま弾き飛ばして、っていったあああああ!き、切られた!
だけどこのまま
「うらああああああああ!」
ナイフを吹き飛ばすことに成功し、カオリさんを引きはがす。
やばいっ!殴られるっ!
「やめろおおおおお!」
その瞬間、犯人は地面に倒れていた。
「アキラ!カオリちゃん!大丈夫か!?」
シュン!
「おれは大丈夫だ。カオリさんは!?」
「アキラ先輩…好きです。」
なっ、今かよ…サラお前はどう…いやこれはおれの問題か。
「なら、一つだけ聞かせてくれ。君にとって好きってなんだ?」
「…相手を知ることじゃないですかね。最初は一目ぼれでしたけど、でもそれだけじゃなくて。相手を、先輩を知ることで好きを見つけたんじゃないですかね。」
そうか。おれは今まで…
「君たち!怪我はないかい!?」
「は、はい!私は大丈夫です!って、先輩、手を怪我してるじゃないですか!」
「ほんとだ!アキラ早く手当してもらってこい!」
「う、うん。」
「アキラ先輩!私!待ってますから!」
はじめて少しわかった気がする。確かにおれは、おれを好きでいてくれる人が好きなんだ。だけどそれは、今までとは少し違って。


ああ!スッキリした!言いたいこと全部言えた!
でもあれは言い過ぎだったかな。でも、初めて会ったあの時みたいに、また手を差し伸べてほしかった。
だけどそしたらアキラまで死んじゃうところだったし仕方ないよね。
ああ、もう!ほんとに重いくそ女!なんであんな奴隙になっちゃったんだろ。
いいなぁ、カオリさんは。
私もアキラにしっかり見てほしかったなぁ。
でも死んだ奴がいつまでも付きまとうとさ。前に進めないから。
私のことは忘れて楽しんで。こっちに来たらまた話しましょ。
今度こそ、さようなら。


「ねぇパパ!どこ行くの!?」
「いやちょっとね。散歩だよ散歩。」
「え~!連れてってよパパ!」
「いいじゃない。連れてってあげなよパパ。」
「わかったよ。それじゃあ、行ってきます。」

「パパ、そのお花なぁに?」
「ん?ハイビスカスっていうお花だよ。」

「パパ~!電車電車!」
「うん。危ないから手を離さないでね。」

「パパ?何してるの?」
「お話してるんだよ。」
「パパは石とお話出来るの?」
おれはもう、絶対離さないと決めました。自分よりも大事なものができたので。
「じゃあ、帰ろっか。」
「うん!あ、そうだ!帰りお菓子買ってよ~」
「はは、ママには内緒だぞ。」




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