「赤星ゼミの考今学」第4話
(栗須晃平視点)
後悔はない。いや、してはいけない。一度貫くと決めたのだから。
(覚悟を決めた顔でタイトルコール)
“2032年10月7日。”
(社長室)
晃平「三木、どうだ計画の方は。」
三木「はい、施設の完成はあと一ヶ月ほどで完成、社長が選んだ人材も全員確保完了まであと一人です。」
[三木香織, 37歳, 晃平の秘書]
晃平「ふむ、私が直接話をするとしよう。」
“あいつらの手を借りたのは少々癪だがとうとう計画のピースが整った。これで私の理想に一歩近づくことができるだろう。”
(最後の人材Aのところへ行く。名前は出さない。)
晃平「君が次世代の歌姫とやらか。君が歌う理由は弟の医療費を稼ぐためだったかな。」
A「だから何よ!」
晃平「弟君の医療費を私が出すことに何の不満があるんだい?」
A「私が自分で稼ぐって言ってるでしょう!早く出てってください!」
(晃平耳打ちで)
晃平「私の力があれば弟君を助けることができる。それと同時に助けさせないこともできる。それも踏まえてよく考えてほしい。時間はまだたっぷりあるからね。」
A「くっ…」
“計画実行は3月になる。それまで万全の準備をするとしよう。」
“2033年1月25日。施設が完成した。”
(アパートと施設を見渡す晃平)
晃平「この施設をハミットハウスと名付けよう。」
“予定よりもかなり時間が遅れた。というのもアパート群の崩壊が想定よりもかなり早かったからだ。当時の形を残すためという理由で国から過度な補強を禁止されているのが非常に鬱陶しい。”
“2033年4月1日。とうとう計画の始まりだ。”
晃平「こんにちは諸君。ここに来たからには君たちはもう家族だ。仲良くしようじゃないか。」
(集められた人たちは20人程度。皆晃平をにらみつける。)
“飛び級でハーバードを卒業した天才、次期サッカー日本代表エース、次世代の歌姫。喉から手が出るほど欲しかった才能たちがここに集まっている。ここで成果を出し、優生思想が間違っていなかったことを証明してやる。”
(生まれた子を喜びながら。)
“2034年2月6日。待ちに待った第一子の誕生だ。飛び級ハーバードと囲碁世界一の遺伝子を受け継いだ子だ。期待大。とても楽しみである。”
(第一子の名前は秀一。でもここでは決して名前は呼ばない。)
“親をどうするか悩んだが、本土に返して面倒なことになるより子どもの世話をさせた方がいいだろう。ただし検討の余地ありだ。”
“一方で物資船に紛れて脱走しようとした者がいる。”
(晃平、笑顔。脱走者、戸惑い。)
晃平「素晴らしい。脱走されかけました。」
“しかし罰は与えない。下手に反抗心を植え付けるよりも私に好意的になってくれた方が後の子供たちにも良いだろう。”
(島に教育者を呼び、紹介する。)
“2037年3月20日、一番大きい子が3歳を迎え子供も増えてきた。そろそろ教育を開始するべきだろう。”
晃平「これから子どもたちの教育を担当してもらう一流の先生たちだ。」
(先生たち笑顔で。)
“親についてだが考えた結果一緒に住んでもらうことが決定した。協議の結果、親の愛を感じた方がいいのではないかという結論に達した。全て子供たちを最優先に。”
(アパートの補強工事をしながら)
作業員「ほんとにこんなことしていいんですか?」
晃平「ああ、彼らの安全を第一にだ。」
“2040年6月7日、秀一も小学一年生の年齢となり、より才能の片鱗が見えてきた。教育のレベルをまた一段階挙げるとしよう。しかし問題はアパートの崩壊だ。補強工事は進めているが思ったよりも崩壊スピードが速い。万が一に備えて最高強度の補強をしよう。彼らに何かあったら大変だ。”
“2044年11月4日。”
(社長室で晃平と三木の口論。)
三木「社長!本気ですか!」
晃平「ああ、本気さ。」
三木「今まで隠し通して来れたのだって奇跡ですよ!夜には人影を見られて幽霊が出たなんて噂されてるんですから!」
晃平「大丈夫。問題はない。あいつらは信用できる。管理も徹底的にするし安心してくれ。」
“今年から彼らのネット活動を解禁しようと思う。才能があるものは早いうちに世に出した方がいい。特に3年生の優成には音楽の才能がある。才能を潰させないことも我々の務めだ。アカウントはもちろん我々で管理する。何も心配することはない。”
(優成が音楽活動を始める様子。)
(社長室)
“2046年4月10日。秀一が小学六年生となり卒業する歳になった。そこで長らく悩んでいたが今年で軍艦島での活動は終わりにしようと思う。“
三木「社長。本気なんですね。」
晃平「ああ、今年で終わりにする。全員を本土へ返すことにした。」
三木「なんで…」
晃平「もう目的は達成しているんだ。子どもたちみんなに才能があることはわかったしもうあの島に縛り付けておく理由もないだろう。」
三木「彼らのことを100%信用できるって言うんですか!このことが世に出たらもうあなたはおしまいですよ!」
“彼らが暴露する可能性もあるかもしれない。だが、”
晃平「私は、彼らを信用する。彼らは私の思想に貢献してくれた。それで十分だ。」
三木「私のことは、信頼してくれなかったのに…」
(バタン。晃平、社長室を去る。)
(軍艦島に別れを告げ、新生活の背景を流しながら。)
“2046年3月9日。とうとう軍艦島に別れを告げる日となった。親御さんから卒業制作の提案があり、島に一つだけ我々がいた証拠を残すことにした。
私は間違っていただろうか。度々そう思うことがある。彼らの人生を決めたのは紛れもなく私だ。だが優生思想の下ではこれが正しいんだ。何も間違ってはいない。
だから私は彼らと彼らの子孫に託すことにした。この日記も彼らに持っていて貰おう。もし誰かに裁かれるのだとしたら、相応しいのは私の息子たちだ。”
“栗須晃平”
(回想終わり)
赤星「晃平氏がやったことはただの犯罪です。恐喝、監禁、到底許されるべきことではありません。」
(栗須、涙が出始める。)
赤星「その上軍艦島を出た後も子供たちを縛り続け、彼の理想の後継者を育て上げた。彼にとっての優生思想ができてしまったわけです。こんなもの狂気以外の何物でもない。」
栗須「赤星先生。私は、私たちはどうするべきだったのでしょうか…」
赤星「私も教師の端くれとして一つ授業をさせていただきます。
人の能力を決める物は三つあります。一つは才能。これは紛れもない事実です。二つ目はなんだと思うかな?桃君」
桃「努力ですね!」
赤星「ああ正解だ。努力してこその才能だ。そしてもう一つは、わかりますか栗須社長。」
(栗須、首を横に振る。)
赤星「それは栗須社長も晃平氏も才能以上に恵まれていました。それは環境です。」
栗須「環境?」
赤星「あなた方には十分に努力できる環境がありました。理解のある両親がいて、勉強に集中できる空間があって。しかし、あなた方はその幸運に気づくことができなかった。それを当たり前だと思っていたから。
晃平氏は才能以前に改善のできることがあり、そしてその力もあったはずです。
晃平氏は誤った道を進んでしまいましたが、あなたにはできるんじゃないですか?少しでも悩んでいる人を減らすことが。」
栗須「ここから、できるでしょうか。」
赤星「できると思いますよ。あなたは天才なんですから。」
(栗須泣き崩れる。)
(赤星振り向きざまにボソッと。)
赤星「血はつながってなくても受け継いでいるじゃないですか。人間臭いところを。」
(赤星、碧、桃で歩き出す。)
(後日、研究室)
(桃が頭を下げる。)
桃「先生…すみませんでした!」
赤星「どうしたんだい急に。」
桃「私が危険地帯に入りたいだなんて言わなければ…実際一回捕まってしまいましたし…」
赤星「いや、謝らなければいけないのは私の方だ。本当に申し訳ない。
(赤星、深々と頭を下げる。)
赤星「君たちを残して行ってしまった。もし万が一のことが起きていたらと考えると、いくら謝ってもすまないぐらいだ。」
桃「先生が謝る必要ないですって、やめてください!」
(碧と紫苑が、何やってるんだ?というやり取り)
(碧、栗須の会見に気づく。)
碧「先生、竜ヶ崎、これを見てください。」
赤星「すべてを話してくれたようで良かったよ。」
桃「はじめは辞職しようとしていたらしいですけど、部下からの引き留めや世間の声もあって社長を続けるらしいですよ。」
赤星「そうか、ならこれはもういらないな。」
(赤星、レコーダーを取り出す。)
桃「なんですかこれ?まさかあの時の会話録音してたんですか!?」
赤星「当り前だ。万が一逃げるようなことがあったら、桃君のことも含めて暴露しようと思ったんだがね。
君たちも記録媒体は持っておいた方がいい。どれだけ真実に近づこうとも、証拠がなければその過去はあったことにはならないからね。」
(過去ありげに。)
赤星「そういえば、紫苑君はどうした?さっきまでここにいたはずだけど…」
碧「さっき帰りましたよ。」
(数分前)
(紫苑「すまん、碧。先帰るから。じゃあな。」)
碧「最近特に帰るの早いですよね。」
赤星「そうか。やることやってるし別に構わないんだが、せっかくなら歴史に興味を持ってもらいたいな。」
(紫苑が帰宅する絵で終了。)
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