見出し画像

「赤星ゼミの考今学」第3話

碧「こっちも大体調べ終わったな。
おーい竜ケ崎!向こうの建物も調べ」
(栗須が桃を取り押さえながら碧に近づく。武器は無し。)
桃「ごめんね。樹下君。捕まっちゃった。」
栗須「碧君。君にもおとなしくしてて貰うよ。」

赤星サイド
赤星「この危険地帯に来た時点で違和感はあったはずだ。一つは最終団地の異常なまでの補強工事。崩壊寸前なんてレベルじゃない。あと数十年は大丈夫だ。始めは軍艦島最後の建造物を保護するためだと思っていたが、文化遺産であるこの建物にここまで手を加えるのは許されていないはず。」
(最終団地探索シーンの回想)
赤星「そしてこの3つの施設。今まで気づかれなかったなんて都合がよすぎる。答えは簡単、この最終団地に囲まれることで絶対に外から見れないようにしていたんだ!」
(施設が最終団地に囲まれた中心部にある)
赤星「ここまで徹底的に隠されていたのにあいつはすんなり通した!いったいなぜ!何を考えているんだ、栗須優剛!」

碧サイド
栗須「手荒な真似はしたくなかったのですが、赤星先生にここを見られたのなら致し方ないでしょう。あなた方を拘束させていただきます。」
(碧と桃アイコンタクト)(栗須の注意を引き付けるため)
碧「な、教えてください!一体ここはなんなんですか!?」
栗須「それは君たちの知る必要のないことです。さぁ、ゆっくりこちらに近づいて」
碧「急になんですかこれは!栗須社長、自分が何をしてるか分かってるんですか?」
栗須「ええ、もちろん。あなた方にはこれから私と一緒に船に乗り本土へ帰還していただきます。」
碧「赤星先生を置いていくって言うんですか!」
栗須「ええ、そうなりまっ…」
(桃、隙を見て栗須の腹にひじ打ち。栗須一瞬たじろぐ。拘束している腕が緩む。桃、回転し拘束を振りほどき、栗須のあごをめがけて掌底打ち。しかし栗須も腕でガード。二人とも距離を取る。)
栗須「…」
碧「人質にする方を間違えましたね栗須社長。竜ケ崎は全日本空手選手権2位の実力者ですよ。」
桃「2位なの恥ずかしいから言わないでって言ってるでしょ!」
栗須「順位など今この場では何ら関係のないことだ。」
(桃、栗須に向かって連撃を打ち込む。しかし栗須すべて躱す。)
桃「なっ!」
栗須「女性相手に手荒な真似はしたくないのですが。」
(栗須、拘束するため桃の手をつかもうとする)
赤星「そこまでだ!」
碧、桃「先生!」
赤星「栗須社長、私の話を聞いて頂けますかな。」
(栗須、少し悔し顔で。)

赤星「私がこれから話すことは私の仮説でしかありません。しかし栗須社長、貴方がその行動をとったことでこの仮説はより強固なものになりました。
ずばり言いましょう。ここの場所はクリスホールディングス初代社長、栗須晃平氏による後継者育成施設だったのではありませんか?」
(碧、桃驚き。栗須、うつむく。)
桃「でも先生、なんでこんな場所に?」
赤星「いや、この場所にしか作ることができなかったんですよ。外からは決して見つからず、中からの脱走ができないこの場所でしか。」
碧「ということは、決して世には公表できないことが行われていたということですね。」
赤星「その通りだ碧君。しかもそれは栗須社長、あなたにも関係があるはずです。
事件を解くカギは二つ。一つはこの晃平氏のこの本です。彼は極度の優生思想家で、かなりの批判を受けていました。それでもこの本からは決して信念を曲げずその思想を貫き通す意思が感じ取れました。」
碧「優生思想、秀でた能力を持つ人の遺伝子のみを残し、他の者の遺伝子を排除しようという旧時代の考えですね。」
赤星「ああ、だがそんなものは到底許されない。しかし晃平氏は行動に移す。
私が調べた限り、この建物が建てられたのは2033年。そしてこの年には奇妙なことが起きている。それはこれだ。」
“天才たちが消えた年”
(若い才能ある者たちの連続現役引退、失踪事件)
桃「まさか。」
赤星「ああ、私も最初は信じられなかったよ。しかし、こう考えるとすべての辻褄が合うんだ。」
(ゆっくりと赤星が栗須のもとへ歩き出す。)
赤星「優生思想の強い浩平氏は考えた。せめて自分の身内で優生思想を実現したいと。
軍艦島の管理を任された晃平氏はこれを利用した計画をひらめき、実行に移した。まずは人材集めです。創立当初のクリスホールディングスは黒い噂が絶えなかったそうですね。裏金、脅し、ありとあらゆる手段を用いて優秀な人材を軍艦島のこの施設へと集めた。」
(赤星資料を見せながら。)
赤星「この記事を見てください。クリスホールディングスは代々その家系で社長を継いでいますが、2代目社長の栗須秀一氏は晃平氏の実子ではなく養子です。そしてその秀一氏の妻は栗須麗美氏。この方もこの施設出身の方であることが分かっています。
つまり、クリスホールディングスの歴代社長たちはこの遺伝子を耐えすことなく紡いでいるということになります。そしてそれはもちろん栗須優剛社長、あなたも例外ではないはずだ。」
(栗須、話を認めて開き直る。)
栗須「だとして何がいけない。子孫である私はこうやって才に恵まれ、会社も世界トップを争う大企業となった。私は優生思想を何ら悪だとは思わない!」
碧「それは違います。そもそも優生思想なんてものは合理的ではありません。例えば僕は少し勉強ができるだけで運動も家事も人付き合いも全く得意ではありません。優生思想の下では真っ先に排除される人間でしょう。そうして優秀な人だけ残して使えない物は切り捨てて、そうして残った人たちにも優劣ができてまた切り捨てて。その先には一体何人の人が残っていられるのでしょうか。おそらくその理想的な社会ができる前に人類は滅びてしまいます。
だったら僕は、人の欠点を認め補いあって生きていく方が何ら合理的だと思います。」
桃「私は、良い遺伝子を残そうと思うことは、悪いことではないと思うんです。例えば私は優しくて誠実な人と結婚したいし、授かる子どももそれを引き継いでほしいと思います。でもそれはすべて自分で決めることです。誰かに決められることじゃない。だから晃平さんは絶対間違ってます。」
(栗須、戸惑いの顔)
赤星「栗須社長。あなたに見て頂きたいものが。」

(2棟目、卒業制作の前に移動。)
栗須「これは…」
赤星「これは2046年、ここで生まれた子供たちが軍艦島を去るときに作ったであろう卒業制作です。」
(木造の一枚絵、秀一や麗美の名前も彫られている。)
赤星「3棟ある施設の中にある唯一の痕跡です。真っ先に撤去しないといけないであろう物がここに残っていました。それがなぜかわかりますか?」
栗須「い、いや。」
赤星「これは彼(晃平)の葛藤の証ですよ。」
栗須「葛藤?」
赤星「この本を読んで彼の優生思想のルーツを知ることができました。
彼は自分に才能がないことを嘆いていました。何をやっても平均以下。才能のなさを自覚した彼がとった行動はただひたすらな努力。寝る間を惜しんで努力した結果、彼は会社の立ち上げに成功します。そこで彼は思いました。才能のなさで苦労する子を作り出してはいけないと。そこから始まった優生思想は徹底的で、自分の遺伝子を残してはいけないと生涯結婚もしなかったそうです。自分自身が排除される側だと考えて。
その一方で、彼は次第に才能のためだけに集め、産ませたはずの子供たちに情が湧いていきます。サイコパスとも感じられる状況ですが、おそらく集められた人たちも晃平氏に次第と心を開いていったのでしょう。一種のストックホルム症候群のようなものです。
(※ストックホルム症候群…誘拐などによる犯罪において、長時間ともに過ごすことで被害者が加害者に対し好意的な感情を持つこと。)
そこで晃平氏はわからなってしまった。彼らに対する情と贖罪、そして貫くべき優生思想。」

赤星「そして栗須社長、あなたも今葛藤のさなかにいるのではありませんか?
この事件を徹底的に隠す方法なんていくらでもあった。しかし、栗須社長一人で我々と同行し、武器を持つこともしない。私たち全員を残して一人で帰る手もあったはずだ。なのにあなたはしなかった。
それは、私たちにこの事件を見つけて欲しかったからなのではありませんか?」
栗須「…私は、この才能に感謝していました。特別苦労することもなくここまで生きることができましたし、正直祖先がひどい目にあっていようと今の私には知ったこっちゃない。この事件を公表することにもほとんど意味がありません。ですが本当にこのままでいいのかずっと悩んでいました。」
(栗須、日記を取り出す。電子版)
桃「これは?」
栗須「栗須晃平社長の当時の日記帳です。歴代の社長に代々受け継がれてきました。」

(過去回想)
晃平「ようやく完成したな。ハミットハウスが。」
(晃平とモブができたばかりの巨大施設を見上げて終了。)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?