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Column #33 スクラップ & スクラップ

このごろは毎日やたらと、隙間時間に断捨離をしている。小さな家にしてはやっぱり物が多すぎるし、ミニマリストまではいかなくても、何も物を置かないスペースというのを少しくらいは作りたい。始めたら急に止まらなくなってしまった。

処分したなかで、文庫本は家にあったなかの8割くらい、200冊以上を思い切って売ってしまった。多くは大好きな作家の本だったのだが、なかなか再びページを開く機会がないまま、「グラデーション状に並んだ背表紙たち」という名の壁紙になってしまっていた。またちゃんと最後まで読みたいときに1冊ずつ買おう。それが自分が売った古本だったりしてもいいし。

断捨離だけでなく、さまざまな機材、とくにケーブル類の整理もしていた。IKEAで販売している保存食用の袋を、Quinkaがやたらと買ってくるので、使わないともったいないと思い活用する。音楽関連はもちろんだが、パソコンまわりも結構多い。USBだけでタイプ違いが20本くらいあった。機材の付属品で付いて来るケーブルが、たいてい短くて使えなかったりするのだ。この辺りも近々どうにかしないとな。

この1ヶ月で、それぞれの部屋がだいぶ広く感じられるように。もうこの家は13年ほどになるが、住み始めた頃に塗った壁紙もゆっくり眺められるようになった。あまり重要で無い書類も、高速スキャナーで読み取ってだいぶ処分したし、これで自分のは分はあらかた減ったぞ。次は、自分の何倍も捨てることができない性格のQuinkaを、どう説得するか。

ふとアナログレコードたちに目が行く。今までだいぶ売ってしまったけど、まだ100枚くらいは残ってる。それよりもCDは、ほとんどが薄いパッケージに変えた状態のものだが、軽く1000枚はあるかも。でもジャケットをときどき眺めたいし、仕事のための確認にも使えるので、どうしても捨てられない。

2001年リリースのOCTCUBEのメンバーでもある、アメリカはミネアポリスに住むPamelaから、半年前に送られてきたレコードを手に取る。20年ぶりくらいに音楽作品を作ったらしい。でも新作ではなく、当時のアーカイブを集めたもの。

そのレコードに針を落とす。リビングのプリアンプが最近壊れてしまって、お気に入りのスピーカーではなく、ヘッドフォンでしか今は聴けない。リビングの床に座り込み、彼女の当時(90年代後半〜2000年代始めごろ)の曲たちを聴いてみた。

ローファイという言葉は今ほとんど使わないが、良い意味でだら〜っとした気持ちにさせてくれる、ゆったりめのブレイクビーツ。そこに、昨今は法的にわりとアウトになった、昔のレコードネタも結構かぶせてある。これを今リリースするのはなかなか勇気があるなと思いながら。

深夜1時だった。これこそが秋の夜長。涼しい風のなかで、懐かしい気持ちに浸る。夜といえばこのアルバムの「Tonight」という曲には、僕が2001年、ミネアポリスの彼女の暮らす家で弾いたローズピアノと、日本語での朗読が入っている。懐かしいなぁ。

ひとまずモノは減らせた。目下の課題は時間。この秋は突然オファーが増えたライブの数々に加え、自分のレーベルからのアーティストが増える予定なので、そういったことに時間を費やし始めている。

そのことで自分の作品作りがおざなりになっていることが、このごろの悩みではある。でもレーベルの規模を少しでも大きくしたいというのも、以前からの目標でもあった。今しか出来ないことかもしれないし、しばらくはそれに取り組みたい。

あまり踏み込んでこなかったプロデュースという分野に、今は興味がある。儲かる儲からないは関係なく、とにかく多く作品に関わることで、力試しをしてみたい。CM音楽やジングルの仕事が来る前から、そういう短い曲を作って遊んでいた、10代の頃の気分だ。(本当はインストゥルメンタル楽曲や英詞などにもっと取り組んでみたいのだが、今は割愛)(←...…してない)

今のところ唯一のレーベルメイト、乙川ともこの縁で、今年は新潟によくライブで向かっている。さらにご縁は繋がり、新潟に拠点を置く、オーダーメイド・ボーダーシャツ(カットソー)を得意とするアパレルメーカー・G.F.G.S.の小柳(おやなぎ)社長に先日お会いすることが出来た。

まだ未発表ではあるが、やはり新潟在住のミュージシャン・鈴木恵(さとし)さんと一緒に、G.F.G.S.に関連する楽曲制作に参加させてもらっている。そんなG.F.G.S.では、最近になってアパレルに加え、なんと車のデザインのプロジェクトも始めているという。見せていただくと、これがまたなんとも素敵で。さらにはカフェやブランディングなども手掛けている。

その小柳さんが、「やりたいことが多すぎて、時間がない」と仰っていて、ああ、自分とおんなじだと思った。心のなかにひとつある、いつまでも暗かった部屋に、ひとつ灯りが灯った気がした。さまざまなライフハックが氾濫する現代だけど、不器用に、無邪気に生きたっていいんだよな。

常に何か新しいことに挑戦したい自分は、スクラップ&ビルド、つまり叩いては壊す再構築をひたすら続けている、そんな人生なのだが、今はスクラップ&スクラップ、つまり積み上げたものをどこまでも崩していきたい。決して何かもをゼロにしたいという気持ちではないのだが、シンガーソングライターであることだったり、今まで作ってきたものをすべて忘れるくらい(もちろんどちらも忘れるわけはないのだが)、違う可能性を探していきたい。

他の人にはなかなか理解しがたいことだとは思う。わずかばかりの貯金さえ減る一方だが、資金が尽きたら、若い頃に集めたヴィンテージ楽器を売ればいい。今までもそうやってきた。

意味のないところから意味を作り出す作業をしている。つまり前頭葉を育て直している最中。おそ松くんに登場するハタ坊のように、来年あたりはおでこが突き出るかもしれないな。