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中学社会科の論述試験〜ケンブリッジ式IGCSEのテストでどんなことが問われているのか?【320】

 社会科において、日本と海外のカリキュラム(今回はケンブリッジ式のIGCSE)で学んでいる生徒を比較してみると、学び方や評価の方法にかなり違いがあります。今回は、学年の最終試験を見て感じたことを記録しておきます。

 夏休みに入る前に、私が日本語のサポートをしている生徒の最終試験が終了しました。社会の勉強が基本的に苦手だった生徒ですが、今回のテストで88/100点が取れたそうで、成績も「5から7へ」上がりました。

試験内容

 今回見させてもらったIGCSEのテストでは知識だけを問う問題はありませんでした。知識だけの確認は、授業の序盤において、評価に含まれない段階で語句の意味を理解できているかどうかの小テストを受けています。
 試験問題を見ていただくと分かると思いますが、出された問いに対して自分でどこに焦点を当てるかを判断して論述を進めていく必要があります。
 そういった意味では、知識の定着を測ってそれを点数化されるだけではなく、その知識をどのように繋げて全体の構成を作り上げることができるかが評価の鍵となります。

問題1:イラストを見てルネサンスにおいてどのような意味があったのかを説明せよ

ここでは、3つの画像が貼り付けられています。
1つ目は筋肉がリアルに描かれた男性の絵画、2つ目は望遠鏡が描かれ、3枚目は印刷機で作業をしている人物が描かれています。
これらがルネサンスにおいてどのような役割を果たしたかを表現することが求められます。

問題2:次のテーマについて、授業の中で学んだことを用いて背景や内容を論述せよ。

「宗教改革」
「奴隷貿易」が行われたヨーロッパの背景や目的
近代における「ヨーロッパ人の優越性」はどのようなところにあったのか
「政治的イデオロギー」の分類(資本主義、社会主義など)

問題3:次のテーマに関する4つ問いから1つを選択し、その問いに答えよ。

・政治的イデオロギーの違いについて、「移民・性・気候変動・ユニバーサルヘルスケア・税」という観点ではどのような政策の違いが挙げられるか。

・資本主義と社会主義の違いについて、「市場・中央統制と機能」という観点から述べよ。

・産業革命について、「どこで始まって、どのように田舎の農民を都会に移動してきたか、三角貿易がどのように行われたか、どの大陸や国が関係しているか」について述べよ。

・奴隷貿易が歴史的にどのような結果をもたらしたのか(主にヨーロッパとアフリカにどのような影響があったか)について述べよ。

試験の後に残るもの

 大量に知識を詰め込んで試験が終わったらそれを一気に忘れてしまうというような問題のあり方を変える必要があると言われて長い時間が経過しています。しかし、実際に最近行われている日本の定期テストの問題を生徒から見させてもらうと、知識としての単語を答えたり、論述ではなく記述(1つの知識を説明するだけにとどまる)の形式がまだまだ多いように感じます。それは入試のあり方も大いに関係していると思います。

 今回紹介させていただいた論述タイプが中心のテスト問題であれば、「物事を立体的に捉えて、論理的に説明する力」は、テストが終わった後も確実に向上していきます。
 また、その過程でそれまでには持ち得なかった「物事の見方」に変化が現れます。特に社会科においては、「世の中のことはとても複雑に絡み合っており、それを一つ一つ丁寧に理解することを心がけることが大切だ」と気づくことができれば、学んだ意義は十分あるという実感が本人たちにも残るはずです。

 ただ、知識だけではいけないと分かっていてもそこから抜け出せないといったことはなぜ起こってしまうのでしょうか。1つ大きな要因として考えられることは、学校の先生がアップデートする機会が限られていることにあります。新しい知見やそれに関して自由に議論する場がない場合、自分たちの経験に頼るしかない状況が生まれてしまいます。しかし自分の経験というのは、社会構造が今とは全く違う中で受けてきた教育からもたらされるもので、今の子どもたちにマッチしないことがたくさんあります。世の中は常に変化しており、それに合わせた実践も必要なのです。

 この記事は些細な情報しかありませんが、学校の先生がアップデートする、新しい価値観を取り入れるための小さなきっかけになれたら幸いです。

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