今年買った1番気に入ったもの

パイナップルは、実と葉の部分を切り分けたあと、その断面の果肉をむしり、葉の芯を剥き出しにしてから水に漬けると、根が出て葉が伸びる。
インターネットでそうした情報を見て、わたしも実践してみた。近所の八百屋で580円で売っていた台湾産パイナップルだ。水につけてからまもなく断面から白い根が生え、葉がどんどん伸び、今や1番長い葉で、なんと1メートル近くになることがわかった。
パイナップルは、ギザギザと上に向かって葉が折り重なりながら生えているその頂上、そこに新しい実が成るらしい。パイナップルの室内栽培について書かれたインターネットのページには「陽の光によく当て、水を切らさないようにすれば、都内で鉢植え栽培をしても実が成ることがあります」と書いてあったため、わたしも時折、いつもパイナップルを置いてあるオーディオコンポの上からおろし、ベランダに出すようにしていた。
しかし、葉がなんと1メートルも伸びるとは。
厚く硬い、細かなギザギザに縁取られた鋭い葉。沖縄を除いて温帯気候とされる日本ではあまり見ないような、力強い緑。

ある日わたしは、家で仕事をする傍ら、机の端にパイナップルを載せた。どうもやる気が出ないので、その生命力のある緑に励まされたいと思ったのだ。窓を開け、ベランダからの陽がよく入るようにすると、風が吹き込み、机の上の書類を隙間からパラパラと持ち上げた。

昼過ぎ、打ち合わせが終わり、台所で水を汲んで飲んでいると、少し強い風が吹き込み、パイナップルの葉がわたしのノートパソコンのキーを撫でた。わたしは、パイナップルのその硬くて長い葉の、意外なしなやかさに驚いた。
電気ケトルに水を入れ、スイッチを押してから机に戻る。今日はこれから、かなり厄介なモデルを組まなければならない。厄介なモデルなので、解析を回すにも時間がかり、条件設定も慎重に行わなければならなず、思わずため息をつきながら画面のスリープを解いた。すると、そこには解析ソフトのトップ画面ではなく、わたしがこれから作ろうとしたモデルが映し出されていた。
わたしは息を呑み、しばし固まった後、中腰のまま恐る恐るマウスを動かしてモデルを回転させた。申し分のないモデルの組み方だ。訝しみながら設定条件を確認すると、適切と思われる数値が正確に入力されていた。
わたしはこめかみに強く指を押し当てながら、ようやく椅子に腰掛けた。まだ、これから作ろうとしていたところなのに・・・
パソコンに映し出される解析ソフトの画面を茫然と眺めていると、少し西日の差すようになった窓から、またすこし強い風が吹いた。
パイナップルの葉がザワザワと動き、裏返った。
・・・なんか書いてある?

ギザギザで手を切らないように葉に触れ、顔を近づけると、そこには、「intel」と書いてあった。
暮れかけた部屋に、わずかに電気ケトルのスイッチの「カチン」という音がした。

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