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ピースサインじゃなきゃ、何をすればいいのか

写真を撮られるとき、どんなポーズをとったらいいのか。
これは人類にとって永遠の課題かもしれない。

「そんなの自然体でいいじゃないか」とノーガード戦法で挑める方におかれましては、「うらやましいです」としか言いようがない。素の自分にすこぶる自信がなく、何か盛り付けをしなければ申し訳ないという意識でここまで来てしまった。先日新聞を見ていたら、ろくろを回すポーズだらけで笑ってしまった。カメラマンも盛り付けには苦労する。

小中学生まではピースサイン一択。コギャルブーム到来の高校時代は、雑誌eggで流行った両手を広げるリア充なポーズを1、2度試してみたものの、あまりの恥ずかしさに断念。不惑を過ぎた最近は「今さらピースサインもねぇ」と照れ臭くなり、直立不動で突っ立ったままのことも多い。

写真を盛り上げるための企業努力はしているつもりなのだ。
SNSなどで見る「主役級の人に両手で指差しするポーズ」も業界人っぽくて憧れるが、まだチャレンジする勇気が持てない。
しかし――何もしないことには、まるでツマや大葉を添えない刺身のような申し訳なさである。あ、釣りたてのアオリイカなんかは、包丁でぶった切っただけの武骨なヤツでも充分なんですけどね。直接まな板の上から喰らうのも最高です。

そんなロストポーズなジェネレーションに、ポストポーズなインスピレーションが降りてきた。

「印相」、お釈迦様などの手の形だ。
先日、あるお寺の仏像展示で初めて知ったのだが、あの手の形には一つ一つメッセージがあるらしい。手話のようなものだ。

右の手のひらを上に、左の手のひらを下に向けるポーズは「怖がらなくていい、願いを聞いてあげるよ」のサイン。座禅のように両手を下で合わせて輪をつくるのは「今、瞑想中」。OKサインのように親指と人差し指で輪をつくり、左右の手を上下に向けるのは「極楽浄土から迎えにきたよ」。人差し指を下に向けるのは「悪魔よ退散せよ」。

これ、写真のポーズとして使えるんじゃないか?
「願いを聞いてあげる」ポーズは大人の余裕が醸し出されそうだし、「瞑想中」は「おどれがしてるのは迷走じゃい!」って誰か突っ込んでくれないかな。「極楽浄土」の場所は私も知らないけど、陽気な表情とセットにすれば「楽しいところに行こうぜ」くらいの景気の良さは伝わるだろうか。「悪魔退散」は、ラッパーファッションにぴったりだ。螺髪でGO!

と思ったら、2年くらい前のネットニュースですでに同様のアイデアがネタになっているではないか。悔しい。東京駅の周りでこれでもかというほど撮っている。

ひょっとすると私が瀬戸内の島でのうのうと暮らしている間に、渋谷のプリクラや自由が丘の女子会では仏のポーズが大流行しているのかもしれない。観音菩薩や弥勒菩薩の集う結婚式や同窓会、見てみたいなぁ。二次会のカラオケでは、般若心境大コーラスだろうか。東京が極楽浄土になる日も近い。

カラス雑誌「CROW'S」の制作費や、虐待サバイバーさんに取材しにいくための交通費として、ありがたく使わせていただきます!!