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額田図書館の存在について

図書館で本を借りられなくなって数か月経つ。自分の家の近くの図書館と隣の市の図書館を、一週間ごとに利用していた我が家にとって、これは最低限度の文化的生活を維持できなくなる重大な出来事であった。

とはいえ、家の中を見渡せば未読や再読できる本はたくさんあることに気付いたので、読む本がない状況ではない。でも、なんだか物足りない。

結局、「図書館に行く」という行為がそのものが大事なんだ、ということに気付く。たくさんの知らないモノがある空間。独特の静寂な雰囲気。司書さんとの何気ない会話。

そんな中で、数年前に建て替えられてしまった旧額田図書館を思う。

そもそも、今住んでいる「岡崎市 額田地区」をはっきり認識したのは、まだ「額田郡額田町」だった頃の「額田町立図書館」に通いだしてから、だった。

当時、まだ隣の市だった岡崎市に住んでいた僕らは、子どもが乗り物好きだったこともあって、よく名鉄バスを利用していた。乗らなくてもいい一区間でもわざわざ乗ったり、クルマで行けば早いのにわざわざ大回りしてバスを乗り継いだり、レジャーとして?バスを利用していた。

そんななか、隣の秘境の町、「額田町」にバスでいけることがわかり、わざわざお弁当を持って数少ない本数のバスに乗車した。

山並みの中を走って着いた額田役場前。その近くに図書館はあった。

鉄筋コンクリート造りの武骨な外観。敷居の高さは昔の規格の175cm。180cmの僕は頭をぶつける。昔住んでた家がそうだった。全体にこじんまりしてるけど、一定の静寂な空気に満ちていた。多すぎず、少なすぎない利用者。本好きが好んで来てる感じ。

何より気に入ったのは児童書専用の部屋の存在だ。そこだけ靴を脱いで入る。カーペット敷きのこじんまりした部屋。低い本棚にたくさんの児童書。自分が30年前に小学校の図書館で読んだ本が当たり前のようにたくさん並んでいた。利用者からもらったというぬいぐるみが棚の上に座っている。大きな窓。そこからは冬枯れの景色。山、畑、田んぼ、そしてふわふわとちらつく雪。僕の求めているものがその瞬間、すべてそこにあった。

「ここに住むんだろうな」

なんの脈絡もなくそう思った。

数年後、本当に住むことになった。こういう思いは、叶う。

そして、解体される直前まで、2週間に一度通い続けた。うちの3人の子どもは、和式トイレの使い方もここで学んだ。うちの家族にはこの図書館の存在が身体にしみ込んでいて、人格形成の一部になっていることは間違いない。

今のこぎれいな「岡崎市立額田図書館」も嫌いではないけど、だれかの移住を決めるほどの力があるかどうかはわからない。木の香りのする素敵な図書館なので、これはこれでいいんだけど、さっぱりしすぎてるのですね。

でも、通ってます。

6月から使えるといいな。


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