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本当はバレーボール観戦なんてしたくなかったのに、沼った話

私は興味ないことには関わらずに生きてきた。これはバレーボール観戦を興味ないからと回避しようとしたら、魅力にとりつかれてしまった話。第三者から興味ないことの誘いに対し「やってみな、どうなるか自分でもわからん」を実体験でつづった。

2023年3月19日、遠いところから覗いていた沼にどっぷりはまり込んだ。もう脱出できない。


ただ夫について行っただけ

バレーボールファン歴35年の夫に連れられ、初めて男子バレーを観戦した。当時、結婚式・新居の打ち合わせと相談事項が山積みで、わざわざ時間を使って、バレーボール観戦をしている場合ではなかった。

社会人になってからは、バレーボールはテレビで少し見たことがある程度。

学生時代の体育の時間に、種目としてバレーボールがあった。しかし、運動全般が苦手な私は逃げ回るばかり。アタックは暴投となり、トスを上げれば指先を痛めた。準備と片付けをすれば、試合が半分免除される制度をフル利用し、率先してポールを立て、ネットを張った。

そんな私がプロのバレーボール観戦だなんて、ハードルが高すぎる。ルールも忘れている。プロバレーボールのチームがどれだけあるのか。これからどのチームとの試合を観に行くのか。頼りは夫だけ。

そんな右も左もわからない状態で夫のひいきチーム、パナソニックパンサーズの本拠地、枚方市のパナソニックアリーナに向かう電車に乗り込んだ。


「バレーボール見にいかへん?」

仕事とプライベートに忙殺されていた頃、夫からLINEがきた。結婚式や引っ越しに向けて、意思決定や連絡、必要書類の準備など、やるべきことはごまんとある。時間が惜しい。
そんな状態で、バレーボールを見に行く気分にはならなかった。夫の趣味はスポーツ観戦。特に、バレーボール観戦であることはもちろん知っている。私は疲れているし、ゆっくりしたい。1人で行ってきてほしい。その思いを返信しようとした瞬間

「もうチケット2人分買ってあるねん」

夫から送られてきた写真には、コンビニで発券した観戦チケットが2枚。
あぜんとしたが、お金は無駄にできない。もしかしたら、楽しめなくて私の時間は無駄になるかもしれない。あれこれ断る理由を探したが、チケットの威力に負けた。

興味がないものへのいざないに乗ることが、こんなに怖いことなのかとひっそりと震えた。

混乱、緊張、不安

大阪府枚方市にあるパナソニックアリーナへは、京阪電車の最寄り駅、枚方公園駅からシャトルバスが出ている。アリーナでは次から次へとバスから観客が降りてくる。あまりの人の多さにクラクラした。

アリーナまでの交通手段や時間管理を夫に任せていたのだが、当日のハプニングがあり、試合開始の10分前に到着した。

これは後々分かったことだが、試合開始の1時間前から様々なイベントが催されており、試合に向けて徐々に気分を高揚させていくよう構成されている。初心者向けの各チームの応援練習も用意されている。あいにく10分前に到着したので、応援やゲームのルールがよくわからないまま、試合が始まってしまった。

大音響、大勢の観客、今まで経験したことのない初めての雰囲気に圧倒されてしまい、私はそわそわと落ち着かなかった。速すぎるボールの行方を追いかけるのに必死だった。

ようやく地に足がつき始めたのが、1セット(約30分)が終了した頃だった。応援のルールを覚えるのに 一苦労した。

得点が入ったことがわかるようにはなったが、決まり手によって音楽も応援のアクションも違った。大混乱だった。間違えてしまったら恥ずかしい。そんな気持ちで最初は小さく小さく、ハリセンを叩いていた。
応援アイテムの紙製のハリセンは入場特典だが、ハリセンを叩いて応援するのは未知の領域だった。ドキドキした。

夢中になった

UnsplashのNicholas Greenが撮影した写真

全てが変わったのは 2セットが終わった頃、約1時間以上が経過した頃だった。

その頃には、恐ろしく大きく感じていた音響にも慣れ、視界を埋め尽くす大群衆も、試合に夢中で気にならなくなった。そして判然としなかった応援のルールも、ようやく理解できるようになっていたのだ。

大勢の人が一斉にハリセンを叩く。間違えてもわからない。得点が入るたびに、音楽に乗りながら応援アイテムを広げたり、たたんだりする作業はとても楽しく、同じチームを応援する人々とに一体感がたまらない。

目の前で繰り広げられる熱い戦いに夢中になった。ただ速いだけじゃないボールが飛んでいく。優雅な軌道を描きながら曲がり、時には急速に垂直落下をする。ある場面では力でねじ込み、ある時は引く。得点の奪い合いの駆け引きは、人生を濃縮したようなものに思えた。バレーボールの1試合に人生を感じた。

この試合はフルセットまでもつれた。勝利の女神に見放され、善戦むなしく応援のチームは負けてしまった。

初めは小さくおずおずと叩いていたハリセンは、私の興奮が伝わったかのように、いたるところが折り曲がり、破れ、ズタボロになった。最終セットになる頃には応援がわからないと困惑していたのが嘘のように、誰よりも大きく早く、選手に応援を送っていた。小さな音しか出なかったハリセンの大きくキレのいい音が出るようになった。選手たちのいいプレイが出ると「うわーっ!」と思わず声が出た。チームは負けてしまったものの、爽快な充実感だけが残った。

日常ですり減った心が、十分に満たされた気がした。テレビ観戦とは全く異なる。また見たい。今すぐ見たい。なぜ、もう1試合無いのか。終わった瞬間にすぐそう思った。

それからのこと

初観戦から1ヶ月以上後のこと、新婚旅行先は九州に決まった。
しかし、旅行2日目に東京で男子バレーボールの決勝戦が行われると知り、観戦することにした。夫をけしかけ、決勝戦のチケット争奪戦に勝利した。大阪発東京経由の九州への新婚旅行の計画が立った。決勝戦のチケット販売は秒殺だった。

もし、バレーボールに興味が無いからと、夫の誘いを断っていたらどうなっていただろうか。

興味のないイベントへの誘いは、人生において高確率で発生する。
仕事では、分野外の資格取得の学習や読書。時世に合わせて増えてきた職場の飲み会。
プライベートでは、友人や知人から知らないアイドルやアーティストのライブ。

かどの立たない断り方を模索するのもよかったかもしれない。しかし、誘いに乗ったのが功を奏した。私の人生に新たな彩りが増えた。思いきってバレーボール観戦をしてよかった。

全く興味がなかった男子バレーボールに沼った話。

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実はこの話は連載の予定で、続きを書こうと思っている。応援してくれたら本当に嬉しい。


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