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アメジストの魚1-1

(雨だ…。)

傘を忘れた僕を濡らす雨粒。
当たる度に喉のあたりがジクジクと痛む。これもこの病の症状の一つらしい。喉仏の辺りにある"ソレ"は日に日に硬さを増している気がする。きっとあと1ヶ月もしないうちに生え変わるんだろう。

あーと声を出す動作をする。開いた口からは掠れたカサカサした音が漏れるだけで声にはならなかった。たったの一音でさえ生まれない。

(やっぱりだめ、か。)

この病には人魚の名前がついていて、進行していくと声質などが変わり叫び声や泣き声さえも綺麗な歌のように聞こえるらしい。苦しみも悲しみも他人には美化されて届かないなんて何だか可笑しくて笑ってしまう。

少し強まった痛みを無視して歩く。
冬の始まりに潰してしまった喉は、白い息を吐き出すばかりだ。