10円の日記

 お賽銭箱を開けて勘定する。
賽銭ドロボーではない。自治体の当番なのだ。
ビニールシートの上にぶちまけると大量の十円玉に混じって千円札や五百円玉がちらほらみえる。
7、8人の当番が集まり、硬貨を種類ごとに10枚の山を作っていく。
僕は10円玉の山をつくっていった。

3つ、4つと山をつくっていく内に違和感に気づく。

なんだろう……。なんだか……。
あ!ギザギザがない!

10円玉の側面に刻まれているはずのギザギザがないのだ。なんだこれは。
思わず、となりで一緒に10円玉を数えていたおばあちゃんに確認する。なんか!これ!ギザギザないですね!
おばあちゃんは、んー?ああ。ギザギザがないねぇ。とのんびりしたものだ。 
僕は興奮していることがなんだか恥ずかしくなり、神社境内の静けさの中、粛々と賽銭を数え続けた。

 後で調べたところ、ギザギザがついている十円玉は特定の年代にしかつくられておらず、むしろ珍しいらしい。
そして、多分、僕は初めてギザギザじゃない十円玉をみた。

 約30年の人生で何度も触れた10円玉が、全部ギザギザの十円玉である可能性はどれくらいのものだろう。どうでもいい奇跡に震える。

最後まで読んでくれてありがとー