催眠術

明転。

舞台上で、佐藤健太(不良)が机に座ってノートを写している。
下手から、鈴木一郎(いじめられっ子)が登場。話しかける。

鈴木 : あ、あのさ
佐藤 : ん?
鈴木 : 催眠術、いい?
佐藤 : え?
鈴木 : あ、えーと……。さ、催眠術
佐藤 : 催眠術?
鈴木 : うん、催眠術
佐藤 : なんで?
鈴木 : いや、あの……
佐藤 : てゆーか、お前よぉ、焼きそばパン買ってこいっていったよなぁ
鈴木 : あ、うん。……はい。

鈴木、ズボンとお腹の間に挟んでいたペットボトルを渡す。

佐藤 : おまっ!どこから出してんだよ。……ったくよぉ

佐藤、ペットボトルを乱暴に受け取ってごくごく飲む。
少し間をおく。

佐藤 : ミルクセーキじゃねぇか! 焼きそばパンじゃねぇじゃねぇか!

佐藤、椅子から立ち上がり、鈴木に詰める。
鈴木、ぴょん、と飛び跳ねて後ずさりする。

佐藤 : なんだ、お前

佐藤、しゃがみこんで、鈴木が飛び越えた部分の床を調べる。

佐藤 : 香ばしい匂いがする……
鈴木 : あらかじめ、バターを塗っておいた
佐藤 : この野郎!

佐藤、バターの床をジャンプで越える。鈴木に飛びかかろうとする。
鈴木、ズボンのポケットからスプレーを取り出し、鈴木の顔に吹きかける。

鈴木 : うわ!

佐藤、スプレーをくらって後ずさり、バターで滑って後ろに倒れ、机に頭を打ち、床に倒れる。
机に置いてあったミルクセーキが倒れて、佐藤の顔にビシャビシャかかる。
佐藤、息も絶え絶えに最後の力を振り絞って、鈴木のもっているスプレーを指さして発言する。

佐藤 : ……なんだ、それ?
鈴木 : これは、マーガリンだ
佐藤 : なんで乳製品……?

佐藤、気絶する。

鈴木 : なんか、思ったより派手に倒れたな。……思いのほか、すっきりしてしまった。
でも、せっかく練習したし。やってみるか

鈴木、佐藤を雑に抱えて椅子に座らせる。
鈴木、対面した状態で佐藤の両肩をもって軽く揺すりながら話す。

鈴木 : はーい……目を閉じて……あなたは家に帰ってリビングのソファでくつろいでいます……
こいつの家ってソファあるのかな……えー……とにかくリラックスしています……
ほーら……だんだん眠くなってきた……あ……こいつ気絶してるんだった……

鈴木、佐藤の両肩から手を放す。

鈴木 : 気絶してるときって、催眠術効くのかな。
でも、せっかく練習したし。やってみるか

鈴木、佐藤の両肩をもって軽く揺すりながら話す。

鈴木 : はーい……あなたはとても心地の良い……そう……とても心地の良い眠りについています
……それはもう天国のような……とても気持ちがいい……
そして……目覚めるとあなたは……鈴木になっています‥‥…
それでは……3つ数えると……あなたは……鈴木一郎として目覚めます
……1‥‥‥2‥‥‥3‥‥‥ハイ

鈴木、パチン、と指を鳴らす。

佐藤、目を覚ます。

佐藤 : ん?なんだこれ……ベトベト……(匂いをかぐ)香ばしい……

佐藤、自分の顔にベトベトしているものを触り、匂いを嗅いでいる。

鈴木、両手を広げてアピールする。

鈴木 : さあ!これからが復讐タイムだ!これまでにお前が僕にしてきたことを……!僕と同じ目に遭わせてやる!……うわ!

鈴木、佐藤に迫る途中で、自分が床に塗ったバターで滑って転び、頭を床に強打する。
頭から血がドクドク流れる。

佐藤 : うわ!うわー!

佐藤、走って上手から退場。


暗転

最後まで読んでくれてありがとー