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「アルファドッグ」理論を暴露 (後編)

「支配」を犬に行使することは間違った方法で、良い関係を築く為にはなりません。(原文:Debunking the “Alpha Dog” Theory Whole Dog Journal)

ポジティブ強化トレーニングの誕生

軍隊スタイルの支配理論での犬の訓練が完全に停滞しているように思われたとき、海洋哺乳類トレーナーのカレン・プライアーは、独創的な本「Don’t Shoot the Dog」を執筆しました。1985年に出版されたこの小さくて控えめな著書は、人間行動の自助を意図した本でした。 カレン・プライアーは、クリック音を発する小さなプラスチックボックスと組み合わせた彼女のささやかな本が、犬の訓練と行動の世界に多大なパラダイムシフトをもたらすとは夢にも思いませんでした。 しかし、変革は起こったのです。

獣医行動学者のイアン・ダンバー博士がペットドッグトレーナー協会(APDT)を設立する1993年まで、非常にゆっくりした進歩をたどります。 トレーナーの教育とネットワーキングのためのフォーラムというダンバー博士の未来像は、現在は世界で約6,000人のメンバーを擁する組織に発展しました。 APDTのメンバーシップは、強化ベースの積極的なトレーナーに限定されていませんが、その指針には次の声明が含まれています。

私たちは、報酬ベースのトレーニング方法を促進することによって、嫌悪的手法の使用を最小限に抑えます。

このフォーラムの設立は、ドッグトレーニング界での情報の急速な普及を促進しました。メンバーがメモを比較し、科学的で犬に優しいトレーニングへのアプローチをサポートできるオンラインディスカッションリストの作成によって確固としたものに発展しました。

犬にとって状況はかなりバラ色に見え始めていました。 ポジティブな市場は、文字通り、ジーン・ドナルドソン、パトリシア・マッコネル博士、カレン・オーバーオール博士、スザンヌ・ヘッツなどを含む数十人の質の高いトレーニングと行動の専門家の本とビデオが沢山紹介されています。 ポジティブトレーニングの進歩、そして行動科学とクライアントへの適切な情報の伝達を取り入れた教育を踏まえたドッグトレーニングの専門職により、アルファロール、首筋を掴んでの振り回し、首吊り、溺れさせる、平手打ちなどの痛みを引き起こす虐待的な方法は絶滅の道をたどる事になります。

ポジティブ強化トレーニング技術の一進一退

2004年の秋、ナショナル・ジオグラフィック・チャンネルは間もなく大人気のショーとなった、ドッグウィスパラー(日本語タイトル:ザ・カリスマ ドッグトレーナー ~犬の気持ち、わかります~)の放送を開始しました。 その為、支配理論は復活しまたしても流行に乗ります。 今日、トイレトレーニングの失敗、机に飛び乗ってしまうなどの望まない行動、そしてあらゆる形態の攻撃性はすべて、アルファ復活の信者による「支配」に起因する可能性が高いとされています。

「過去1世紀を通じて、支配モデルを使用して正常に訓練されたすべての犬を見てください。 支配ベースのトレーナーすべてが間違っているとは言い切れません」と反論する人もいます。

実際、過酷な力に基づく方法(専門用語では「正の罰」)はオペラント条件付けの一部であり、過去の数十年をかけて証明されたように、これらの方法は機能します。 支配ベースのトレーナーは行動を止めるのを得意としています。何かをするように指示されない限り、行動を起こすのは安全ではないと犬に納得させているのです。 その方法が効果的な犬もいますが、全ての犬に効果的なわけではありません。

私個人の見解ではありますが、非常に柔軟なものから非常に頑固なものまで犬の性格は実に幅広いと言う事です。 過酷な昔ながらの支配理論を使用した方法は、明らかな脱落者を出す事無く行動を効果的に抑制することができます(常に行動での脱落者は存在しますが・・)攻撃的ではあるが、反撃に出れるほど強くない平均的な性格の犬ならばの話です。 支配理論の下では、犬が反撃に出れば、パックリーダーまたはアルファとしての自分を主張通す為に、犬が服従するまでより激しく攻撃し続けなくてはなりません。

問題は、犬が服従しないこともあり、暴力のレベルがエスカレートすることです。 取り敢えず服従して見せ、次に人間が彼らに対して暴力的で不適切な仕打ちをした時、再び攻撃性を爆発さるケースもあります。 支配理論の訓練の下では、これらの犬はしばしば手に負えないと見なされ、使役犬に適していないか、家族犬として安全ではないと判断され、殺処分宣告されてしまいます。 彼らが不適切に扱われなかったなら、そのほとんどは全く起こらなかった問題なのかもしれません。

スペクトルの反対側では、非常に「ソフト」な犬は、支配理論を使うトレーナーによる不適切な訓練によって心理的にいとも簡単に傷つけられる可能性があります。 このような犬は、予測不可能かつ不当な暴力によって人間に対する恐れと不信感をつのらせ、シャットダウンしてしまいます。

ほとんどのクロスオーバー・トレーナー(昔の方法でトレーニングを行っていたが、現在は正の強化ベースのトレーニングに移行したトレーナー)は、多くの犬を古い方法で正常にトレーニングしたことを教えてくれます。 彼らは犬を愛し、犬もまた彼らを愛していました。

私はクロスオーバートレーナーであり、それが真実であることを知っています。 私も他のクロスオーバートレーナー同様、すべてのトレーニングをやり直し、犬とより良い関係を持ち、よりストレスの少ない生活を送ることができることを心から願っています。 私たちが共有したものを、更に喜びに満ちたものにする為に。

私たちは犬ではありませんし、犬はそれを知っています

最後に、私たちの犬が私たち人間を群れのメンバーであると考えていると言う推測は、単に馬鹿げたものである事を指摘しておきます。 犬はほとんどの場合、微妙な犬のボディランゲージのを読んで理解する事に私たちがどれほど無能であるかを知っています。 私たちは、これらの微妙なボディランゲージを真似しようとするのは、本当に不可能なのです。 何らかの形で自分たちの社会構造を犬の社会構造に当てはめ、彼らと有意義なコミュニケーションを取ろうとする私たちの試みは、失敗して当然です。 犬の群れになろうとするのをあきらめ、人間が他種と共存していることを認め受け入れる時期ではないでしょうか。平和に共存する事こそが、私たちが目指すことではないでしょうか。

実際、成功を収めているソーシャルグループは、支配ではなく自発的に敬意を払うメンバーによって活動しています。 ソーシャルボディーランゲージのポイントは、対立を引き起こすのではなく、対立を避けることが目的です。 犬同士の関わりを観察してみてください。 何度も何度も犬がお互いに一歩引くのが分かるでしょう。 常に同じ犬が引くとも限りません。

犬B:「ねえ、先に通っていい?」  犬A:「どうぞ、行ってちょうだい」そして犬Bは狭い廊下を通り過ぎます。

犬A:「私はその骨がどうしても欲しい」 犬B:「いいよ、今は噛み噛みする気分じゃなかったから」 犬Aが骨を取得する

社会階層は存在します。飼育されている犬のグループや人間を含む他の多くの種に階層は存在し、その階層は流動的です。 ある犬がある遭遇ではより積極的であったのに対し、次の状況では異なった行動を示す事があり、それぞれの状況に応じてそしてそれぞれの犬が結果についてどれほど強く感じるかによって変わってくるのです。 これらの階層がどのように機能し、社会グループのメンバーがどのようにコミュニケーションを取るかについては、数限りない微妙な要素が存在するのです。そう、ありとあらゆる動物種の間で。

今日、教育を受けたトレーナーは、犬と人間の相互作用は社会的ランクではなく強化によって駆動している事を認識しています。 強化された行動は繰り返し強化されます。 犬が机の上ややソファに乗るなどの望まない行動を繰り返したとしても、それは犬が世界を支配しようとしているからではありません。 それは、卓上に置かれた食べ物を見つけるか、ソファで快適に過ごすことで彼が強化されてきたからです。 彼は腐食動物であり、臨機応援であり、そこに物があれば取りに行くのです。 望ましくない行動を繰り返し犬が強化されるのを防ぐ方法を見つけ出し、犬にしてほしいと思う行動は惜しみなく強化し、相方向の愛情、尊敬、コミュニケーション、そして親交も持って犬と一緒に過ごすこと、これこそみんなが望んでいる姿ではないでしょうか。(翻訳:吉見)

「アルファドッグ」理論を暴露 (前編)



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