夜の雨、アスファルトの水たまり。街灯の灯り。

もとより空想家であった。

自分のことは王国の姫で、いつか本当の世界から迎えが来るのだと思っていた。 はたまた一流の魔女で、杖を一振りすれば世界は輝くのだと信じていた。「本当の姿」になれば。「ほんとうのすがた」になれば。この姿は仮初めである。

昔はいつだって自分が主人公だった。

この世界の主人公は、この人生の主人公は自分なのだと信じて疑わなかった。いつからだろう、わたしは主人公ではないと感じるようになったのは。思春期の屈折が原因か、それとも、SNSの台頭により、紛れもない「主人公」の存在に晒されるからか。怒りも悲しみも喜びも、全ては「主人公」のために誂えられた私という「村人」の役割を演じさせられているのではないか。

「主人公」になることを切望しているのか忌避したいのかすらももうわからない。

もとより空想家であった。

それは見たくないものを見ないためなのか、明日に羽ばたく翼からこぼれた羽なのか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?