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ファン層をしっかり見据えている劇場版スパイファミリー

2023年12月25日 情報追加編集

まずネタバレにならない公開されたデータを。
正式名称 劇場版 SPY×FAMILY CODE: White
公開日(日本) 2023年12月22日
ラージフォーマット IMAX 2023年12月22日(公開と同日開始) DOLBYCINEMA(2023年12月29日開始予定)
監督 片桐崇
脚本 大河内一楼
キャラクターデザイン 嶋田和晃
配給 東宝
制作 WIT STUDIO CloverWorks
主演 江口拓也
その他キャスト 早見沙織 種崎敦美 松田健一郎 他
 
スパイファミリー(SPY×FAMILY)とは?
冷戦期ヨーロッパをモデルにした架空の世界が舞台。
ウェスタリス(西国)の諜報機関WISEに属する凄腕スパイ黄昏が名門学校イーデン校に息子ダミアンを入れているオスタニア(東国)の大物政治家ドノバン・デズモンドに接近するため精神科医ロイド・フォージャーを名乗り、孤児院で知り合った養女アーニャをイーデン校に入学させ、オスタリア首都バーリントの市役所職員ヨル・ブライアと結婚(イーデン校入学には父母が揃っているのが要件のため)、アーニャの頼みで飼うことになった老犬ボンドを含め偽装家族となって生活する。
アーニャには読心術、ボンドには未来予知の超能力があり、ヨルはオスタニアの暗殺集団ガーデンに属し、いばら姫と呼ばれる凄腕殺し屋だが互いに素性を隠して暮らしている。
WISEにはロイドの上司シルヴィア(表向きはウェスタリス外交官)や後輩のフィオナ(表向きは病院の事務員)がおり、またオスタニアの情報屋フランキー(表向きはタバコ屋)の協力を得ている。
またヨルには弟のユーリがおり表向きは外務省職員だが実際には秘密警察・国家保安局職員であるがフォージャー家でそれを知るのはロイドのみ。
市役所にはカミラたちヨルの同僚がいる。上司のマシューはヨル同様ガーデンに所属する殺し屋。
イーデン校にはアーニャやダミアンのほか兵器会社社長の娘ベッキー・ブラックベルなどがいる。担任のヘンリー・ヘンダーソンは寮長も兼ねる厳しい教師。
他にも準レギュラーの主要人物がいる(アニメ未登場のドノバンの妻メリンダ、フォージャー家隣に引っ越してきた老夫婦ジークムント・オーセン/バーバラ・オーセンなど)。
 
 
個々のエピソードとしてはフォージャー家含め主要メンバーがそれぞれの職場や学校、自宅近辺でのトラブルを各自の能力で解決しようとする、というものが大半。
他に各自の過去話が時折入る。
大人の主要メンバーにアングラな職業・組織が多くウェスタリスとオスタニアが長年戦争をしていたという背景もあり、各キャラの過去はかなりシリアスでシビアなものであるが、基本はギャグ漫画で主要メンバーのスキルも現実離れしたレベルのものが多い。
また通常はペットに苗字はつけないがボンドはボンド・フォージャーと苗字付きであり家族の一員であることが強調されている。
オスタニアのモデルは東ドイツ、ウェスタリスのモデルは西ドイツのようであるがイーデン校はイギリスのイートン校がモデルになっているところもあり、またバーリントを走る市電はウィーンで冷戦期に走っていた車両だったり特に特定国にこだわらずヨーロッパ各地をモデルにしているようである。
オスタニアも東ドイツと異なり議会制民主主義で衛星政党制ではない複数政党制政治が行われている。
裏社会ではマフィアのグレッチャー組、テロ組織の赤いサーカスなどの組織がある。
 
主人公はロイドで話の始まりもロイドからであり単行本1巻表紙もロイドであるが、キャラ人気は圧倒的にアーニャが高い。
2022年11月マイナビ調査 https://news.mynavi.jp/article/20221108-2501356/ では45.5%が好きなスパイファミリーキャラにアーニャを選んでいる。
 
 
ここからネタバレあり
スパイファミリーの映画、1作目としては非常に手堅い。
ストーリーも映画オリジナルの敵が出てきてそれをフォージャー家総出で倒すとストレートなものだし、ロイドの潜入や変装、ヨルのバトル、ボンドの予知、アーニャの読心など各自の能力が生かされる展開もオーソドックス。
最初にフォージャー家がなにものか説明が入り、他のメインキャラも立場や性格が分かりやすく描かれる。
出番も概ねフォージャー3人と1匹でまんべんなくある(ボンドは後半飛行船に乗らずフィオナといるので減るが)。
絵的には飛行機に鉄道、自動車、飛行船と水運以外の乗り物が出てくる。水運は豪華客船編で出しているのでバッティングを避けたのだろう。
これは視聴層をよく調べて作っていると思われる。
スパイファミリーに関してCCCの調査結果がある(2022年8月の記事で調査が2022年4~6月のデータに基づくのでアニメ1期1クール目の社会現象になりだしたあたり)。
https://www.cccmk.co.jp/columns/cccdata35
これによると10代の人気がある一方、女性では40代の支持も高い。男性も40代支持がある。
それ以下の年代でいうと進研ゼミの2022年11月の小学3~6年生アンケートではあこがれの人3位がアーニャで7位がヨルとなっている。(アンケート回答者の13816人中9238人が女性である)
https://kai-you.net/article/84242/page/2
ということは子供と親両方をターゲットにするのが得策となる。
マンガ・アニメ市場では親は子どものものを買っているだけ、という意見がかつてはあったが、財布を持っているのが親である以上、親を意識した作りにしたほうがよく、また親どころか祖父母世代までマンガ・アニメ・ゲームに慣れ親しんでいる昨今ではより市場規模を拡大できる。
 
親であるロイドとヨルの活躍の場として敵とのバトル、潜入等の見せ場を出し、子どものアーニャとペットのボンドにもロイドやヨルを助ける見せ場を作っている。CMでもそういうシーンを入れて家族全員の活躍を示している。
 
これとは別にキャラ人気の高いアーニャのイメージ通りのシーン(かわいい、アホ、健気など)を出す。変顔を連発したり無謀にも射撃の屋台に挑んだりする。
家族受けを意識しているのは終盤に飛行船を操舵して街から湖に突入させるシーンに顕著で、ロイド1人で舵を動かそうとするが動かせず、3人(上記の通りボンドはここでは不在)で操舵して成功するのである。
ヨルは腕力があるのでロイドと2人なら動かせる、というのは納得できる。
だがアーニャは小1(自称6歳、推定4,5歳)でおおよそ加勢しても無力である。
が、ここは家族で一丸となって非常事態を食い止める、ということで家族の団結を見せているのである。
また操舵はお互いに正体を明かさずに協力できる。
正体を知られない、というスパイファミリーの基本設定を崩さずにできるシーンなのである。
絵的には他にもこの後のフォージャー家が公園を歩くシーンで3人と1匹の影がつながっている(ロイドとヨルがアーニャと手をつなぎ、ロイドがボンドの紐を持っている)など家族の仲を強調する箇所がある。
視聴者にバラバラになりかけた家族が危機を乗り越え、一つにまとまったという安心感を持たせている。
単純に軍の暴走を止めるだけならロイドが1人で軍に乗り込むだけでいいし、お菓子作りで勝つだけならアーニャが料理教室に通う、で済む話だろう。だがそうすると1人の出番が突出してしまう。
そうなると子供か親かどちらかが退屈する可能性が出てくる。
もちろんスパイファミリーの映画がシリーズ化して安定して集客できるようになれば今回は特定の誰かをメインに据える、みたいなことも可能である。ドラえもんやコナンはそれをやって成功している。だがスパイファミリーは今回が1作目である。メインのフォージャー家をまず均等に出し、レギュラー陣も一通り顔見せしてスパイファミリーを全く知らない、名前(特にアーニャ)しか知らない人でも分かるようにしたほうがスパイファミリーという作品全体のファンを増やすことになる。
オリジナルにしたのもおそらくこれが理由だろう。
原作の豪華客船編(ヨルメイン)は映画2時間分のボリュームがあるし、ロイドの過去編も膨らませば2時間の映画にできるだろう。映画の制作開始後に連載したバスジャック編(アーニャメイン)も映画にできる分量だ。
いずれもアクション性は高いしメインの1人の個性を存分に生かしたエピソードだ。
だがいずれもフォージャー家の1人が突出して出番があるエピソードである。
初の映画化には使いにくい、といえる。
また低年齢層(小学生など)受けということで中盤下ネタ連発になるところがある。マイクロフィルム入りチョコを食ったアーニャにマイクロフィルムを出させようと敵がトイレを急かすのだがアーニャも催してしまい苦んだ末にうんこの神なる幻影を見るのである。こういうネタは特に小学生受けするネタである。うんこの神が出てくるシーン、ひところのジブリ作品のような絵画チックな絵になっていてかなり作画も演出もレベルが高く、エンドロールにうんこの神の世界 美術監修なる肩書まで出てくる。
一方で20代以上の大人世代向けにロイドがヨルに口紅をプレゼントしてヨルが塗ったり、浮気を疑ったヨルにロイドが観覧車で弁明したりするシーンがある。男女の仲をどうすればいいのか、単に偽装結婚として割り切ろうとするのか愛情を確かめるべきなのかなど悩める2人を見せて大人の関心を引き付けている。
メカや背景の作画・描写もしっかりしていて、冷戦序盤-中盤のプロペラ機や客車特急(モデルはイギリスの特急HST)、クリスマスマーケットの屋台に観覧車などで絵的な満足感をもたらしている。
ロイドやヨルのアクションも序盤のキャラ紹介的なシーンに始まり、終盤のバトルまで作画・演出・音響ともに作り込まれていて全年齢で満足度高くなるようにしている。
アーニャの変顔も100面相と言えるくらいにコロコロ変えて出してくるのでアーニャグッズや変顔だけ見たことある人でも「ああ、これだ」と分かるようにしている。
劇場版スパイファミリーは自分の客が誰かをよく見て作られている、と言えるだろう。

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