オリジナルギター制作忘備録


今回は、僕のオリジナルモデルの解説です。

このギターのコンセプトは、完全物質主義です。

使い勝手を度外視して、楽器としての良さに全振りしてあります。人の思い通りになる道具ではなく、ひとつの生き物のような感じを目指しました

人がギターを選ぶのではなく、ギターが人を選ぶ、という感じですね。

巷にあるギターはやはり商業主義、売れるかどうかが肝ですが

そうなると万人にとって弾きやすいスペックに偏っていくので、ぶっちゃけ楽器としての良さが死んでいるな、と感じる事は多々ありました。

初心者にも弾きやすいとか、そういう方向にしないと売れ行きが悪くなりますからね

しかし、それはオーダー品には関係のない話。ならば、徹底的にこだわって、本来の楽器としての良さを追求しまくったギターを作ろう、という感じです。

万人にとって扱いやすいか?と言われるとそうではないし、特に初心者に初めて渡すような楽器ではないです。

一通りあらゆるギターを弾いてきて、楽器として良いのは本来こっちだよな、という所に行き着いたような、かなり玄人向けのモデルになっています。

写真はこちら↓

全体図
ボディー正面
扱いやすさと、音の良さは必ずしも一致しない

人にとって扱いやすくすると、楽器としての良さが減り

楽器としての良さを追求すると、使い手を選ぶ代物になってしまう

もちろん、使いやすさと音の良さが一致する場面もあるんですが

このような、どちらをとるか?という究極の2択を迫られる場面がちょこちょこありました。

特にネックなどはそんな感じで、太い方が本来楽器として良い音にはなるものの、太いネックは弾きにくい、というイメージがあるので大衆に売り出すには不向きです。

実際には、全部が全部弾きにくいという事はないんですが(笑)

後述しますが、ネックが太い事で良い事もたくさんありますよ。


オープンコードもしっかり握って弾けます
余白なく手にフィットします
しっかりと「押さえる」動作ができます

あとはピックアップですね。

弾き手が楽に弾けるのでハイパワーなものが好まれる傾向ですが、僕はあえてパワーはそこそこに抑えています。

マグネットもセラミックではなく、アルニコを選択、それもアルニコ2という少し磁力が弱く、古いタイプのものですね。

なるべくスムーズに、ギターという楽器としての良さを素直にそのまま出せるように考えていきました。

メーカーの紹介

今回僕のモデルを作って下さったのは、東大阪に拠点を構える「MSMI 」さん

東大阪と言えば、スペースシャトルの部品なんかも作られるような高い技術、ノウハウを持った町工場が集まる場所です

元々は金属加工を専門にやられていたそうですが、ご自身がギターを弾いていた経験もあり、自分で作ってみようと立ち上げられたブランドです。

特徴はやはり精度の高い加工ですね。

高精度のNCマシンによって狂いなく造られるので、色んなものがピッタリとはまり、サスティーンが非常に良いです。

ジョイント部分などにも工夫があり、ネックのセンターがズレない仕組みになっていて、一般の方でも気軽にネックを付け替えられるほどメンテナンス性が高いです

鳴り方もふくよかで深くまで鳴り込んでるような、MSMIさん独特のギターの鳴り?みたいなのを感じます。

もしかしたら、ブラインドテストしてもわかるかも知れません(笑)

ピッチの良さも印象的です。

実は僕はけっこうギターのピッチの不正確さには頭を抱えていて、某F社やG社のギターがちょっと苦手ではあるんですよね

あんまり使っている所を見ないと思いますが、実はそんな理由があるんです。

まぁ不安定故の良さというか味もあるんですが。

一応、それらのメーカーの音というか、キャラクターが求められる事もあるので楽器として所持していますが、本当の所を言うとピッチ対策はもう少し追い込みたい部分でした。

解説しだすと難しい話になりますが、ピッチを良くしようとすると、毎曲、曲のキーが変わるごとにチューニングを合わせるような事になってくるので、現実的に無理が出てきます。

最近見られるような、扇状に広がったファンフレットなどもそうで、ギターのピッチ対策は色々と各メーカーが奮闘していますが

ギターとして大きく見た目が変わってしまったり、先述のように実戦で使うには現実的な難しさもあるので

各部をほんの僅かずつ調整したりすることで、伝統的なギターらしさを残しながら、ピッチの良さを成立させています。

また、フレットの加工も要注目ですね。

大抵はネックを横から見た時にフレットエッジが見えるものが多いですが、MSMIさんのモデルはその正確な加工によって、横からフレットが見えないようになっています。

当然ながら、フレットの角も丸くなっていて外に出ていないので、すごくストレスフリーに弾けます。

長く使っていると木材の変質によってフレットエッジが出てきたりもしますが、これならそういった心配もないんじゃないかと。

手作業での作業と、機械での正確な加工をうまく両立させている印象ですね。

木材

木材は全て1ピース、つまりひとつの材を丸ごと使っています。

ネックはメイプルの材を1本、ボディーはマホガニーの材を1枚。

なので、どこを触ってもちゃんと鳴っているし、鳴り方も綺麗でバラツキがないです。すごく自然。

これから弾き込んでいくとともに、鳴りがさらに完成されていく事でしょう。

ギターの音に木材は関係ない、というのが最近話題になった事がありましたが

ピックアップやアンプにもよるので、一概にそうとは言えない、というのが僕の持論です。

というか、弦の振動をピックアップで拾うのだから、弦が振動している土台である木材が影響しないはずはないんですけどね…

ゴリゴリに歪ませたり、それこそシミュレーターであれこれとエフェクトをかければ、確かにギターの差は無くなるかも知れませんが

なんだかんだ、木の材によって弾き心地というか、身体に伝わってくる振動が違ってくるし

「このギターにはこんな演奏が合う」と生音の段階で感じるポイントがあるんですよね。

そうなってくると、書く曲や思い浮かぶフレーズも変わります。

素人耳にはわからない、というレベルかも知れませんが、よく弾いてる人には歴然です。

指板はローズウッド、あとは細かい部分ですがエスカッションもローズウッドで作られています。とにかく「木」にこだわりました。

トップ材はバールメイプルで、良い感じに杢目が出ています。

ちなみに、バックパネル等もマルニカラという木材を使用しています。


トップ剤のバールメイプル
張り合わせ部の加工
バールメイプルトップ
コンター加工部
ボディー材加工
バックパネル
パーツ類

パーツはゴールドで統一しています。

ペグ、ブリッジはGOTOH製、部品の精度が素晴らしいです。

ペグはロックタイプなので、弦交換も素早く行えます。

トーンポットに関しては、今までメインで使用していた楽器だと取り外していたり、バイパスしているギターの方が多かったんですが

あちこちで演奏していると、ライブハウスごとの特色や、関東、関西での電源Hzの違い等も考慮して取り付ける事にしました。

個人的に関東の電気の方が機材の音が元気な印象がありますが、その分少しブーミーに感じる事があるので、関西では時折少しトーンを下げたりしています。

フレットはステンレスのジャンボフレット、ベンドもやりやすくて快適です。

僕はロングトーンのフレーズもよく使いますが、ビブラートの時なんかに、指板を擦る音がノイズとして出てしまう事があるので、それを防ぐ意味でも高さのあるフレットやスキャロップは有効だと思いますね。

押さえやすいので、逆に力んで押さえるとすぐピッチが上がってコントロールが少しシビアになりますが…

音の方向性

狙った音としては、少しヴィンテージ寄りの、レスポールに近い厚くて甘い音

それでいて、レスポール特有の音の立ち上がりの鈍さを解消したような、そんな音を目指しました

その為に選ばれたのが、ボディー材のマホガニー、それに張られるメイプル、そしてローズウッドの指板です。

ここまでは変わらず、唯一の違いとしてメイプルネックにしました。

ネックはマホガニーにするか、けっこう悩んだ部分ではあったんですが

やはり7弦という事もあり、そもそも中低域は普通のギターよりも求められるし、そういうシーンでは単音リフが綺麗に鳴り切らないと綺麗に聞こえないだろう

という事で、レスポールよりもタイトで硬めなメイプルを選択しました。

結果的に、狙った通りと思えるトーンが出来上がりました。

メイプル特有の音の粘りも出ている感じです。

ボディー厚も、一般的なストラトタイプより少し厚くなってます。

これは、ネックが太いぶんメイプルの味が大きく出るのを防ぐ効果があります。

ヘッドについては、元々は片側7連ペグでしたが

僕のモデルでは試験的に4:3になっています。

というのも、片側7連だと時折入らないギターケースが出てくるので、それを考慮して小型化を試みました。

あとはチューニングですね。

7弦ギターあるあるなんですが、チューニングしてる時に何弦だったかがわかりにくくなりがちなんです。

特に4.5弦あたりが(笑)

それもあって、4:3のヘッドを試してみました。

ちなみに、ヘッドとネックサイドのポジションマークは、ルミインレイという蓄光素材を使っていて、暗所で光るようになっています。

暗転時にも安心できる設定ですね


片側7連だとこんな感じ
オイルフィニッシュ前のヘッド
オイルフィニッシュ後のヘッド
ヘッド部のルミインレイ
ピックアップ

さて、ピックアップですが、こちらもMSMIさんのオリジナルモデルです。

大抵は出来上がってるものが使われがちですが、ここまで自作する事で生産コストを下げる事と、トーンの追求を可能にしています。

恐らく市販モデルはセラミックマグネットかアルニコ5マグネットが使われるんじゃないか、と思います

程よいコンプ感があり、扱いやすくなるので。

僕のモデルには、アルニコ2マグネットが載っています。

有名どころだと、スラッシュの使っているレスポールにもアルニコ2が載ってますね

現在主流のアルニコ5マグネットは、レンジが広くて高域、低域まで幅広く出るんですが

そんなに要らんだろう、という所も出るんですよね。あとパワーが割と強めなので、元気な音、誰が弾いても同じになりやすいです。

それが良さでもあり、逆に捉えれば優等生過ぎてつまらなくもなってくるんですよね。

エヴァンゲリオンで言う所のアスカみたいなもんでしょうか?

元気で明るい、わかりやすいクラスのマドンナみたいな感じでしょう。


それに対してアルニコ2は、もう少しマイルドで、ギターにとって必要な部分だけが出るような印象なんですよね。

特に高音域がキツくなく、パワーも大人しめ、歪ませてもマイルドさが残るんですよね。

エヴァンゲリオンで言うなら、綾波レイみたいなもんですね。

学生時代にクラスの端っこで大人しく本を読んでいるが、よく見たらすごい美人な感じです。

最近の機材って昔と違って綺麗によく歪むので、ハイパワーなピックアップはそれほど必要ないと個人的には思っています。

この頃の感じではだいたい16kΩあたりが主流のように感じますが、僕のモデルは11〜12kΩのものが使われています。

良く言えば素直な音ですが、そのぶんミスもそのまんま出てしまうので、キッチリ弾かないといけません。

このあたりは少し扱いが難しいと感じる人もいるかも知れませんね

ピックアップの位置も少し下げ目ではあるので、多分10kΩ前後ぐらいが僕の好みのゾーンなのかも知れません。

余談ですが、7弦の場合は6弦よりも2kΩほど高い数値を狙った方が良いトーンになりやすい気がしますね。

弦の幅が広い分、パワーが下がったように感じやすいです。

あとは単純に、弦が太い分歪みが乗り辛いのもあるかな?

ピックアップの配列は2ハムバッカー、セレクターは5点で

フロントハム、フロントシングル、フロントシングル+リアシングル、リアシングル、リア

という風に、両端がハムバッカー、真ん中あたりはシングルの出力になります。

一応色んなお仕事も引き受けているので、そういった現場でも対応できるように、この1本で色んな音が出るようにしています。


オリジナルのピックアップ
ネックグリップ

ネックもこだわったポイントで、ほとんどネック材の角を取っただけの状態ですが

鳴りという意味では、太い方が豊かな音になるのでなるべく材を残すようにお願いしました。

結果としてかなり太めになりました。そしてもう一点こだわったのは、ネックの幅です。

ネックの幅というか、ナット幅と呼ぶべきかな?

一般的なフロイドローズ 等のナット幅は48mmですが、僕のモデルは46.5mmと、少しだけ狭くなってます。

ネック幅が細くて、奥行きがある感じですね。

重量感もかなりあります。

楽器の取り回しとしては、やはり軽い方が楽で好まれますが、音の面で言うと一長一短です。

ネックが薄くなるほどに、ピックアップで音を作るような感じになり、鳴りに深みが無くなるような印象があるんですよね。

何人かには触ってもらいましたが、実は意外と弾きやすいとの事。

僕なりに考えた人間工学というか、そのようなものも含まれています。

もちろん個人差のある話ですが、あまりネックが薄すぎるとネックを「つまむ」という押さえ方に近づいていくので、逆に疲れてしまうんですよね。

特にライブのように立って動いて弾くとなると、ある程度しっかり握れる太さがあった方が安定して使いやすかったりします。

骨の角度なんかを比較してみて下さい。

確かに、つまむ動作の方が力を入れやすいんだろうと思いますが

逆に言えば力みやすい状態であり、なおかつ力が逃げやすい持ち方でもあります。

その結果、手が痛くなったりする事もあるかと。

つまむのではなく、ネックをしっかり握って土台を作った上で押さえるという感覚にフォーカスして、入力よりも脱力のしやすさを追求してみました。

「あれ?以外と弾けるしむしろ楽だぞ」という風に思ってもらえると良いなと思ってます。

ステンレスフレットとも相まって、思った以上に脱力してギターが弾けると思います。

もちろん、ネックシェイプなどはオーダーの際に選べるようになっているので、ご自身の好きな形にしてもらうと良いです

少なくとも、基本モデルは僕のモデルほど太くはならないですから(笑)

ただ、特に7弦ギターはそもそもネックの幅が増えます。

それに対して、厚みを増やして調整してるメーカーってまだ見た事がなくて、ある意味では6弦のネックをそのまんま伸ばした感じになるので

より一層ペラペラに感じる事が多いと思います。

そんな時!このモデルのように幅を広くしたなら、厚みも少しつけようという方向のネックの方がよりナチュラルな握り心地になるはず

と僕は信じています。実際そうなってる自信もありますね。

角材の状態のネック
市販モデルと、僕のモデルの相違点

さて、長くなりましたが簡単に基本モデルとの相違点まとめていきます

もちろん、カスタムオーダーが強みなので自由に変更はききます!

ネックが極太になっている

ピックアップがアルニコ2

ボディー厚が少し厚め

ヘッドが4対3

こんな感じですかね。

プロトタイプのモデルもあるので、それも参考にしてもらえると。

特にヘッドは全然違いますね!

LED指板
LED全灯

さて、サウンド面以外に、今回の目玉でもあるLED指板ですが

全6種類の発光パターンがあります

・全灯
・全点滅
・上から下へ順に点灯
・下から上へ順に点灯
・12フレットへ向けて両端から点灯
・押さえた所が点灯

という感じです

プロトタイプのモデルはメイプル指板でしたが、発光させる事を考慮するとローズウッド指板の方が映えるかなぁ、と個人的には思っています。

LEDの色については、青、緑、電球色、紫、赤、白など複数あるので、好みの色がないか相談して決めてもらったら良いと思います。

プロトタイプのモデルからさらに進化していて、内部で光が反射するようになったのでさらに派手で眩しくなっています(笑)

僕のモデルでは緑色を採用しています。

色によって明るさが少々変わってくるのでそのあたりも検討の余地ありですね。

ステージ映えは抜群です

9V電池で動いていますが、電池の持ち具合もそこそこ長く持ちそうな気がしています。

光らせ方にもよると思いますが、ライブ4〜5本ぐらいは大丈夫かと。

サウンドメッセ2023に出店中です

これから販売ルートなどを確保していく必要はありますが、MSMIさんのギターをいち早く手に取って触れていただける機会があります

5/13と5/14のサウンドメッセ2023ですね

あとは僕が演奏しているデモ動画もございますので、是非体感してみて下さい!


デモ動画は他にもいくつかアップされていて、もちろん僕のモデル以外にも複数のモデルを展開しています。

興味が沸いたら覗いてみて下さい。

ちなみに僕のオススメは、アルニコ3搭載のレスポールです

とてもクサい音がします(笑)

そんなわけで、長くなりましたが、最後までお読みいただきありがとうございます!

また次の記事でお会いしましょう!


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