最強戦の舞台で、仲林圭の選んだ世界線
(会報コラム「ボーダーライン」第1号/2022.6)
私が思う選手の魅力の一つに、「自分の思いも寄らない思考を持っている」ことがある。
麻雀の基本能力は様々な要素があるが、ある程度の経験があればそれぞれの選手の選択にそこまでの違いは現れない。
打牌の理屈が共通認識として確立されているからである。
それでは、そのある意味画一化された戦術を体得した選手たちと、
その一歩先を行く選手との境界線はどこにあるのだろうか?
仲林圭という選手は、オーソドックスで非常に堅実な打ち手である。
先日最高位戦日本プロ麻雀協会主催の、第29期發王戦を戴冠したことは記憶に新しいだろう。
近代麻雀コラムで明かされた人生の波乱万丈ぶりや、Mリーグ解説などで弁の立つ聡明さが話題となって、
今協会でも最も推されている選手の一人である。
その面白いキャラクターはさておき、麻雀は本当に真摯で、ミスが少ない。奇をてらったり無謀な勝負をするタイプでもなく、理屈に沿ったオーソドックスプレイヤーとしては、多くの選手が見本にしていいと思う。
そういうわけで、仲林の麻雀に理由のわからない打牌はそう目にするものではない。
ところが──、私が彼の対局を傍観しているときに、ちょっとその意図が汲めなかったものがあったのである。
最強戦2021シーズンの、ファイナルA卓。
16人の選手たちが4卓に分かれ、2着までの8人が次戦に進めるといういわば準々決勝の戦いである。
仲林の相手は、瀬戸熊直樹、宮内こずえ、仲田加南であった。
南3局を迎え、点棒状況は瀬戸熊、宮内が大きなリード。
西家である仲林はもう親番がなく、これ以上離されると2着に滑り込むことは絶望的という場面である。
このとき東家の宮内が役牌をポン、123mをチーして、25p待ちのテンパイを果たしていた。
ドラは2m、東が手に暗刻で、7700のテンパイである。
そして仲林の手が終盤にこうなっていた。
ここに3sが打たれ、仲林はチー、と発する。
もう形式テンパイを取って、宮内との点差を守らなければならない。
5pを切って6p単騎か、6pを切って5p単騎か。
しかし、宮内に5pは当たってしまう。打てば本当に終わりと思っていい。
仲林は熟考していた。
この時点で宮内に通ってないピンズのスジは、25pと36pだけである。
しかしこれは──、読んだらわかるものなのか?
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