急性上気道炎 (2)

急性上気道炎(風邪)診療における "NUTS and BOLTS"

・急性上気道炎は診断できない
・急性上気道炎に効く薬はない
・急性上気道炎で死ぬことがある

2. 急性上気道炎に効く薬はない

 「急性上気道炎(風邪)に効く薬はない」。このように書くと、はいはい、風邪には対症療法しかないという意味でしょう?と捉えられがちなのであるが、僕が問題にしたいのはまさにその対症療法の方である。カルボシステイン、アンブロキソール、プロカテロール、プランルカスト・・・その対症療法に意味はあるのだろうか。世界中で不要な医療の削減が叫ばれている中、風邪の対症療法については、なぜかみんな比較的寛容で、抗菌薬は使わないように!と語りかける傍ら、対症療法薬の使用を推奨していたりする。確かに、抗菌薬耐性菌と違って、カルボシステイン耐性菌はできないわけだが、そもそも処方しても意味のない薬を患者に処方してはだめなのではないだろうか。いやいや、ちょっと待て!カルボシステインにはエビデンスがあるぞ!と言う医者もいるのだと思う。確かに、コクランレビューで咳などへの改善効果があったと示されてはいるが、同時に臨床効果は非常にわずかだとも書かれている [3]。ここで重要なのは、エビデンスが存在することと、そのエビデンスに意味があるかどうかは分けて考えなければならないということだ。例えば、この痩せ薬はプラセボと比較し、投与群で有意に体重を減らした、というエビデンスがあっても、その減少量が100gだったら意味はない。つまり、カルボシステインの効果にエビデンスがあることと、カルボシステインを投与することで患者が本当に楽になるかどうかは、まったく別の問題なのである。薬には副作用だってある。コクランレビューでは安全性が高いということになっているが、カルボシステインによるStevens-Johnson症候群も報告されている [4]。

 それでは、僕はまったく風邪に対症療法をしないのかというと、これが、アセトアミノフェンなどは使ってしまっているので説得力がないわけである。アセトアミノフェンについても、こどもの熱を下げることにどこまで意味があるのかは疑問で、診察で発熱している患者がぐったりしていればそもそもアセトアミノフェンどころではないだろうし、元気であればアセトアミノフェンの必要性は疑問である。まあ、難しいところであるが、親への抗不安作用も期待して僕は処方してしまうのである。わたしが言いたかったことは「エビデンスが存在することと、そのエビデンスに意味があることは違うんだぜ」ということだったので、その結論に関してはそれぞれの意見があってよいと思うし、端的に言えば、許してほしい。みなが感冒薬の対症療法にそれぞれどのくらい「意味があるのか」を考えてくれればそれでいいと思う。わたしが風邪にはプロカテロールを使用しないと言うと、すぐに、「使うと瞬間的には効いて、咳が止まるよ」というアドバイスが来るのだが、瞬間的に咳が止まるとして、だから何なのだと、僕が言いたいことはソコである。ちなみに、BMJで風邪に効果のある対症療法のエビデンスがまとめられている記事があり [5]、これによれば効果があるかもしれないとされているのは「鼻うがい (nasal irrigation)」のみ。加湿、水分補給、もちろんアセトアミノフェンもエビデンスなしとバッサリである。(ちなみに、鼻うがいは個人的に保護者に推奨しているが、BMJでは危険性について未知数とされている)。

 それでは、薬以外で、咳止めとしてハチミツを使用するのはどうだろうか。結論から言うと、僕は結構、ハチミツを保護者にお勧めしてしまっている(我が子にも使っている)。コクランレビューでは、ハチミツはジフェンヒドラミン、サルブタモールより効果があり、デキストロメトロファンと差がないことになっているが [6]、先程のBMJではバッサリとノーエビデンス!である。正直、僕自身もどれほどの効果があるのかよくわからないのだが、それでもハチミツを勧めるのは、やはり食品なので、1歳以上であれば副反応の危険性がほぼないだろうという理由が大きい。

[3] Duijvestijn YCM, Mourdi N, Smucny J, Pons G, Chalumeau M. Acetylcysteine and carbocysteine for acute upper and lower respiratory tract infections in paediatric patients without chronic broncho-pulmonary disease. Cochrane Database Syst Rev. 2009;1:CD003124.
[4] Wang Y-H, Chen C-B, Tassaneeyakul W, et al. The Medication Risk of Stevens-Johnson Syndrome and Toxic Epidermal Necrolysis in Asians: The Major Drug Causality and Comparison With the US FDA Label. Clin Pharmacol Ther. 2019;105:112–20.
[5] van Driel ML, Scheire S, Deckx L, Gevaert P, De Sutter A. What treatments are effective for common cold in adults and children? BMJ. 2018;363:k3786.
[6] Oduwole O, Udoh EE, Oyo-Ita A, Meremikwu MM. Honey for acute cough in children. Cochrane Database Syst Rev. 2018;4:CD007094.

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