急性上気道炎 (3)

急性上気道炎(風邪)診療における "NUTS and BOLTS"

・急性上気道炎は診断できない
・急性上気道炎に効く薬はない
・急性上気道炎で死ぬことがある

3. 急性上気道炎で死ぬことがある

 この章を「日本には、風邪は万病のもとという言葉がありまして・・・」などと始めると極めてジジくさいので、絶対にそんな書き出しはしたくなかったのだが、結局、これ以上の言葉が思いつかなかったのでそう書くしかなかったのである。そう、風邪は万病のもとという言葉があるくらい、様々な合併症を引き起こす。前述したように中耳炎、肺炎など有名どころのほか、中耳炎をこじらせた乳突洞炎(耳介聳立は難読漢字として有名)、副鼻腔炎をこじらせた眼窩副鼻腔炎(副鼻腔炎が眼窩内に波及して眼球が飛び出してくる)など、致命的な化膿性合併症につながることがある。これらの合併症を防ぐためには、前述の通り、正常の経過から外れる症例を的確に発見して早期治療につなげることが重要なわけだが、これは裏を返せば、「途中で気がつけば助けられる」ということでもある。しかし、風邪の合併症でひとつ、診察しているその場で一気に患者を冥界までもっていかれる疾患がある。急性心筋炎である。

 急性心筋炎の患者は風邪としてやってきて、なんか具合が悪そうだなと思って保護者の話を聞いていると急に倒れ、よくよく確認すると心室細動で心臓が止まっている。ときに本当に風邪と見分けがつかないし、忘れた頃にふいを突いてやってくるので、ぼくは風邪症状でちょっと具合の悪そうな患者をみるときは、保護者の話を「なるほど、それは大変でしたね、へえー」などと適当な相槌を打ちながら、頭の中でBLS  (Basic Life Support) と除細動器の使い方を反芻している。それでも診察室の中で倒れられる分にはまだよく、自宅に帰ってから致死性不整脈を起こされようものなら最悪の展開が待っている。2施設の横断研究によれば、初期症状として最もよくみられる症状は息切れであり、最もよくみられる理学所見は頻脈だったそうである [7]。これらは完全に非特異的な所見であり、相手が高齢者ならば、思わず救心を渡してしまいそうになる。他の多施設研究では、低年齢で症状がはっきりしないほど重症になりやすいという報告もあり [8]、徹頭徹尾、気が抜けない疾患である。急性心筋炎は疑ってエコーさえできれば診断できるので、レジデントは悪いことは言わないので、小児科をまわる前に心エコーができるようになっておいたほうがよい。そして、「急性心筋炎を鑑別に入れる」とは、心筋炎の患者に的確な診断をつけられるということではなく、風邪っぽい患者をみたら条件反射的に除細動器に思いを馳せてしまうほど、いつも心筋炎を心のどこかに置いておく、ということであることを分かっておいてほしい。

[7] Durani Y, Egan M, Baffa J, Selbst SM, Nager AL. Pediatric myocarditis: presenting clinical characteristics. Am J Emerg Med. 2009;27:942–7.
[8] Butts RJ, Boyle GJ, Deshpande SR, et al. Characteristics of Clinically Diagnosed Pediatric Myocarditis in a Contemporary Multi-Center Cohort. Pediatr Cardiol. 2017;38:1175–82.

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