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406. The legacy of the COVID-19 pandemic for childhood vaccination in the USA

Opel DJ, Brewer NT, Buttenheim AM, et al. The legacy of the COVID-19 pandemic for childhood vaccination in the USA. Lancet. 2023 Jan 7;401(10370):75-78. doi: 10.1016/S0140-6736(22)01693-2. Epub 2022 Oct 26. PMID: 36309017; PMCID: PMC9605265.

パンデミックが小児ワクチン接種における信頼、リスクの認知、義務、健康の公平性にどのような影響を及ぼす可能性があるかについてのLancet総説。

信頼
COVID-19ワクチンの開発、承認、普及のプロセスが政治的圧力に弱い可能性があることがわかったため、FDAが安全性と有効性を確認しないままCOVID-19ワクチンの承認を急ぐのではないかという懸念がアメリカ人の間で生まれた。2021年5月の調査では、4分の1近くのアメリカ人がFDAの勧告をほとんど信用していないか、全く信用していなかった。政治が公衆衛生を動かしているという認識から生まれるこの不信感は、米国の予防接種プログラムへの支持の低下、科学や臨床医に対する一般人の信頼の低下につながる可能性がある。

リスク認知
過去20年間、米国ではワクチンで予防可能な疾病(VPD)の有病率が低いことが、ワクチン接種拒否や延期の要因となっていた。パンデミックは、子どもの病気に対する保護者の認知を変え、ワクチン接種の増加につながる可能性もある。最近の米国の分析では、COVID-19のパンデミックの発生は、親の一般的なワクチン接種態度に一時的にプラスの影響を与えただけであったとされている。こどもにCOVID-19のワクチンを打っていない親は、そもそもCOVID-19を心配していないことが主な理由になっている。2014-15年のディズニーランドの麻疹発生後、保護者のワクチンに対する態度や信念に改善がみられたものの、2011-12年の米国ワシントン州での百日咳流行後、百日咳含有ワクチンの接種率に大きな変化はみられなかった。

義務化
1960年代以降、就学前のワクチン接種の州単位の義務付けは、米国のワクチン政策の重要な要素となっている。しかし、これらの学校でのワクチン義務化は、個人の自由(または親の権利)の保護と公衆衛生保護の間でしばしば争点となっている。2014年から2018年までは、公衆衛生保護が重視され、たとえば、「医療以外の理由による接種拒否の困難さ軽減」の法案は、州政府では可決・受理されなかった。しかし、現在、これは変化しつつあるかもしれない。公衆衛生担当者に対する嫌がらせの増加、地方や州の保健緊急事態の権限を抑制する新しい法律、マスク着用義務の争論などはすべて、公衆衛生権力が個人の自由を侵害するものとして描かれた取り組みである。COVID-19の文脈における個人の自由を守ろうとするこの主張は、学校という場でも通用するのか。パンデミック前に行われた学校でのワクチン接種義務化に対する幅広い国民と超党派の支持は、学校での義務化を維持するのに十分であることを証明していたかもしれない。しかし、今回のパンデミックは、米国における学校でのワクチン接種の義務化の長期的な受け入れと持続可能性の変曲点となってしまうかもしれない。義務化に異議を唱え、義務化の免除を主張する親が増加するかもしれない。

健康の公平性
人種差別は、COVID-19のパンデミックよりはるか以前からの公衆衛生上の危機であり 、子どもの健康へ悪影響を及ぼす。米国の人種、民族、社会経済的格差による小児ワクチン接種率の差を是正するための幅広い取り組みにより、重要な成果を上げている。パンデミックでは、小児ワクチンの不公平を緩和するのに役立つ、革新的なアプローチを呼び起こした。例えば、ノースカロライナ州では、COVID-19ワクチンの追加供給を、黒人やヒスパニック系住民の人口比率が高い地域に割り当てるワクチン公平戦略を実施した結果、黒人やヒスパニック系住民へのワクチン接種量が約2倍になった。
また、革新的な民間ー公共機関のパートナーシップにより、地域ベースの組織に資金提供し、それぞれの地域でCOVID-19への対応と救済活動を行うよう誘導した。例えば、ワシントン州では、2020年5月にAll in WAキャンペーンを開始し、民間セクターの寄付者、公衆衛生局、地域リーダーたちを集め、COVID-19パンデミックの影響を不当に受けた地域でのワクチンの公平なアクセスを拡大するため、資金調達と地域組織への配分を行った。パンデミック時に採用された戦略で、小児ワクチン接種の状況に引き継ぐことができるものには、不利な状況の指標や、保護者とのワクチンに関する会話の中で、有色人種が医療過誤や排除を経験し、それが医療や公衆衛生当局への信頼をいかに損なうかを臨床医が明確に認識することがある。
しかし、パンデミックは格差を悪化させる可能性もある。例えば、パンデミック前のワクチン接種率は、もともと農村部(都市部)に住む子どもたちで低かったが、米国では現在、農村部と都市部でCOVID-19ワクチンの接種率が2倍の差があることから、パンデミック前の子どものワクチン接種率の格差は、将来的に拡大していく可能性もある。

推奨事項
米国における小児ワクチン接種率を高めるCOVID-19パンデミックの遺産を促進するために,信頼,リスク認知,義務付け,健康の公平性の4つの領域に関連する実行可能な勧告を提示したい。これらの提言は、地域、州、連邦レベルで公衆衛生に十分な資金が提供されることを前提としており、米国保健社会福祉省(HHS)の米国疾病対策予防センター(CDC)ですでに進められているワクチンの信頼性を高めるための作業を補強するものである。
第一に、今回のパンデミックは、ワクチン事業に対する国民の信頼のもろさを露呈した。HHSは、CDCなどの機関を通じて、現在のワクチン開発・承認プロセスに対する国民の信頼を監視し、必要であれば、国民の信頼をより促進するように修正しなければならない。CDCのVaccinate with Confidenceキャンペーンは、ワクチンに対する国民の信頼を優先しており、このような活動を支援するために十分な資金を提供する必要がある。同様に、米国国立衛生研究所や医療研究・品質保証機構などHHSの他の機関も、小児科臨床医、公衆衛生当局、地域リーダー向けに、ワクチン接種をためらう親たちのワクチン事業への信頼を得るための戦略を練る研究に投資しなければならない。さらに、科学的リテラシーは信頼低下を防ぐ最善の方法の一つであるため、HHSは米国教育省と連携して、現在および将来の保護者に科学的客観性と真実の社会的側面について、教育能力の向上を研究の優先事項としなければならない。
第二に、2019年以降、世界的に定期予防接種率が減少し、VPDの発生に拍車をかける恐れがある。米国、英国、イスラエルで最近発生したポリオは、懸念材料となっている。感染症発生時に起こりうるリスク認知の変化を、ワクチン接種行動の持続的な変化に活用する方法はほとんど解明されていない。効果的な公衆衛生キャンペーンを提供するため、HHSは、親のリスク認識、ワクチンへの信頼、行動に対する感染症の発生が及ぼす影響を調べる研究に投資する必要がある。また、これらの知見を、臨床医、公衆衛生担当者、地域社会のリーダーが使用する効果的なコミュニケーション戦略に反映させるためのリソースも割く必要がある。パンデミック後のワクチンへの信頼と接種率の回復の必要性を考えると、この投資は直ちに行われるべきである(例えば、ワクチン信頼性の強化に指定されている2021年米国救済法の2302条資金を利用するなど)。
第三に、タウンホールからツイッターまで、将来の流行を防ぎ、小児ワクチン接種を持続させるための公衆衛生の重要性を再確立する必要がある。公衆衛生の実践者、州や地域の選出議員、保護者、臨床医、教師、その他公衆衛生の価値を謳うことのできる地域社会のリーダーは、誤った情報を持ち上げたり、偽情報を流布させることなく、地域社会と対話するための努力を強化する必要がある。また、HHSの研究の優先順位は、義務化のメリットが反発で損なわれる状況について理解を深め、その反発に効果的に対応する方法を学ばなければならない。
第四に、小児ワクチン接種の不公平を減らすことは、医学と公衆衛生に対する信頼を回復し、小児ワクチン事業に対する保護者の信頼を損なおうとする力を効果的に打ち消すことができる。小児ワクチン事業への信頼を維持するためには、小児ワクチンの供給と接種率の公平性を達成することほど有効な手段はない。HHSは研究投資を通じ、COVID-19ワクチンの格差を減らすためにパンデミック中に開始された有望な戦略を、通常の小児ワクチンの状況下でテストする必要がある。地方政府と地域社会の指導者は、COVID-19の際に格差の軽減に効果を発揮した新しいパートナーシップを維持し、人種差別と社会的不公正に対する横断的な対応を引き続き調整できるようにする必要がある。これらの戦略は、小児用ワクチンに関する人種、民族、社会経済データの報告を最適化する連邦政府や州の取り組みと連動させる必要がある。これにより、ワクチン拒否のパターン理解(例えば、ワクチン拒否者が "歴史的に疎外された集団" でないことを確認する)、格差の解消に向けた進捗状況の監視ができるようになる。
天然痘、コレラ、インフルエンザは、社会と公衆衛生の関係を大きく変えた。COV1D-19も同じような運命にある。公衆衛生の基礎である小児ワクチン接種が、信頼され、評価され、公平に利用され続けるために、私たちは今、行動することが重要である。

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