検察庁法改正案は極悪法案だったのか!?

今回は5月に話題になった検察庁法改正案について考察したいと思います。
まず、前提としてこの法案と黒川検事長定年延長問題は因果関係はありません。
この法案が成立しようがしまいが黒川検事長の人事には何の影響もありません。
しかし、時期的に関連がある事項なので、今回はあえて絡めらながら考察したいと思います。

まずは時系列ごとにまとめてみたいと思います。
①2011年 野田政権の際に国家公務員の定年延長に関する意見書が人事院から提出される

②2019年秋 検察庁法改正案を含む国家公務員法改正案が提出される
(ここでは単に検事長の役職定年を63歳とし、検察官の定年を65歳に引き上げ)

③2019年12月29日 カルロス・ゴーン氏が日本から密出国(担当は東京地検)

④2020年1月16日 法務省が検事長定年延長を議論

⑤1月17日 法務省と人事院が法解釈を議論

⑥1月24日 人事院が検事長定年延長を承認

⑦1月29日 法務検察局が黒川検事長定年延長を提案&森法務大臣が了承

⑧1月31日 黒川検事長定年延長を閣議決定

⑨2020年春 検察庁法改正案が固まる
(ここでは例外的に最大3年間検事長の定年延長を可能とする部分が追加)

⑩2020年5月 国家公務員法改正案の提出を取りやめ

これが大まかな流れになります。
森大臣は黒川検事長定年延長の理由を「重大かつ複雑困難事件の捜査公判に対応するため」としています。
1月以降に急に決まったことを踏まえると、カルロスゴーン失踪事件がその事件に当てはまると考えられます。
カルロスゴーンの担当は東京地検です。当然、東京高検の黒川検事長らもその対応に追われていたことは想定できます。
年末に失踪したカルロスゴーン対応で、1月は大変忙しかったのでしょう。
そんな時に人事対応などは二の次にしたいところです。なので、とりあえず黒川検事長の定年を延長したと。とても自然な流れです。

つまり、検事長定年延長の理由は人事に柔軟性を持たせるためであったと言えます。

そもそも、黒川検事長は安倍総理と近しい関係ではありません。
面会記録はこの数年で10分ほどしかない上に、東京高検は自民党の秋元司議員を逮捕しています。
さらに、もし仮に黒川検事長を恣意的に検事総長にしたかったのであれば、少し違和感があります。
稲田検事総長の定年は2020年8月14日です。しかし、黒川検事長定年延長は8月7日までです。人事院規則には最大1年間の定年延長を可能としているため、もし本当に黒川検事長を検事総長にしたかったのであれば、9月7日まで延ばすことも可能でした。
やはり、安倍総理が恣意的に黒川検事長を検事総長にしたかったというのには無理があると思います。

しかし、政権側の対応にも問題点が多くありました。

1つ目は法解釈問題です。
森大臣は1月17日の時点で法解釈をしたと主張していますが、
2月3日には「現在ある国家公務員法を適応した」と答弁しており、2月12日に人事院も「現在も56年解釈を引き継いでいる」としています。
おそらく、2月10日に山尾志桜里議員が「国家公務員法の定年延長制は検察官と自衛官には適応されない」とする56年解釈を指摘するまでは、この解釈について知らなかったと思います。
内閣は法解釈を変更することはできますが、法治国家の手続きとしてはガサツなものと言うしかありません。
これはやはり問題であり、人事院や法務省は反省するべきであると思います。

2つ目は定年延長の幅です。
検察庁法改正案では最大3年間検事長の定年を延長できるとしています。
現行の人事院規則定められた最大1年間を大きく上回るものです。
これはさすがにやりすぎであると思います。
いくら重大かつ複雑困難事件であっても、3年間も人事を取り扱えないということはないと思います。
人事に一定の柔軟性を持たせることは良く働く部分もありますが、あまりにも柔軟すぎると権力闘争に利用される可能性があります。
僕はやはり、現行の1年間が相応しいと思います。

3つ目は提出時期です。
政府与党はこの法案を4月5月に提出しようとしていました。
しかしこの時期は緊急事態宣言が発令され、補正予算案や家賃猶予法などについて多くの時間を割くべき時期でありました。
国家公務員の定年延長も待ったなしの課題ではありますが、やはり優先順位はコロナ対応の方が上であろうと思います。

このように検察庁法改正案は大元は良い法案であるとは思いますが、細かい手続きや期間において問題があったと思います。
期間については議論の余地がある問題です。
他にも役職定年制や報酬カットの割合など議論を深めるべきポイントは多くありました。
しかし、多くのメディアや野党はこれを安倍陰謀論に仕立てあげました。
とても残念です。
高齢化が進む社会において、定年延長は必要であると思います。
秋の臨時国会、もしくは来年の通常国会においてしっかりと議論されることを期待したいと思います。