緊急事態宣言は再発令するべきなのか?

最近では新型コロナウイルスの全国での新規感染者が1000人を超えるという日が続いている。
以前までのように東京や大阪、愛知、福岡などの大都市に加えて、地方都市においても一定数の新規感染者の発生が相次いでいる。
そこでちらつき始めたのが「緊急事態宣言の再発令」である。
そこで、今回は「緊急事態宣言の再発令」 は必要なのかどうか考察していきたいと思う。


この議論がなされ始めた理由は簡単である。
7月中旬になってから、東京を中心に感染者数が爆発的に増加し、その数字が4月のものに並び、追い越したからである。

4月8日に史上初めて「緊急事態宣言」が発令された。
7日の夕方に行われた記者会見において、安倍総理は発令の理由を「医療提供体制が逼迫している地域があり、時間の猶予がないため。」とした。
つまり、政府が緊急事態宣言を発令するかどうか決定する際に用いた指標は「感染者数」ではなく、「医療提供体制」ということである。
そのため、今回は「緊急事態宣言の再発令」が必要かどうかを、医療提供体制の状態を基に考察したいと思う。

医療提供体制は主に3つに分類される。
それは「ハコ・ヒト・モノ」である。

まずは「ハコ」である。
そのハコを知るにあたって用いるのは対策病床使用率である。
これは現在の患者数/新型コロナ対策病床数がで求めることができる。
8月21日現在の病床使用率は28.7%である。
現在の患者数は11666人で、新型コロナ対策病床数は40559床である。
地域によってもまばらで、青森県は0.5%であるが、福岡県は69%である。
とはいえ、どの地域においても病床使用率が極めて高いとは言えない。

続いて「モノ」である。
日本国内に装備された人工呼吸器の総数は28197台で、ECMOは1412台である。
一方で、8月3日現在の重症者数は83人である。
これを見ると、人工呼吸器やECMOにはまだ余裕があるように見受けられる。
もちろん、防護服やサージカルマスクの更なる拡充は必要である。

最後に「ヒト」である。
第2時補正予算の慰労金の対象となる新型コロナウイルス患者の受け入れをしている医療機関の医師らは79万人とされている。
これは人口1000人あたり6.58人という計算である。
世界的にみても、これは悪い数字ではない。
OECD加盟国の平均は3.3人である。

このように「ハコ・ヒト・モノ」のどれを見ても、日本の医療提供体制にはまだ余裕があると言える。
増加する新規陽性者に対しても、軽症者向けホテルを利用するなどして、上手く対応出来ていると言える。

一方、経済への影響は深刻である。

総務省が発表した2020年6月の完全失業率は2.8%で、完全失業者数は195万人である。
これは前年比33万人増である。
さらに休業者数は236万人で、前月比では改善されたが、未だに高い数値である。
また、有効求人倍率も1.11倍となり、5年8ヶ月ぶりの低水準となった。
このように雇用は大打撃を受けていると言って良い。

さらに、GDPの年率換算は27.8%減とされている。
これは1980年以降、最大の下げ幅である。
確かに、アメリカの32.9%減、フランスの44.8%減、イギリスの59.8%減に比べれば、まだマシなのは事実である。
しかし、このGDPの大幅下落が今後の経済に大きなダメージを与えることは間違えないだろう。

このように見ると、経済への打撃は予断を許さない状況である。
これ以上のダメージは倒産という倒産を呼び、失業者を更に生むことになる。
そして、失業率と自殺者数に相関関係があるのは周知の事実である。
下手すると、コロナ肺炎による死亡者数よりも、経済悪化による自殺者数の方が多くなってしまう可能性もある。

つまり、これは命と経済の選択ではなくて、命と命の選択なのである。
そして、「緊急事態宣言の再発令」は、経済を犠牲にしてコロナ対策を優先させるものである。

私は昨今の医療提供体制と経済状況を鑑みると、「緊急事態宣言の再発令」はするべきではないと考える。