苦くても甘くても
ライブ:花田裕之 ”流れ”オンライン 下北沢・秋 ”My Autumn Almanac”(2021年9月14日、下北沢・ニュー風知空知)
前回の梅雨~初夏編に続き、今回も無観客・生配信、趣向を凝らした構成が印象に残る「流れ」オンライン、2021年の秋編。
悉く真意は不明だが、花田さんが歌いたい、演りたい曲を選んで並べてみた感じ。ルースターズから自身のソロ、邦・洋問わずのカバーまでバラエティに富み、次は何が出てくるんだろうと目も耳も離せないライブであった。
今回は休憩を挟んだ前後の2曲、即ち第1部最後の「バス通り」(甲斐バンド)と第2部最初の「シンシア」(よしだたくろう&かまやつひろし)が興味深かった。どちらも私にとっては初耳曲。
若い二人の恋模様を歌う「バス通り」。切なく、また苦くもあるが、時が経つと甘美ささえ感じられる。こうした感覚は、多かれ少なかれ誰にでも思い当たるものがあるのではないだろうか。深まる秋によく似合う、心に染みゆく選曲。
「シンシア」の方は、なんとなくメロディーの感じから、拓郎かな、と思ってはみたものの、なにしろ原曲を知らないから、サビの部分で突然、「シンシア」とnon-Japaneseの女性の名前が出てきてびっくりした。「シンシア」って南沙織のこと? 後で調べてみたらどうやらそうらしい。YouTubeで見た彼女はとてもスイートで、当時の絶大な人気ぶりがうかがわれた。
一方、そのスイートさとは裏腹な、昨今の社会情勢のイライラやモヤモヤを代弁してくれたのがステージ前半の「おいら今まで」(サンハウス)、「Sitting on the Fence」、後半の「Street in the Darkness」、「Dissatisfaction」(以上ルースターズ)、「たいくつ」(井上陽水)などだったかもしれない。昨年以来、すっかり変わってしまった日常にかくも戸惑い(「おいら今まで」)、日々を静観しつつも、出口の見えない戦いに暗澹となったり、逆に行き場のないイライラを爆発させたくなったり(順に上記ルースターズ3曲)。そして極めつけの陽水は、すべてがモヤモヤで、もう一体どうしていいのやら。
何とか事態が収束して「配信もこれが最後ぐらいになると思ってますけど、そろそろ野に出たいなと...」という、花田さんの言葉通りの現実が早く来るようにと願うばかりである。それと同時に、苦くても甘くても、追憶でも郷愁でも、今の花田さんの想いも自身の音楽にしてもっと聴かせて欲しいなあ、と思うのは私だけの贅沢な願いだろうか。(Revised 26/09/2021)
【花田裕之”流れ’”オンライン】
Love in Vain/汽笛が/Tell Me Why/Sadness City/スリ/Ruby Tuesday/おいら今まで/風の中に消えた/Sitting on the Fence/バス通り//(休憩)//シンシア/Heart of Stone/どうにかなるさ/Street in the Darkness/Dissatisfaction/たいくつ/ぬすっと/鈴虫(九月朝、母を想い)//(アンコール)// 500 Miles
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