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旅に出たくなったら

CD:「ROADSIDE」 band HANADA(2017年/HANAYA RECORDS)

「ROADSIDE」というアルバムタイトル。ジャケットは荒涼たるrailroad sideと思しき風景。インナースリーブには文字通りのロードサイドのスナップショット。そしてバンドのセッション写真に加え、空っぽの電車車両に一人佇む花田自身の姿。盤に針を落とす前から(といっても実は CDなのでプレイボタンを押すのだが)、あてどない旅、さすらい、孤独といった彼の過去の作品群に共通するテーマが本作の根底にもうかがえる。音楽の領域だけでなく、今も昔も多くのアーティスト達が追い求めて止まないテーマであるが、花田裕之というロックの人にとってもおそらく永遠のテーマなのだろう。

風の中に鳴り響くようなギターが印象的な「遠くまで」から、静かな独特の節回しで内観的ムード溢れる「根無し草」まで全7曲。地味ながら無駄のないシンプルなサウンド。それでいて彫りの深さ、表情の豊かさも併せ持つ。何らかの事情で今、現実の旅は難しくても、心の旅に出たくなったら本作を聴くのがよい。聴くほどに自由な精神の放浪の旅へと連れ出してくれる。

旅はこのアルバムの姿を写し出すように、派手でスペクタクルな景色や冒険とは無縁。行き先も目的もない旅のための旅。どこにでもあるありふれた道行きの景色の中、運よく(あるいは運悪く)出会うさりげない美、徳(または不徳)、ユーモア(茶目っ気たっぷりなものから当てこすりといったものまで)、慰め、感傷・・・。それらを深く噛みしめ、しみじみ味わい、時に前を見つめ、時に後ろを振り向く。空をただぼんやりと眺めることもある。そんなたぐいの魂のふらつき。

どこで始めるも自由、終わるも自由。 旅を終えたところで自分も世界も何も変わっちゃいない。またリアルな現実のどうにもならない日常が待っているだけである。それでも旅に憧れる。だからこんな風に誘われたら、ついふらりと応じてしまう。放浪は人間の心の本能か。もしそうだとしたら、その誘いも機会も実に貴重なものだし、あって然りと思う。昨今の社会情勢下、現実世界の気兼ねない往来や旅がなかなかままならない中にあっては、特に。

【ROADSIDE】
1. 遠くまで 2.ガラガラゴロゴロ 3.あの頃さ 4. 渡るしか 5. 二人なら 6.お天道さま 7. 根無し草

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