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分厚いビートにジャーンと格好いいギターが鳴る!

CD:「I」 Rock’N’Roll Gypsies (2003年/Universal)
(2018年11月投稿のAmazon CDレビュー(削除済)を改題、加筆修正)

私自身このバンドの、このアルバムがお気に入りである理由は、誤解を恐れずにいえば安定感があるからだ。速いヤツもユルいヤツも、気が散らず落ち着いて音に没入できる。

安定だの落ち着きだのといって、ロックのくせに(こんな考え方は古いだろうか)攻めを捨て守りに走ったという意味ではない。皮肉でもない。軽い既視感(既聴感?)とでもいえるのかもしれないが、お手軽お粗末なパクリや焼き直しの模造品ではなく、むしろフォーマットのしっかりした、ハイスペックの純正品といってよいと思う。

そんな風に思うのは、ひとつにはバンドのメンツのせいだろう。説明不要だと思うが、それぞれ活動時期は異なれど、みな元ルースターズ(s/z)のメンバー。(次回作「II」でメンバーチェンジあり。)そしてルースターズ脱退または解散後は、各々の場所で経験を長く積んできた人たちだ。

従ってこのCDについても、いま、自分が誰で、誰と演っているのか、自分の立ち位置がどこで、そこに見えているのは一体何なのか、さらに押し際引き際の限界がどこにあるのか、そういった諸々のことが、頭と身体できちんとわかっている人たちが作った音楽、という印象が強く残る。

それが冒頭の安定感に深く与しており、一方で、過剰な熱意やらサービス精神やらで、無駄に聴き手を振り回すことがない音作りにもつながっているのだと思う。

分厚くもノリのよいビートに、ジャーンと格好いいギターが鳴る王道ロックが全編に貫かれるが、魅力はそれに限らない。少し古風で高慢ちきな、英国のスパイ映画の主人公を思わせるようなインスト(7)や、大人の男の意外な繊細さがふと透けて見える、抜け感のある曲(11、12。特に後者の絶秒なマのヌケ感は、味わい深く素晴らしい、といっては失礼か)などを含め、妙な押しつけがましさや小細工なしに、最初から最後まで、あるいはどこから始めても、まったく気分よく聴いていられる。

ちなみに本作中、一見「これはまだデモ段階なのでは?」と誤解してしまいそうな詞が、音にのると確固たる一曲に化けることがあったのには、正直ちょっと驚いた。しかも、それが重厚なサウンドで渋く唸るように、最高にキマっているのだから。それもこの人たちならではの所業か。

腰の据わった、安定感のあるロック。移り変わる時流にさらされても、ずっと聴かせ続け、聴き続けることのできる、すぐれた1枚。

【Rock’N’Roll Gypsies I】
1. Lazy Sun 2. Good Time (to Love you) 3. Natural Powered I 4 Truckin’ 5. No Time 6. Old Guitar 7. Reliable Man 8. Ho Train Boogie 9. Let’em Roll 10. N.W.O. 11. 揺れる陽炎の彼方に 12. いつものこと
※初回盤はDVD付き:1. Fool for You, 2. Fade Away, 3. Bye Bye My Girl


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