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忘れててごめん。。。。。

CD:「PASSENGER」 The Roosterz(1987年/コロムビア)
(2018年発売のUHQCD版によせて。同年11月投稿のAmazon CDレビュー(削除済)を加筆修正)

なにしろルースターズ解散(人によって違う意見もあるかもしれないが、とりあえず1988年)以来、およそ30年ぶりに聴くアルバムだったので、それはそれは興奮していた。ところが、自宅に品物が宅配便で届き、わくわくしながらパッケージを開け、さあ、いよいよ、とCDを手にした瞬間、大いなる違和感がこみ上げてきた。

「あれ? これ、何だっけ?」

確かに見紛うことなきアルバム「PASSENGER」だが、盤面にプリントされている曲名を見ても、最初と最後の曲(表題曲と「WRECK MY CAR」)以外、他はどんな曲だったのか、まったく思い出せなかったのだ。

もちろん十代の頃、初めて(当然レコードで)聴いた時からとても長い間ご無沙汰の1枚ではあったが、そんな筈はない。当時はかなり真面目に好きで聴いていたし、さっきの2曲に至っては、ほぼソラで頭の中で再現できた。

にもかかわらず、インナースリーブの歌詞カードを一通り眺めてみても、やっぱり頭は白いまま。目で詞を追っても、メロディーが全然出てこない。その理由が、人間の記憶/忘却の習性によるものなのか(人は一般に最初と最後の物事が印象に残りやすいそうだ)、あるいはもっと別の何かによるものなのか判然とせず、もどかしいまま、それより中身を聴こうと流し始めたら、ああ、これだった、と徐々に記憶がはっきりしてきた。やがて言葉と音がつながり始めた。

その後、しばらく重ねて聴いて思ったところは、ルースターズというバンドそのものの個性の他に、録った時代や場所などの雰囲気が色濃く出た1枚であったのかもしれないということ。そしてある意味、その世界とか空気といったものが、端正にまとまり過ぎて却って印象に残りにくくなってしまったのかもしれない。(これは各所で他のレビュワーの方も書かれている。)あるいは、単に自分が年齢をとって、かつてのことなど都合よく忘れてしまったのかもしれない。(自分としては、多分こちらの方が、忘却の正しい理由のような気がする。)

正確な理由はよく分からずとも、忘却という事実に言及すると、何だか自分がとても情の薄い性悪女になってしまったような気がして、少し悲しい気分になった。

だが、80’s・パリ録音の端正な世界に、性悪女の薄情な心をぷかりと浮かべて聴いているうちに、あ~、これだったよね~とか、う~ん、やっぱいいよね~とか、あらためてそのよさがじわりと浸み込んでくるようで、とりあえずは昔も今も満足のアルバムだ。遠い過去、好きだった人の表情や、手指の形、ちょっとしたクセ、言いそうなセリフなんかを思い出して、ああ、そういえばね、と思い出すのと似た感覚か。

それにしても、PASSENGER、気まぐれにずっと忘れてて、ごめん。。。。。


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