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古い革袋・古い酒・古い女

CD:「FOUR PIECES LIVE」 The Roosterz(1988年/コロムビア)
(2018年発売のUHQCD版によせて。2018年11月投稿のAmazon CDレビュー(削除済)を加筆修正)

私は一応、この「ファイナル・ライブ」(CD帯引用)のリアルタイムの世代に属しており、ルースターズ(s/z)もレコードできちんと聴いていたのだが、残念ながらこの解散ライブには行っていない。また、我ながら実に驚きでありつつも、ここで告白しておくこととして、1988年のCDリリースから30年後、今回のUHQCD版でこのライブ盤の存在を初めて知り、初めて聴いた、という経緯がある。

さて本盤、収録内容から察する限り、最後のオリジナルアルバムとなった「FOUR PIECES」をメインにバンド後期の代表曲、さらにはオリジナルメンバーの登場と、とても豪華なステージだっただろう。渋公で狂喜乱舞する観客の姿がまるで目に浮かぶようだ。当時ここに居合わせた幸運な人は、本盤でその体験を再確認できるだろうし、初めて聴く人にとっては、スタジオ録音とはまた違う、彼らの音の生(の)真面目さを堪能できることと思う。

先述の通り、このライブ盤について私自身は後者の立場。届いたCDパッケージを開けるなり、さっそくプレイヤーのPlayボタンをオンにした後は、最初から最後まで完全降服状態で、心ゆくまで酔わせていただいた。ほろ酔いと呼ぶには深く、かといって酩酊というのでもなく、もちろん泥酔などは問題外で、いうなれば陶酔か。

だが、それは興奮性の酔いではなく、むしろ逆に冷静な、どこか醒めた面持ちで、淡々と列車の窓から流れていく景色を飽きることなく眺めているような、とても穏やかなものだった。

過去の何かを懐かしく思うこともなく、ノスタルジーに浸ることもない。心ここにありて、なおここにあらずとも。深くは酔ったが、後々しつこく残ることのない、意外にさっぱりした感覚だった。

新しい革袋に入った新しい酒を、お祭り気分で皆と一緒に飲むのもいいだろう。だが、幾重にも折り重なった時間の中で静かに熟成された、古い革袋の古い酒の封をひとりそっと切り、密やかに味わう。時を経て、開けられるのを待っていてくれていたかのような偶然に、思わず感謝さえしたくなった。

隙なく香気が凝縮された強い気化アルコールが鼻腔を抜け、目に激しい火花を散らす。時にむせかえるほどの濃密な液体が舌にねっとりと絡みつくかと思えば、硬質で冷たい感触が喉元を刺し、その奥で熱く溶ける。かつてはこんな刺激に右往左往し、心かき乱されるのが楽しかったか。こんな穏やかな陶酔感はまだ知らない頃だったから。

それにしても、何で今までこのライブ盤の存在を知らなかったんだろう? それだけ自分がこのバンドの解散直後、糸の切れた凧のように、そこから遠く遠く流されて、離れていってしまった、ということか。

昭和が平成になり、そして令和の今となっては、自分のやっていることなど傍から見れば、時代錯誤か懐古趣味でしかないのかもしれない。

だが、古い革袋の古い酒を、未だにゆっくりと啜っている古い自分でいるのも悪くない。今晩も回り続けるプラスティックの銀盤は、古い女をまだまだたっぷり酔わせてくれる。

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