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夢の入口は宵の口

ライブ : 花田裕之 “流れ”  (阿佐ヶ谷・harness、2024年7月5日)

梅雨明け前にもかかわらず、関東地方は猛暑が続く。阿佐ヶ谷も暑い。夏至のあとの日の長い時期、開場時間19時でも外はうっすらと明るい。定刻19時半を15分ほど遅れて花田さん、登場。暑い中、ありがとうございます、という第一声とともに「(She’s So) Untouchable」で始まった ”阿佐ヶ谷 流れ”。まだまだ宵の口である。

あいだに休憩を挟んだ恒例の2部制。アンコールを経て終演は22時過ぎ。締めくくりは「Heart of Stone」。ラスト・ナンバーとしてこの曲を聴くのは、ちょっと珍しい気がした。

珍しい、といえば「それでいいのさ」。CD (「Nagare at Soap 2007」)で聴いたことはあったものの、Nagare late comerの自分にとっては長らく「幻の1曲」のひとつ。花田さんの自作曲なのになあ。今回、やっとライブで出会えて嬉しかった。

 前半、「Lady Cool」~「ふっと一息」がよかった。当初、季節柄びったり、と思って聴き入っていたら、いつの間にか途切れることなく次の曲に突入。しかも「ふっと一息」とは意外なチョイス。また、「お天道さま」ではトレモロをさらりと交えたギターのリフも面白かった。一瞬、愁いを帯びたスパニッシュギターの風を感じたような (考え過ぎか?)。

さらに「風の跡」「からかわないで」「手紙でもくれ」などもよかった。「風の跡」は冒頭、突発的にずれたマイクの位置を両手で直したため、完全にアカペラでの歌い出しとなってしまったのだが、逆にそれが格好よかった。ああ、ライブだなあ、と思う瞬間。定番の「からかわないで」。明快て爽快、そしてぶれない安定感。「手紙でもくれ」は久しぶりかもしれない。ブルースが物足りなかろうが、かったるかろうが、あるいは、一日雨が降ろうが、風が吹こうが、聴けばじんわりやさしい気持ち。

連日の暑さのせいか、実は私自身、いつにもまして頭が働かないままで観たライブ。終始、ぼんやりとした夢の中にいるような気分だったんである。(熱中症ではない。念のため。) 薄暗い地下の店でギターを弾き、歌う花田さんを目の当たりにしていながら、なぜか蜃気楼のように近づけば近づくほど、姿も音も遠ざかっていくような感覚。日常世界でこんなたわけは困りものだが、「流れ」の世界なら許されよう。いったんステージの幕が上がれば、努力も集中も達成も獲得もいらない世界 (観る側にとっては)。その程度の夢見る自由はあっていいはず。そんなことを思う阿佐ヶ谷の宵てあった。


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