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屋台ラジオ 8日OA 西田卓司さん

西田卓司さん
一年ほど前に、関西に「流しのこたつ」なるものがあるという情報を得てこたつに入りに行ったときに一緒に足を伸ばしたのが西田さんです。その後上野のお店にも遊びにきてくれたり、屋台でお酒を飲んだこともありましたが実は何をしている方なのかよく知りませんでしたので、何に関心をもっているのかを中心にお話を聞いてみました。

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ツルハシブックス

― ツルハシブックスとはどういった本屋さんだったのですか ―
まあ、若者向けの本屋さんですね。中、高、大学生など20代が一番お客さんが多くて新刊本をメインに扱っていました。あと、地下に古本コーナーというのがあって、真っ暗な地下室の中で懐中電灯片手に本を探すみたいなことを主に10代向けだったんですけどやっていました。一冊一冊は近所の方からいただいた本なんですけど、メッセージが書いてあるのでそのメッセージを頼りに好みの本探して購入するという感じです。もらった本を売るので古物商の免許はいらないんですよ。

― 地下室に喫茶店、シェアスペースまであって普通の本屋さんとは違う印象ですが当初からの構想だったのですか ―
地下室の古本コーナーが始まったのは店がオープンしてから4ヶ月後なんだよ。開店当初は発想すらなかったのけど、3ヶ月目に地下室なんか使えないかないかなって考えて思いつきました。その他も気がついたなっていたんです。大学生とか高校生もそんなに買わないですし、そもそも新刊の書店は利幅が少ないこともあり、運営がなかなか厳しかった。すべてどうやって回して行こうかなぁと考えた末の結果です。スタッフも「サムライ」と呼ばれてたんですけど、その実は店員ボランティアなんですよ。

― 本屋さんなのに劇場という肩書がついているのはなぜですか ―
スターバックスの前社長岩田さんが書いた「ミッション」っていう本があるんですけど、あの本を読んでスターバックスはコーヒーを売っているんじゃありませんみたいな、今は有名な話ですけどサードプレイスを売っているんですって。あれを読んでかなりショック受けて、
「スターバックスはコーヒー売ってねえんだ。だとしたら本屋ツルハシブックスは一体何を売っているんだろう」
みたいな問いが始まって、半年ぐらい考えてたある日突然出てきたのが劇場的な瞬間だなって。劇場に迷い込んでしまった、いつのまにか出演させられてるっているみたいな本屋というか、そういう空間を味わうのがツルハシブックスの価値なんじゃないかっということですね。その空間は意図して作ったというよりも今ある状態を表現すると何だろうっていうの方が近いと思います。

― 本よりも場所の価値の方が大きかったということですか —
テレビ雑誌の取材かなんかが来た時に大学生のお客さんにインタビューをしていて、その子は片道400円の電車賃払ってウチの店に来てた子だったんですよ。でも、往復800円じゃないですか。新書とか文庫とか買えますよね。じゃあなぜ彼女は来るのかと聞かれたときに
「ツルハシブックスに来ると誰かに会えるからです」
って言ったんです。誰かに会えるって誰に会えるか分からないんだけど、誰かに会えるっていうのはすごくツルハシブックスの価値を表してるなと思って。認識をしていたかどうかは分からないんですけど、結果として彼女はその誰かに会えるっていう事に対して800円以上の価値があったんですよね。本を買うか買わないかは別の次元で、そういった視点からも劇場的な本屋は、若者や大学生にとって意味があったんじゃないすかね。

― でも、本を買ってもらわないと運営は困りませんか ―
最初から本屋で稼ごうっていうモデルじゃなかったというか、別の事業をやっていて事務所を探していたら一階が店舗の事務所を見つけたんです。それで何かお店をしようかなって思ったときに俺本屋やりたかった!って、そんな感じでツルハシブックスは始まっていたんです。
でも当然、本屋で稼ぐ計算もしましたよ。やっぱりやるからには新潟で一番なりたい。それでジュンク堂書店と比較をしたんです。当然坪数が違うので、公開されている売上を坪計算して、一坪あたりの売上では負けないようにしようって。それで計算したら、8秒に一冊1000円の本を売らなくてはいけないことが分かったんです。8秒に一冊1000円の本を売らなくてはジュンク堂に勝てないんだとわかったときに、それは僕なりたい本屋じゃないなと思って、追いかけるのを辞めました。

― ターゲットなぜ中高大学生にしたんですか ―
僕の読んできた本がいわゆる一般教養書しか読んで来なかったんですよね。僕自身悩める若者だったので、世の中はどうなっていくんだとか、その中で自分はどうしたらいいんだみたいな本が大好きで。だからあんまり小説とかを読んでこなかったのでもう一人のスタッフの子が選んでいました。
僕の関心のあるキーワードの本に興味があるお客様が多分20代の前向きな人だったんですよね。

― 本で稼ぐモデルを考えてなかったののになぜ店舗を閉店したんですか ―
閉店の半年くらい前から違和感を感じたんです。その頃、経営は私だったんですけど、店舗は店長やサムライたちが回して、僕は仕事の関係で茨城に移住してたんですよね。そういう状況の中でで月に1回新潟に帰って店に立つんですけど、なんかこういう店じゃなかったような気がすんだけどなーみたいな感じがしたんです。違和感を感じたのは5月、なんかこういう店じゃなかったと思うんだけどと違和感を覚えて、7月ぐらいにはこれ駄目だな、これ以上やれないなと思って閉店を決めました。それで、11月で閉店。
どうしてそういうことなったんだろうって考えたんですけど、やっぱりファンというか話題になればなるほど固定の人たちが集まってくるじゃないですか。そうするとツルハシブックスのなかでコミュニティを形成しちゃうんですけど、それは初めて来る人にとっては非常に居心地の悪い場所になってしまうということが多分起こっていて、その負のスパイラルに入って抜け出せなかったなと思いますね。

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コミュニティの限界に挑戦

このまえに落合陽一さんが言ってましたけど、プラットホームの寿命は2年間だっていう話があるんです。2年間経つとアーリーアダプターの次の層が入ってきてしまう。人気になればなるほどいろいろな層の人が入ってきて、最初に面白いぞと集まってきた人はマジョリティーの人たちなのでコミュニティを形成してしまうんですよ。今思い返すと、ツルハシブックスのピークは最初の2年くらいだったんじゃないかな。
それはどうやったらクリアするのか、それかできなければ2年で違うものを作らなくてはいけないのかというのはいまだに考えています。なので今実験をしたいのはオンラインの世の中で本屋ができるんじゃないかと思っているんですよね。

― 畑の本屋さん ―
あと、体を動かすというのは超重要だと思っていって、本屋のコミュニティが固定化されたってなやっぱり言語コミュニティしかなかったからじゃないかなと思ってるんですよ。畑にみんなで集めて朝ごはん食べるという活動を20代の時にやっていたんですけど、畑のある本屋だったらこれは回避できたというか、ある程度何かができたんじゃないかと思っています。
マネージャー人がいて、常連さんがいて、人がたまってくるとすごく悪い空気が出ちゃうのが問題なのでその空間を変えてあげなきゃいけない。しかもその空間が閉じられた空間だとより淀んでしますからオープンな空間にするっていうことが大事で、そういうような方法がありだなって。だから、畑のある本屋というのが今の解決法なんですけど、オンラインツルハシブックスならwi-fi を持っていればどこにでも移動ができるんです。車まだ所有しているので、車で畑に行けば畑のある本屋って実は出来るんです。

オンラインツルハシブックス構想

― オンラインの本屋さんとはどういうものですか ―
固定の場所もありつつオンラインでもやるということが可能になるんじゃないかなって。オンラインイベントも実質的な空間もそうだんですけど半分開いて、半分閉じる。厳密にいえばグラデーションなんでしょうけどそういうことが可能になるんじゃないかなってすごく漠然とですけど、直感としてあるんですね。半分開くということの可能性があるなというすごいワクワクした気持ちを今僕は持っています。

― 半分開くとは、半分ネットで半分リアルという意味ですか ―
ネットの空間でも半分開くことは多分、雰囲気的には可能なんです。たとえばzoomだったらメインのセッションがあって、ブレイクアウトルームがあるわけじゃないですか。それを上手くデザインし直す。
ブレイクアウトルーム1はひたすら無言で本を見る場所で、なんなら顔も出さないでください、それで気になる本があったらコメントをくださいみたいな。ブレイクアウトルーム2はご飯食べるところで、とりあえずご飯を食べたい人はそこに行ってくださいということができるかなと思うし思うんですよね。でも、フルオープンというのは危ないと思います。今この実験をしてますけど、ひとまずは非公開イベントでやってて知り合いは触っても大丈夫ですよみたいな感じでやってますね。

― 手応えみたいものは感じていますか —
まだ一回しか行ってないですけど、よっぽど音質とかをこだわらなければ音楽とかやれそうですね。音楽って何かといったら、音楽を聴いてるって言う何かを共有することじゃないですか。音楽のある空間にいるっていうことの意味ならオンライン上でもできるのかなって。
あと、あえてツルハシブックスという名前でしようと思っているんですけど、リアルの空間って屋台もそうですけど、感覚は身体が覚えているじゃないですか。オンライン上でもその感覚というのはあるんですよ。雰囲気感というか。そうするとツルハシブックのサムライと呼ばれていた人たちは今、全国に散っているわけですけど、zoom上で結集してもう一度店員がやれるんじゃないかと。そうするとリアルの書店でもあり得る、あの人から買いたいとかあの本屋から買いたいということがネット上でも起こるんじゃないかなって思っているんです。

― ネット本屋さんの可能性 ―
よくリアル書店でもこの人が選ぶ一冊みたいなのがありますけど、それはネットでいいんじゃないかって思うんです。有名人が選んだことに価値があるとするならば。立ち読みできる機能とかは別にして、セレクトという意味ではネットでいいんじゃないかって。
本屋の価値っていうのはやっぱり棚なんですよね。二十冊なら二十冊の、30 cmなら30cmの棚にどんな本が並んでるかっていうのが楽しいって僕は思っていて、右からでも左からでもいいですけど眺めている瞬間が楽しいわけですよ。僕は長崎の「ひとやすみ書店」が一番好きなんですけど、あの店は全部本を買い切っているんですよね。だからおススメの本しかない。棚を見て、手に取って読むじゃないですか、もう全部ほしくなってしまう。笑
ああいう棚をもしweb上で棚を見せてくれたら僕は買いたいですね。
あとオンラインツルハシブックスで、発送システムや決済システムが整えばみんなの本棚がその場でお店になりうるんですよ。トークルームで何か話しながら、私もそこに出店しますって言ったら出店できる、でも一冊の本をゴリ押ししてくれないと思いますけどね、ストーリーがないと。

― 不要不急な本 ―
オンラインツルハシブックスはコミュニケーションのある本屋になるはずなんです。本を買いに来る人もいるし、話にくる人も、買いに来た本じゃないものを紹介されることもあるかもしれない。そういうようなことが可能になると思う。最近僕もオンラインの講座みたいなトークイベントのアーカイブとかを見て本を紹介されていたりすると、早く読みたいのと、早く情報にキャッチアップしたいのでAmazonの古本で購入します。でも、不要不急な本もいっぱいありますよね。目的があってそこに向かっていく本、仕事でもそうですけど目的に到達するために本って受験勉強と同じ面白くないですよ。そうじゃなくてこれを読むとどこに飛んで行ってしまうんだろうみたいな本って絶対面白い。

テーマはフラットなコミュニケーション

― オンラインで目指す、フラットなコミュニケーション ―
オンラインだからいける地平があるって俺はめちゃめちゃ思うし、僕はコミュニケーションをいかにフラットにするかをひたすら研究してきました。たとえば「本の処方箋」っていう企画があって、あなたの悩みを聞いて本を紹介しますというものなんだけど、本を選ぶことをゴールにしてないんですよね。話は聞いてるんだけど、実際はその人の話をちゃんと聞いている訳じゃなくて、半分ぐらいは何か良い本ねえかなみたいな感じで適当に聞いているわけですよ。でも、だから初対面の本屋おじさんに本当のことを話せてるんじゃないかなと。どうせこの人は本しか紹介してくれないんだから本質的には悩みは解決しないし、本を読んだから解消するわけでは当然ないしね。
そういうところが本当のコミュニケーション、本心を出せるというか、心を開けるようなコミュニケーションになっているなと思うので、そこを意識しながらオンラインのコミュニケーションを考えています。ちゃんと顔出して向き合って話すことだけじゃなくて、顔は出さなくてもいいです、ニックネームでもいいです、チャットでもみたいなことでもいいですみたいな、コミュニケーションの手法が多様化することによってよりフラットに立場を超えられるみたいな。

― 立場や肩書が消えてなくなるコミュニケーション ―
今、学校関係のプロジェクトやってますけど、オンラインになった瞬間に教育長とか校長とか教頭とかがなくなるわけですよ。いち参加者に過ぎない。リアルな場でやれば偉い人は上座に座って、「最後に教育長一言お願いします」なんて司会もするんだけど、そういうことがあるんだけどない。気持ちの中にはあるんだけどそれが見えにくいじゃないですか。オンラインで何かをやるということはその先にフラットなコミュニケーションがあるからこそ何かいけるという予感はしています。
でも、完全なフリーの空間も怖いんですよ。先日高校生対象のオンラインの完全にフリーのイベントを見学したんですけど、誰かいるかもわからないから誰が顔も出さないし、発言もしないし、結構スペシャルなゲストが来ているんだけど意外に一方向な感じだったのでやっぱり難しいんだなぁって。その辺のデザインに答えはないんでしょうけどね。

編集後記

コロナの影響もあってネット環境への移行が一気に進んできています。私のネットラジオ的なこの活動もその一環です。しかし、これから気を付けなくてはいけないのはリアルでもできることをネットにただ移動したところでリアルの劣化版でしかないのです。ネット環境で行うことの強みに生かしてリアルよりも価値の高いことを生み出していかなくてはいけない。そのヒントとなりそうなものが「これ、ネットでいいよね」という部分を見つけていくことやネット環境の特性をも一度洗い出すことが必要なのかもしれません。



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