セラノス事件の発端となった『Bad Blood』(未邦訳)を我慢できずに読んだら、ハチャメチャおもしろかった件

いつまでたっても邦訳されないので、原著で読んだのだけど、もうハチャメチャ面白かったのでぜひぜひおススメしたい一冊。

主題である"セラノス"という会社を巡る一連の事件を知らない人に簡単に説明すると、スタンフォード大学を1年で辞めたエリザべス・ホムルズが2003年に設立したのがセラノス(ホムルズは当時19歳)。彼女は、血液一滴であらゆる血液検査ができる革命的な機械を開発したとして、投資家から資金を調達しまくりながら会社を拡大。ピーク時に会社の価値が1兆円近い評価がつき、半分を所有する彼女も億万長者になり、時代の寵児になる。しかし!蓋を開けてみれば、実はセラノスの製品は基本中の基本性能すら怪しい欠陥商品だったと。それでシリコンバレーは大騒ぎになったと。

本書の著者John Carreyrouは、セラノスの実態を暴き、一連の騒動の発端を作ったWall Street Journalの記者。つまりこの事件について一次情報に近い。

面白い点はいっぱいあるけど、まず創業者エリザベス・ホムルズがただものではない。
メディア報道だけ見るとただの詐欺師に見えるかもしれないが、自分のビジョンを語り、人を魅了し、社員を引き付け、投資家を引き付け会社の価値を高めっていったのは事実。しかも相当なジジ殺しで、この前まで国防長官だったジェームズ・マティス、もはや伝説の外交官ヘンリーキッシンジャーやら、早々たる面子を口説き落とし取締役会にそろえた。しかもリチャード・ブランソンから投資を受けたり、ビル・クリントンから支持を受けたりと、、、そんな面子を揃えられたのが常軌を逸している。もう、投資家とかみんな騙されてもしょうがないレベルかと。
ちなみに彼女、一対一で話すとき低い声で語り、さらに全く瞬きしないらしい。

とりあえず彼女は凄まじいカリスマがあった。そして、そんな錚々たる面子のバックアップを受けながら、自社製品の欠陥については徹底的に目をつぶり、見つけて報告しようとした社員に対しては、ナンバー2で恋人でもあるサニーと一緒に握り潰し、さらに訴訟で脅すという、悪い方向への肝の据わり方が半端ない。

よって、彼女は調達した資金のかなりの額を秘密の隠蔽に使うのだが、そのために登場する弁護士事務所が最高にやばい。
漫画カバチタレに「法律家はお上公認のヤクザ」という名言があるけど、アメリカのトップ弁護士はヤクザを地で行くレベルで、恫喝、脅しは当たり前、尾行、待ち伏せ、監視、書類工作まで、もう何でもありっぷりに圧倒される。

社員や元社員が、セラノスの製品は基本性能も怪しく患者たちを傷つける可能性があると、どこかに糾弾しようとすると、この弁護士軍団が登場して”企業秘密の保護”を盾に攻撃しまくる。そうするとただの平社員たちは怖気づいてしまう。
そして、最高なのがこの弁護士事務所、セラノスがやばくなった瞬間、「ばいばいきーん」と速攻で袂を分かつことだ。この俊足さすがだなと。

自身のカリスマ性とヤクザ弁護士達に守られたセラノス&エリザベス・ホムルズに対し、著者は少しずつ少しずつ慎重に元社員から情報収集を進め、聞きつけたセラノス弁護団の脅しとも戦いながらも、疑惑を暴く記事をついに公開。その後、世論の高まりとともに監視当局の検査が入り、それをきっかけにセラノスは瓦解していく。。。この過程が克明に描かれていて、もう読みながら「次どうなんの??」と超ドキドキした。

もうネタバレでいってしまうと、最後に最高な場面があって、それは、もはや四面楚歌となったホムルズが、それでも医療関係のイベントに出席して、自社製品についてプレゼンをする場面がそれ。会場全体はホムルズに批判的な立場にかやり、拍手すらまともにおこらない状況でも、まったくよどまず、噛まずプレゼンする彼女の姿を見て、著者は一種の感銘を受けてしまう。で、彼女は憧れたスティーブ・ジョブズにはなれなかったけど、「現実歪曲空間を作り出すことだけはできたのだ」と。。(ちなみにプレゼンの後、質疑応答で彼女はボコボコにされる)。その時の動画も残っているので興味がある人は↓

まぁ、彼女をサイコパスの一言で片づけてしまうのは簡単だけど、事件には必ずそれを成立させた背景もあるわけで。そのあたりも含めて最高に楽しめるので、この本は超おススメ!!!、、、

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