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世界農業入門Part1

世界の農業はどうなっているのか。
日々の農作業も大事だが、たまには広い視野から世界を見渡してみよう。
自分が抱えるちっぽけな農業の悩みや限界など、吹き飛んでしまうかもしれない。
さあ、新しい農業世界へ!

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農業とは耕すことである。
であるならば、世界農業を知る第一歩は何か。地球がどれだけ耕されてきたかを知ることにある。 
そこで図1をご覧いただきたい。紀元前1万年から現在までの農地面積の推移を示している。
農耕が始まったのは最終氷河期に入った紀元前8000年紀の「肥沃な三日月地帯」。古代メソポタミアからシリア、イスラエルを経てエジプトに至る地域である。当時、耕やされた面積は1万haから最大で数万haだったと推計されている。
世界史で習った肥沃な三日月地帯と聞けば、壮大な規模を想像するだろうがたいしたことはない。1万haといえば、本誌読者が耕す田畑の合計面積よりずっと少ない。現在の東京都や大阪府の農地程度で、農村地帯なら少し大きい一町村分の耕地にも満たないぐらいだ。

農耕誕生前、三日月地帯では野生種の麦が自生し、山羊や牛などの反芻動物が増殖していた。糞尿の還元と土壌微生物の増加により、草の栄養増、家畜の生育良好と好循環が生まれていたのだろう。
そこに登場するのが読者諸氏の大先輩、人類最初の農家である。どんな人物だったのか。彼(彼女)は自生麦を観察し、再生産する能力を持つことに気づいた天才だ。いうなれば、種子の機能に気づいた。歴史上、もっとも重要な発見をした人物である。

そして、土を耕し播種床をつくり種を播き、収穫する一連のサイクルをやり遂げた彼こそ、最初の農家になったのだ。
彼の子孫は農耕民族となり、増収を目指し、創意工夫を重ねていった。そこで生まれた第二の発見がプラウ耕である。天地返しの深さを競い、上の写真にあるように農具や家畜の改良が進んでいった。

農耕の誕生から1万年後の現在、世界の耕地面積は15億haを超えている。最初の1億haに達するのは紀元前1000年。一粒目の播種から5000年以上かかり、5億ha突破には産業革命が起こる18世紀半ばまで待たなければならない。そして20世紀初頭、トラクターの大量生産が可能になった後、耕地は爆発的に増える。かつて5000年かかった5億haの開発をたった5、60年で実現したのだ。
そして、21世紀に入り新興国では15年余りの短期間で1億4000万haの耕地が純増している。日本の耕地面積450万haの30倍超だ。アフリカ大陸が純増の半分を占める。農業もアフリカの時代到来である。それに続くのが4000万ha増の南米、3000万ha増のアジアだ。

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次に図2をご覧いただきたい。地球上で居住可能な土地104億haのうち、都市が占拠しているのは1%にすぎない。一方、農家が利用している土地は51億haと都市の50倍を誇る(残りは森林や低木地だ)。世界は都市の時代といわれ久しいが、地球を実質的に支配しているのは読者諸氏をはじめとする世界の農家たちなのだ。

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