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【転職先に移換は古い!】企業年金の損しない手続き先を解説します(確定拠出年金、確定給付企業年金)

退職金・企業年金コンサルティングチャンネルを運営しております大森祥弘です。

さて、そろそろ12月末退職、3月末退職ということで1年で最も退職される方が増える時期です。

この時期になると、企業年金の転職時の手続きに関してYouTubeコメントをいっぱいもらいます。

企業型確定拠出年金(企業型DC)、確定給付企業年金(DB)の転職時の手続きを解説した動画はアップしてから3年ほど経ちますがいまだに多くの方々が視聴してくれます。

ただ、YouTubeを始めた頃に作った動画ということもあって手作り感満載なところがあり「そろそろ撮り直すか〜」なんて思っていたらあっという間に3年近く経ってしまいました。そんなところで、ようやく完全新作の配信に至った次第です。

完全新作の動画を作ろうと思ったのは、転職時の企業年金の手続きについて2022年10月の法改正(iDeCoと転職先の企業型DCの同時加入の緩和)が行われてから”損しない”という観点で選択肢が増えているにも関わらずWebのコラムやYouTube動画で誰も解説していないからです。

なぜ、どの保険会社も証券会社も解説していないのでしょうか?
*実は、小さく注意書きでWeb記事や転職者向けの資料には書かれていますが特別そこに注目して解説していません。

答えは、みなさんが損しない選択肢だからです。
(金融機関が得しない選択肢だからです)。

気になった方はぜひ最後までこのコラムやYouTubeをみてください。知らない話、自分が納得できる話が待っています。

YouTubeはこちらからご覧いただけます!

【転職先に移換は古い!】企業年金の損しない手続き先を解説します(確定拠出年金、確定給付企業年金)

企業年金の転職時の選択肢まとめ

まず転職時の企業年金の手続きの選択肢をざっくり説明します。
*このコラムやYouTubeで選択肢を説明する上では、転職先に確定給付企業年金に移す(移換する)選択肢は割愛します。
理由は実務的な話になりますが、転職前の企業型確定拠出年金や確定給付企業年金を転職先の確定給付企業年金に移換して、将来、確定給付企業年金として受給することができるのは稀な話だと思ってください。
具体的にはグループ企業間での転籍だったり、もともと転職元と転職先に深い関係があるといった場合にありえるケースです。なぜ転職先の確定給付企業年金に移しづらいのかという話はより専門的になるのでこのコラムでは割愛します。

また、前職で加入していた企業年金が確定給付企業年金、確定拠出年金のどちらかにより選択肢が一部増えます。具体的には確定給付企業年金は次の選択肢3つ以外に一時金として受け取ってしまうこともできます。ただ、確定給付と確定拠出のどちらかで違うのはこの位なので、次の選択肢は確定給付でも確定拠出年金でもどちらでも選択できるものだと押さえてください。

選択肢1 転職先の企業型確定拠出年金(企業型DC)に移換する

この選択肢がこれまで1番主流で、転職先の企業の人事・総務担当者の方も転職者の対応に慣れている方であれば「転職前の企業で加入していた企業年金の記録が分かる資料はありますか?」と聞かれたり、入社時の手続き書類に含まれることがあるかもしれません。

手続き方法はそれほど難しくありません。転職先の企業型確定拠出年金に加入するうえで毎月の掛金をもとに購入する運用商品を選択する際に前職の企業年金が例えば、企業型確定拠出年金であれば口座番号のようなものがありますので、それを記入し提出すると転職元企業での記録が紐付けられて転職先の企業型確定拠出年金の自分の口座に資産が持ち込まれるような形になります。

ポイントは良い点から話すと、転職前に勤務していた企業を退職した後、記録関連運営管理機関(JIS&TやNRKといった前職の勤務先が契約していた金融機関の事務委託子会社)から郵送される資料を無くさずに、転職先の企業の担当者に番号さえ伝えれば(書類に記入すれば)あとは転職先の企業型確定拠出年金に加入するのと同じように転職先の企業型確定拠出年金の運用商品を選びさえすれば良いということで手間が少ない点です。

一方、ネガティブな点は転職先の企業型確定拠出年金の金融機関、商品ラインナップ以外選択できないということです。

運用商品のラインナップは”企業型”という名前の通り企業によって同じ金融機関、証券会社でも中身が違いますので転職先の用意している運用商品ラインナップの中から商品を選択することになります。

ネット界隈では業界最低水準の信託報酬(要するにコストの安い)オルカン商品が人気ですが、転職先の企業の運用商品ラインナップにはありませんので転職先の企業型DCに移換するとe MAXIS slimシリーズといった人気のある商品を買うことはできません。
また、iDeCoのように金融機関を変えたいといった場合に一度、企業型DCに移換した資産を取り出してiDeCoに移すようなことはできません。

選択肢2 iDeCo(個人型確定拠出年金)に移換

これまでは転職先に企業型確定拠出年金がない場合に限って行われてきた選択肢です。

考え方はシンプルで転職先に確定拠出年金がないので、自分で加入するというものです。

ポイントとしては以前はネガティブな面があり、定額の手数料を自分で支払わないといけない(昔は月400円位)、手続を全て自分が行わないといけない(選択肢1の企業型DCに移換するよりは自分が主体的に動かなければならないことがあり、手間に感じるかも)こともありました。

特に毎月の定額の手数料が発生することを考慮して、それならばと転職先の企業が企業型DCを導入するといったこともあったようです(iDeCo加入による定額の手数料の負担をなくすイメージ)。

また、以前は企業型DCに転職先で加入し、iDeCoも加入する(企業型と個人型に両方入る)ということがほぼできず、企業型DCが法的に優先されていた(*)ので実質、選択肢1の企業型DCに移換するという結果に至ることがほとんどでした。
*以前は企業型DCの各社のルールブックとも言える”年金規約”という就業規則の類にiDeCoにも入れる(同時加入できる)とわざわざルールを書かないといけませんでしたが、今はこれが改善されてマッチング拠出を行なっていなければiDeCoに加入することが可能です(マッチングという言葉が自社や転職先の企業型DCで説明されたことがあると言った方はiDeCo同時加入ができないケースもあります)。

しかし、今は一昔前と変わっていてiDeCoと企業型DCの同時加入の制限がなくなりました。

加えてネット証券4天王のSBI、マネックス、楽天証券などがiDeCoの定額の手数料(うち、運営管理手数料)を無料にしている(一部、ネット証券でなくても無料にしている金融機関もあります)ので以前と比べるととり得る選択肢になっています。

運営管理手数料以外の手数料(毎月、微々たる額です)は支払う必要がありますが、企業型DCでは購入できない(選択できない)e MAXIS slimシリーズをはじめとした信託報酬(運用商品の評価額に応じて毎日自動的に天引きされる運用報酬手数料)の低い商品を購入することができます。

そのため、信託報酬による目減りは運用商品の信託報酬が大人の事情で高めな企業型DCに比べて低く、結果的に企業型DCと比べて損しない運用ができると考えます。

ですので、2023年10月現在、退職金・企業年金コンサルティングチャンネルの一番の推しは「iDeCoに移換する」なのですが、金融機関各社特に目立って転職時はぜひiDeCoに移換しよう!なんてアピールしていません。

なぜかというと、「2022年10月からiDeCoと企業型DC両方加入できるようになったから転職先に企業型DCがあってもiDeCoに移したい人は転職前の資産はiDeCoに移せるよ!」ということを「転職先の企業型DCへ移換できますよ!」と並列に並べると私が今までお話しした理屈がわかる方であればiDeCoに移換します。

そうするとiDeCoでシェアトップを占めるネット系証券(SBI証券と楽天証券の2強)を中心に資産が流れることになります。

だから、転職先に企業型DCがある場合は企業型DCへの移換ありきなんですね。

ちなみに、金融機関により実はこの辺り、伝え方がちょっと違うので紹介します。

りそな銀行だと、コラムに()書きの記載がある程度。

https://www.resonabank.co.jp/nenkin/ideco/column/procedure-at-change-of-job.html

SBI証券(SBIベネフィットシステムズ)だと、ちゃんと企業型DCへ移換とiDeCoへ移換が並列で並ぶ。

https://www.benefit401k.com/subscriber/retirement/

選択肢3 企業年金連合会の通算企業年金に移換

この選択肢は2022年5月1日から選択できるようになったものです(正確には企業型DCは2022年5月1日から。確定給付企業年金は以前から可能)。

これは簡単にお話しすると企業年金連合会という団体の実施している通算企業年金という制度に転職前の企業年金の資産を移換するというものです。

企業型DCや確定給付企業年金とは別物で、企業年金連合会が実施している年金制度に移換します。企業型DCほど「運用成果を望んでおらず(狙わず)、終身年金で受け取りたい」といった方は採用する候補になります。

(参考)通算企業年金の仕組み

https://www.pfa.or.jp/tsusan/dc_ikan/files/dc_pamphlet.pdf

ざっくり言えば、45歳未満の方であれば付利される予定利率(年金額を計算する際の利率)は高くなりますので、45歳未満で企業型DCの資産がそれなりにあって、「もう60歳までリスク取りたくない。将来、終身年金で欲しい」といった方ですと合うと思います。

この選択肢も選択肢1(企業型DCへの移換)と比べると一般の個人の方に伝わっていません。なぜかというと、並列にこの選択肢を並べてしまうと企業型DCに移換する資産額が減るからです。移換してもらう金融機関が得しないので、声高にみなさんに伝える必要がないのです。

*ちなみに”終身年金”と聞くと50代以降の方ですと興味を持たれることが多いのですが、企業年金連合会の年金は65歳からの受け取りになりますので受け取り時期に近づけば近づくほど運用できる期間が短くなります。そのため、先ほどの図の通り高齢になればなるほど予定利率(運用した分、加算される分と言っても良いでしょうか)は下がっていきます。

手数料払っても信託報酬の低い商品を自分で!iDeCoで!

ここまで選択肢を解説しましたが、次に企業型DCに移換する場合とiDeCoに移換する場合とでどちらが損しないか一定の条件のもとにやや具体的に解説します。

28歳で転職に伴い前職の企業年金を移管するとして、次の前提でケースA、ケースBを比較してどちらが60歳時点で手数料合計は安いですか?

ケースA 企業型DCに移換する場合
・運営管理手数料は企業持ちです。そのため、毎月0円です。
・信託報酬が年率1.045%のオルカン商品を購入

ケースB iDeCoに移換する場合
・手数料は毎月171円、毎月iDeCo口座から引かれる
・信託報酬は年率0.05775%(e MAXIS slim オルカンを例)

手数料が安いのは、ケースBです。

ケースBは28歳から60歳までの32年間、毎月171円の定額の口座管理手数料が発生します。32年間の合計は77,976円です。

加えて、信託報酬がかかりますが年率0.05775%です。ポイントは定額で8万近く取られるものの運用した資産に応じて日々取られるコストはケースAの半分程度です。

一方、ケースAはどうでしょうか?

ケースAは企業型DCなので、口座管理手数料は会社持ちです。企業の確定拠出年金と共に管理しますので、管理手数料は個人負担する必要がありません。だから0円。

でも、信託報酬は1.045%とeMAXIS slimオルカンの2倍します。運用した資産に応じて日々取られる手数料は単純に2倍です。

そして、この信託報酬は会社の給与から給与天引きではなく、確定拠出年金の口座から天引きされるのでもなく、基準価額という日々の資産額からあらかじめ引っこ抜いた数字が運用結果と表示されるのでぱっと見いくら信託報酬として手数料を取られたのかわかりません。

だから、普通、気づかないのです。その結果、次のようなことに世間は現状なっています。

企業の担当者は企業型DCの契約先金融機関の代理営業を行なっている可能性を自覚するべき

企業の担当者で、転職して自社に入社してくれる方のことを考えてくれている会社であれば「前職の企業型確定拠出年金の移管の書類を提出してください」ですとか、熱心に自社の企業型DCの説明をしてくれると思います。

2022年9月まではこれは素晴らしいことでした。
しかし、2022年10月からは違っています。

自社の企業型DCの運用商品の営業代理になっています。iDeCoと比べて素晴らしい運用商品ラインナップになっていれば、転職入社の方も嬉しいと思いますが9割型位、iDeCoのほうが優れているのが現状です。

iDeCoでは採算が取れるけど、企業型DCでは採算が取れないような低水準のコスト商品が並ぶので横並びで見たらiDeCoに軍配が上がります。

それが、自社に企業型DCがあるからという理屈で企業は代理営業してしまっていること、また、企業年金の手続きを検討している方は営業されていることにお互い気付かないのです。

企業の担当者の方の肩を持つと、代理営業にならない場合というのはiDeCoに引けを取らない運用商品ラインナップであること、またはiDeCoに引けを取らない運用商品ラインナップを持つ金融機関に企業型DCの契約先を切り替えることです。しかし、これはかなりの手間と体力が必要で現実的に困難です。

ですので、前職の資産はiDeCoに移管、転職後は企業型DCについてまた別につみたて運用を始めるというのが吉です。

これは私の持論ですが、企業型DCって転職先の退職金制度の一部なので、企業に責任がまずあるんですよ。

運用成果は個人に責任があるとしても企業型DCっていう制度、ハコを導入しているのは企業の判断なので。

だから、前職の資産とは分けて、その企業の企業型DCで稼げた資産ということで区別するべきだと思っています。

転職準備とあわせてiDeCo口座を開設、加入しておこう

転職後にiDeCoに移管するのが吉、こんな話をしてきましたがiDeCoに移管する場合にはiDeCo口座を開設しておかないといけません。

このiDeCo口座の開設、3ヶ月は見た方がよいので退職後よりは転職すると決めたあたり(早期退職すると決めたあたり)から開設してしまうことをお勧めします。

現職(前職)または転職後の企業に企業型DCや確定給付企業年金がある場合はiDeCoの毎月の掛金上限の問題もありますから、事業主証明というものを貰わないとなりません。この手間はあるのですが、できればiDeCo加入しておくべきです(そのほうがスムーズです)。

おわりに

今回は2022年から変わっている、企業年金の転職時の手続きについて”損しない”という観点で解説しました。

ぜひ転職時は転職先の企業型DCの商品ラインナップの信託報酬とiDeCoをサービス提供しているネット系証券会社と比較してみてくださいね。

*このコラムやYouTube解説の影響でiDeCoに移換する流れが流行るんじゃないか(増えるんじゃないか)なんて思っています。全然OKですけど 苦笑