まかない家具のつくりかた
2020年10月26日・27日・28日・29日・30日・11月2日の6日間、千駄ヶ谷(北参道)の長坂常 / スキーマ建築計画にて、「まかない家具展/長坂 常」が行われています。
*11/3(祝)10:00~18:00が追加されました!
昨日は、内覧会とトークイベントがあり、長坂さんからお誘いのメッセージが来ていたのでひょいひょいと覗きに行ったところ、オンラインの開催だったというオチで(汗)、、最後に少しだけ参加させてもらいました。
まかない家具というのは、いわばレストランのまかない飯のプロダクトデザイン版。飾りつけた食事よりも、シェフがササッと残りの材料でつくったスタッフのためのまかない飯の方が実は美味しいのでは?というのはよく聞く話。それはプロダクトデザインにも言えるのではないかと。
具体的には、長坂さん自身が様々な工事現場で発見した、大工さんが自分のためにつくった簡易な作業台や道具置き場のことで、大抵はベニヤなどの簡素な素材で、しかも簡易なディテールでつくられている。一見そっけないのだけれど、そのそっけなさがある意味ドライで魅力的だという所からスタートしています。
ただ、面白いのはそのあとの話で、それらの大工さんがつくるまかない家具を観察していくと、実は国や地域でそれぞれに違いがあるのだというのです。これは、当たり前と言えば当たり前で、手に入りやすい素材や道具や、培われてきた技術や手法は場所によって異なるからです。ただ、
「見せることを一切考えられていない家具こそが地域によって多様な表情を見せる」
というのは、それこそ必死で差異を生み出そうとしてピンタレストを世界中のデザイン事務所で見ているだろうことを想像すると、とても面白い現象です。「インターネットと切れた所にこそ多様性があらわれる」というのは、今後他でも発見されていく重要なポイントだという気がします。
というわけで、展覧会をぜひ見に行って欲しいのですが、今日は、トークの途中でさらっとでてきた
「まかない飯と同様に、実はまかない家具には技術の差があらわれる」
という話を、ちょっと補足したいと思います。昨日のトークではサラッと流れていったので、上記の発言だけが独り歩きして、「やっぱ大工さんは技術は凄い」という単純な話に回収されてしまうともったいないと思ったので。
さて、そうですね、例えば「木の箱」をつくることになったとしましょう。全く家具をつくったことがない人は、単純な四角い箱を想像するでしょう。ちょっとデザインをかじったことがある人ならできるだけシンプルにするため、できる限り線を消して、全ての面がつながっているようなデザインを考えるかもしれません。しかし、後述するように見た目のシンプルさに反比例して、それを作るのは実はかなりめんどくさい。
それがまかない家具ならどうなるか。まかない家具は、基本的に大工さんが自分で使う道具として、余った材料などでササッとつくれる所がポイントです。材料は厚みがあればあるほど重く値段も高くなるので、薄い材料でつくるでしょう。そうですね、ベニヤの9ミリや5.5ミリ。ただ、薄い材料はその薄さのせいで接合部分が弱くなりがち。そこで、材料同士がぶつかるところだけは厚みのある材料をぶつけて、強度を出すとともに接合しやすくするでしょう。こちらは垂木を使用し、時間があれば斜めにカットしているかもしれません。そうやってできた箱は例えば、こんなかたちをしているはず。
実際、現場の大工さんや建具屋さんが、この手の箱を使っているのを何度か目にしたことがあります。
ここでのポイントは、まず材料の特性をよく知っているということ。そして、接合方法の違いによる強度や、施工のしやすさについても熟知しているということです。だから技術力があるというのとはちょっと違うのです。
例えば、上述したシンプルに面がつながったデザインを実現するなら、下記の図のような接合方法になります。
左は45度にカットして小口にフィニッシュネイルや隠し釘を打つことになるので強度的には怪しい。しかもこれは組立時に90度が出ないので、きっちりつくるなら治具などを用意する必要があります。右は下地にきっちりとした箱をつくってその表面に薄い板を張り合わせるもの。これは見た目のためのデザインなので大工さんは自分の道具のためにはやらないでしょう。どちらも接着剤が必要だというのもササッとつくるまかない家具としてはマイナスポイント。
↑フィニッシュネイル
最近マキタから充電式の釘打機が発売されました。パワーはエアーのタイプに劣りますがむちゃくちゃ楽です。
↑隠し釘
綺麗に仕上げたい所はこのピンクの部品が付いた釘を打ち込みます。接着剤が乾いたあと、ピンクの部分を横からハンマーで叩くとポロッと釘の上部が外れて目立たないほどの小さな穴だけが表面に残ることになります。
あるとしたら上記の左の図でこれは少し厚みのあるもの同士をビスで打つというもの。これはまあ状況によってはあり得るでしょう。右はちょっとイレギュラーですが、フラッシュ構造の片面だけをあえて外して組み立てたもの。ほとんどの人には何を言っているか分からないかもしれませんが、こういうマニアックなディテールも一部で試みられています。具体的には丸の内のコム デ ギャルソンにあります。
さて、ちょっと脱線しましたが、まかない家具的には、まずはやはりこのようなディテールになるのではないでしょうか。赤い矢印がビスなのでササッと簡単に止めることができます。
とはいえ、これでは展示のための家具にはならないので、長坂さんたちに習って考えてみます。まず、接合部の垂木を外に出してみましょう。
ちょっとそれっぽくなってきました。ただ、上記の絵は最も負荷のかかる底板が片面だけしか止められていない所は心配ですね。あとせっかく垂木を外にだすなら持ち手も兼ねたい。
垂木の向きと位置を変えるとこんな感じ。
まだ底板が片方向しか止められていないので、怪しい気もしますが、基本的な板材を5.5ミリに、取っ手がついている方の側板だけを9ミリにすればギリギリビスも打てるのでなんとかなる気がします。
こうやって実際に考えてみると分かるのは、まかない家具とは、素材や道具の特性や、加工や接合方法にも熟知した上で可能となる家具のことです。そして、実際に家具や大工仕事をしたことがある人なら分かると思いますが、上手い人と下手な人の差というのは、この手のまかない家具レベルだとほとんど誤差のようなものです。それよりも、どの素材をどうやって使うのかという所にこそ、その差があらわれる。
だから、A面B面といっておきながら、その実、B面にカテゴライズされていた狭山フラットこそがド直球のポップソングだったように、まかない家具も、ある意味ではまさに現代におけるど真ん中のデザインの問題なんじゃないか。
そんなことを考えさせられた展覧会でした。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?