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【玉乃丞】猫魔一族の陰謀3 ~猫魔事変~

た組で一番の口達者である化け狸の伝八が、ツチミカドなんたらとの交渉に成功したらしい。これで役者は揃った!

そして運命の3月25日・・・オイラが300歳になる記念すべき日!我が猫魔屋敷には、野衾の飛倉、その父百々爺、大蜘蛛マダムスパイダー、鳳凰の五色局、大天狗月光坊ら妖界を代表する五人の元老院を始め、大物妖怪達が続々と参集した。大広間の上座のど真ん中、玉座の様に鎮座している黄金の椅子はオイラの席だ。そして向かって左には、主賓の元老院、右側には親父を筆頭に猫魔一族の長老たちが居並ぶ。

定刻通りにオイラの誕生パーティーという名の、見せ物吊し上げ大会が始まった。司会卓のセバスチャンが開会を宣言すると、けたたましいファンファーレが鳴り響き、親衛隊によってドでけえ黄金の扉が観音開きに開け放たれた。豪華な刺繍が施されたクソ重えマントを羽織らされた可愛そうなオイラは、扉から主役席まで続く血みてえな絨毯の上をゆっくりと歩いていかなきゃならねえ。左右の来賓たち相手に交互に「ごきげんよう」を言いながら・・・拷問か!💢

漸く主役席までたどり着いたところで、休む間も与えられず挨拶を促される。

「本日は私の為にお集まり頂き、心より御礼申し上げます・・・」

執事のセバスチャンに教わった通りの定型文を棒読みすれば良いはずだった。だが何故か出来なかった。

「・・・突然ではありますが、この不肖玉乃丞、皆様にお聞き頂きたい事がございます。これは300歳を迎えた私の所信表明であるとご承知おき頂きたい・・・」

そこまで本気で語るつもりはなかったんだ。だが何故だろう。無意識に口から出ちまったのさ。猫魔一族の事も、妖界の事も、た組の事も、決して正面から向き合わず、適当な茶番で塗り固めて生きてきた300年にケリをつけたくなったのかも知れねえ。こうして、のちに「猫魔事変」と呼ばれる歴史的事件の幕開けを告げる「3.25お玉スピーチ」が始まったって寸法さ。

「本来、人間と我々妖怪は、反目し合うのが道理であった。然るに、昨今の妖界では“人間と仲良く”などという絵空事を唱える輩が蔓延っている。いや、蔓延っているくらいならまだしも、妖界の指導者層にもこの不道理を唱える者があとを絶たない。そう!ここにご臨席の皆様方の中にもだ。誠に憂慮すべき事態である。“時代の流れ”などと安易にのたまうのが流行りの様だが、これはあまりにも無知で無責任であると言わざるを得ない。そもそも!何故我らは人間と反目しなければならないのか。それが自然の摂理だからだ。人間は弱い。常に他力本願で恥じる事を知らない。そんな彼らにとって、祈るべき神が必要である様に、怖れるべき妖怪もまた必要なのである。自然とはバランスである。そのバランスを崩せば人も妖怪も、神さえも生きていくことは出来ない!人間が科学を神と仰ぎ、我々を意識しなくなった為に、力が弱まり不安を覚えるのはよくわかる。だがどうか胸に刻んで頂きたい。人間がどんなに増長し、我々の事を見くびろうとも、人間が人間である限り、自然の一部である限り、完全に我々を忘れ去る事は出来ないのである。そして神も我々妖怪も、与えられた使命を果たす事でしか存在出来ない事を知って欲しい。神は必要善であるべきだし、我々は必要悪であればそれで良い。悪戯に人間に媚びたり寄り添う必要はないのだ。人間と仲良くしない事、それこそが、人間と我々妖怪が共存共栄し得る唯一の道なのだと私は断言する!」

ここまで言い終わってからハッと我に返った。オイラは何を言っているんだ?

水を打った様に静まり返った会場から、ポツポツと起こった拍手が徐々に大きくなり、歓声に変わった。何に共感したのか知らんが、もはや熱狂の渦だ。もちろん「人間と仲良く論」を主導する元老院は誰一人拍手はしていない。親父たちも然りだ。パーティー会場を包む熱狂に一番動揺してるのは不覚にもオイラ自身の様だった。まずい、どう収拾すりゃいいんだ?

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