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帰ってきた、愛せるはずのスペイン代表

おかえりなさい。

3ヶ月ぶりに、ではない。僕らのスペイン代表は、ルイス・エンリケFCによる支配から4年ぶりに解き放たれた。

内部昇格の形で就任したルイス・デ・ラ・フエンテ新監督によって、ラ・ロハは代表チームとしての性格を取り戻そうとしている。ベテラン・若手に関わらず、所属クラブで好調な選手が招集される。すべての有資格者に、ラ・ロハへの門戸が開かれている。所属クラブでの努力が適切に評価される。そんな代表を心待ちにしていた。このチームは愛せるはずだ。そう確信していた。しかし、いざ始まったEURO2024予選での戦いぶりは、その確信を曇らせるものとなった。

デ・ラ・フエンテ体制

3月17日、選手たちのユース時代の写真を使ったユニークな映像と共に、招集メンバー26名が発表された。

初招集は、DFダビド・ガルシア(オサスナ)とFWホセル(エスパニョール)の2名。いずれも所属クラブでクオリティの高いプレーを見せており、ラ・リーガファンとしては待望の人選だ。また、ルイス・エンリケFCでは構想外となっていたが、たびたび招集が期待されていたGKケパ、DFナチョ、さらにセルタの王様・FWアスパスが復帰した。この発表後、ペドリ、ジェラール・モレノ、ブライアン・ヒルが負傷により招集を辞退。新たにFWジェレミ・ピノ(ビジャレアル)とFWボルハ・イグレシアス(ベティス)が追加招集となった。

2023/3/17発表の新生スペイン代表26名

ルイス・デ・ラ・フエンテは、長年スペイン代表のアンダーカテゴリを指揮してきた。東京オリンピックでの準優勝は、日本人の記憶にも焼き付いていることだろう。育成年代を指揮した経験とは裏腹に、トップチームを率いた経験には乏しい。彼の戦術的な手腕については、未知数の部分が多い。今回の人選は、彼が育成年代で掴んできた栄光を共に歩んできた、いわば子飼いの選手たちが中心となっている。

セルヒオ・ラモスの引退が大きな話題となったのが、最終ラインの人選だ。おそらく新監督はセンターバックに求めるスキルとして、対人能力の高さを最も重視しているようだ。高く、強く、弾き返す能力があるラポルト、イニゴ・マルティネス、初招集のダビド・ガルシア。さらにDFラインのユーティリティプレイヤーとして、久々に復帰のナチョ・フェルナンデスを選出している。

ブスケツが引退したMFは、ロドリを中心にペドリ、ガビといったいつも通りの人選だ。さらに東京五輪でキャプテンを務めたセバージョス、そして今年のリーガを席巻するレアル・ソシエダからメリーノ、スビメンディを選出した。

前体制と大きく異なるのは、FWの人選だろう。ルイス・エンリケがカタールに連れて行ったストライカーは、結局のところモラタひとりだった。新体制はその轍を踏まじと、複数名の9番タイプを選出した。長年セルタに君臨するイアゴ・アスパス、エスパニョールで好調を維持する初選出のホセル。さらに前線のユーティリティプレイヤーとして期待されるジェラール・モレノが負傷で辞退すると、彼らとサラ賞を競うボルハ・イグレシアスを招集。多様な性格を持つFWをずらりと揃えた。

ノルウェー戦、ホセルの2ゴール

EURO2024予選の初戦、相手はスターが揃うノルウェー。しかしこの日、マンチェスター・シティでゴールを量産するハーランドは不在。そんなノルウェーを相手に、13分の先制以降は目立ったチャンスを生み出せずにいた。

いつまで経っても引いた相手を崩せない。ボール保持するも外循環の横パスが嵩む。特に機能不全の原因として目立ったのは、イアゴ・アスパスの二列目起用だろう。このストライカーに右のポケットを取る動きを求めたのか、普段とは異なる役割がうまくはまらない。右でスピードアップできないスペインは、徐々に手詰まりとなっていった。

守備面では、ハイプレスが効かない。効かないから下がって守ろうとするが、ボールホルダーへの圧力に乏しいため危ない縦パスを通されるシーンも目立った。

後半からアスパスに代わってセバージョスが投入されてからは、徐々に攻撃のリズムが生み出されるようになった。敵を引きつけつつラインの背後へのスルーパスを供給するなど、攻撃のタクトを振るったセバージョス。今後のラ・ロハの中心選手としてふさわしい戦いぶりだった。

この試合の印象を決めたのは、この日が代表デビューとなったストライカー・ホセルだ。81分に出場すると、デビューの余韻に浸る間もなく84分、85分に立て続けのゴールを決める。見るべきところの少ない試合にかろうじて花を添えてくれた。

スコットランド戦、グラスゴーでの失態

ノルウェー戦からスタメンを8人入れ替えて臨んだスコットランド戦。様々なプランがあると語っていたが、あれは嘘なのか。そうメディアに追及されてもおかしくない。何もうまくいかなかった。

圧倒的にポゼッションの差をつけながら、シュート本数はスコットランドよりも少ない8本。序盤から攻撃は停滞し、クロスを放り込んではホセル頼み。この日先発出場したホセルは、得点には至らなかったもののストライカーとしての能力を感じさせるプレーを見せた。高さだけではなくポジショニングや駆け引きに長けており、幾度もスコットランドのゴールを脅かした。

しかし、ことは簡単には運ばない。試合の立ち上がりに先制して引きこもるスコットランドを相手に、ワンパターンの攻撃は通用しない。スペースのない状態で質的優位を生み出す役割を担うはずの、ジェレミー・ピノとオヤルサバルの両WGが沈黙。ボールを持たされた最終ラインからも、適切なボール供給のための動きが見られない。初招集のダビド・ガルシアに、慣れない配球をいきなり求めるのは酷だったのかもしれない。

試合後のインタビューではなぜか自信満々に受け答えするデ・ラ・フエンテの姿があった。この試合のどこに希望を見出せというのだろうか。

現実

誤解のないように言っておくと、ルイス・エンリケFCの挑戦そのものを否定するつもりはない。代表チームのクラブ化によって、監督が決めたスタイルに合致する選手だけを継続して起用し、戦術を徹底的に落とし込む強化手法は、最終的に失敗に終わったとはいえ試してみる価値は大いにあったはずだ。しかし、それを好きになれるかどうか、応援できるかどうか、ということはまったくの別問題である。

新生スペイン代表は、愛される"はず"の人選になっている。しかし、調子のいい選手をただ組み合わせれば、強いチームになるというわけではないことは誰でも知っている。

代表チームは単なるオールスターであってはならない。


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