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獄中記⑥ 審判はやるのだろうか?悶々とした日々

東京西鑑別所へ移って3日くらいすると、弁護人選任通知が来た。私の場合兵庫の弁護士は外れており、自動的に新しい人がついた形だ。弁護士の事務所は桜上水・・・。少し遠いな。来てくれるのか・・・。

気まずい親との面会

東京に来て私が何より嫌だったのは、親と会うことだった。自分が裏切っているのだから当然後ろめたさのカタマリだ。しかも手紙での感覚からすると、かなり自分の認識と隔たりがある。仕方のないことなのだが、極めて一方的に書かれていて、はっきり言って会いたくなかった。        逮捕されると周りの人には逮捕の事実だけが伝わる。事件の中身や事情、本人の関与がどういうものであるかは伝わらず、家族か知るのはあくまでガサ状や逮捕状に記載されている簡潔で法的な全体の事実だけだ。

しかし留置所も鑑別所も基本的に事件のことは話してはいけないと言われる。父と母は一緒だったり別々だったりするが、週に1,2回来てくれた。しかし話すことがない。自分はこの人たちに何を謝ればいいのか。謝って何か返せるのか、分からなかったからだ。気まずい沈黙が続くこともあった。 私は開き直って差し入れだけ頼んでみたりもした。結局どうやって付き合えばいいのかは分からなかった。

若くて正義感の強い弁護士

通知が来て少しすると弁護士が来た。小寺先生(仮名)は見た所30代で若くて、話してみると真面目で正義感の強い人だと思った。先生は少年院に行けるように尽力すると言ってくれた。                 私に対して「なぜあなたが誤った考えを持つようになったのか、次までに考えてみてください。」と宿題を出した。                「うわ~後、1週間は来ないでくれよ・・・」と思ったが、この小寺先生との付き合いは長く続くことになる。         

被害者との示談交渉も請け負ってくれた。私の事件の被害者は、はっきりとは言えないが、極めて交渉が難しい相手だったので、あまり期待はしていなかった。

先生との最初の日の会話で印象に残っているのは、私が刑事モノの小説を読んでいると言ったときに驚いて、「嫌にならないですか?結構こういう所にいる人だと、警察モノは自分のことと重なって嫌だという人も多いですよ。」と言われたことだ。もしかして自分はかなり図太いのでは?と思った。

鑑別所の娯楽

鑑別所では土日は映画と決まっている。お金があれば「ポテトチップス」や「チョコチップクッキー」などから1種類のお菓子と「コカコーラ」「午後の紅茶」などのジュース1本を頼むことができる。拘置所と違い、土日の間に食べてしまわなければいけないが。                 東京西鑑別所では「心が叫びたがっているんだ」「君の名は」「トランスフォーマー」「天使のくれた時間」を観た。「君の名は」はもう5回くらい観たが本当に良い作品である。長澤まさみさんが声優を務めた、奥寺先輩が一番好き・・・。

「天使のくれた時間」も2回目だったけど私の好きな映画の一つ。恋人を裏切り、仕事の道を選んだバンカーと、男を諦め弁護士として成功した元カノが、交わるはずのなかった人生を”天使”に体験させてもらい、社会的な成功を手放して2人でやり直そうとする話。良かったら観て。

さてこんな娯楽にふけっているなかでも、私は自分に迫っている不吉な予兆を感じ取っていた。2週間3週間近く経っても、家庭裁判所の調査官が来ないのだ。通常調査官は週に1,2回来て、家族とも面会をする。     実質私の処遇を決めるのはこの調査官で、判事は直接話すこともなく、お飾りにすぎないのが少年審判だ。                    

そんな大きな権限を持っていて、調査し、私の処分を検討するはずの調査官が1度も来ないなんて、考えられることは2つしかない。        1つは私など更生の余地はゼロなので会うに値しない。逆送して刑事裁判をやればいい。と検察からの書類だけで判断したということ。そして2つ目は、私が再逮捕されるということ。再逮捕されたら私は20歳の誕生日までに審判を受けられる可能性は低くなるという事情があった。       私は2つ目の可能性が高いと考えていた。それにしても、いくら何でも1回も面接すらしないというのは、怠慢が過ぎるのではないか。調査官にぜひ真意を聞いてみたいところだ。

再逮捕へのカウントダウン

東京西鑑別所へ移動して2週間程経つと、私は覚悟を決めていた。先生に書いてねと言われた作文については、自由課題のところに先生へのお礼を少し書いた。読んでくれるといいが・・・。                当時の私は人生全てを投げ出そうとしていた。一方でそうはしたくない自分もいた。後者の方に先生は働きかけてくれていたのだと思う。あの時あの先生に出会えていなければ、私はとっくに諦め、腐り、ゲームから降りていただろう。名前も知らない(鑑別所の先生は名前を教えない)、しかし先生と出会えたことに非常に感謝している。

11月も中ごろに差し掛かったある日、突然房の扉が開けられた。目の前には4人ほどの法務教官が立っている。こういう時は悪い知らせと相場が決まっている。悪い知らせで暴れる人がいるため、大勢で来るのだ。      「よし君、はっきり言います。今日、警察が再逮捕しに来ています。荷物をまとめましょう。」この教官も少し話をした人で、生活上お世話になった人だ。 私は荷物をまとめ、入ってきたときに通された身体検査室に再び入れられた。荷物の検査の後、神奈川県警が来ていると聞かされた。ああ、兵庫にケータイを押収しに来た人だ・・・                  最後に教官から「身体にだけは気をつけてな」と言ってもらった。

つづく

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