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獄中記④ 神戸少年鑑別所から東京西鑑別所へ

20歳未満の犯罪を犯して捕まった人は「嫌疑なし、不十分」以外の場合、必ず観護処置となり、鑑別所へ収容されるのだ。

私は19歳だったため、神戸少年鑑別所へ入所した。          私の住所地は東京の市内なので、すぐに東京西鑑別所へ移送されるとのことだった。

鑑別所での生活はマシ

鑑別所の弁当は留置所よりもグレードが高かった。はっきり言って美味しい。量も多い。さらに貸し出しの本も多く、私は東野圭吾(獄の定番です)や、濱嘉之の小説を借りていた。お風呂も個室でカミソリも使える。   なんと夜は2時間たっぷりテレビも見られる。

これはまるで来てくださいと言っているようなものじゃないか・・・と思わないでもないが、私も留置所よりは充実した生活を送っていた。土曜日曜には映画を見た。「スノーデン」「利休にたずねよ」「僕は明日、昨日の君とデートする」だった。「僕は~」に関しては映画館でも見たけれど、私には理解力が欠けているのか、イマイチ分からない映画だった。

法務教官は良い人が多い

法務教官というのは法務省の矯正局採用の国家公務員で主に少年院、少年鑑別所に勤務している。心理学を修めている人が多く、技官は臨床心理士などかなり高度な知識を持った専門家だ。法務教官は良い人が多い。       言い方は雑だが、警察というのは誰でもできる。なぜなら悪い人を捕まえて(実際悪いかは別として)、「コラ、テメエが悪いんだ。」と言えばいいわけで、善良な市民の味方、ヒーローが務まる。しかし法務教官というのは、扱うのはほとんどが悪いことをした少年少女で、「コラ!」ってやるのではなく、本人と向き合い、改善させていくのが仕事だから、”良い人”じゃないと務まらないのだ。

私は法務教官をやっている人を心から尊敬している。神戸の鑑別でも3人の教官と交流を持った。1人は技官の若い女の人で、開口一番「ねえねえ、半グレなん?」と聞いてきたのが面白くて印象に残っている。       関東では半グレグループってあんまり聞かなかったけど、関西では18.19歳くらいで捕まってくる人の多くが、三十三など夜の街で「半グレ」に所属しているらしい。

「関東でこんな質問したら笑われてしまうってことやな。覚えとこ」と言っていた。この人の立ち合いの元、IQテストをやった。法務省は収容施設に来る人のIQテストの結果を公表している。平均は100に落ち着くはずだが、ここに来る人達はそうはいかないのだ。

え?中央線乗るんでっか?

1週間ほど経った後、東京へ移送となった。また新幹線か・・・と少し恥ずかしい気もしたが、今回は2人しかついて来ない上、ジャンパーのポケットの中で手錠をしているので全然目立たない。一緒に行く2人はベテランで、私の知人も少年院で世話したと言っていた。2人は法務教官の仕事の大変さや、扱った子が成人して逮捕されるニュースを見るときの辛さを語ってくれた。

数年前話題となった、関西の半グレグループのトップと何度も会い、何度も話したのだけれど、テレビに出てあんなことになっちゃって・・・。と悲しそうにしていた。(ア〇スグループ?だった気がする)         昼食はシャケの入った弁当。久々のコンビニ飯でとても美味しかった。  

東京駅に着く前にふと気になったことを聞いてみた。「東京駅からは車ですよね?出口人多そうですね。」すると一人が少し申し訳なさそうに、「ごめんな。中央線で行くねん。恥ずかしいかもしれんけど、我慢してな。」  「え?中央線乗るんでっか?」思わず似非関西弁が出てしまった。

さすがにバレバレです・・・

東京駅を降りると中央線の下りに乗るため1・2番線へ向かった。さすがに神戸とは違い昼間でも人が多い。なかにはジロジロ見てくる人もいるが、ほとんどの人は見てはいけないものを見たかのように目をそらしてくれる。 中央線で中野や吉祥寺を通り立川に向かう途中、             ”ああ、この景色もしばらくお預けか・・・” と少し悲しくなった。

そんな感慨にふけっていると、一人の教官が私の正面を隠した。何があったのだろうと・・・と覗くと、コテコテのギャル2人組がいて、その一人がどうやらスマホのカメラを向けているらしい。 まあそりゃそうなるよねえ。だってバレバレだもの・・・。ギャル可愛かったな~。

東京西鑑別所への再入場

夕方3時半ごろ、立川の次の東中神駅で降りた。改札口に一人の法務教官が立っていて、私達を車に案内してくれた。そこから何もない道を少し北の方に進み、何やら学校のようなところに入っていく。学校と違うのはフェンスが高く、外からは見えないようになっていることだ。車を降りて施設へ入る。2人とはここでお別れ。獄の生活は出会いと別れの繰り返し。

お礼を言って別れると、次は新しい出会い。「気をつけ!礼!」と声をかけられ、腰を30度折る。本人確認の後、再び再入場に伴う荷物検査をする。 官は物品の扱いにはメチャクチャ細かい。それが終わるとお風呂へ案内された。その時になって気づいたが、施設が新築並みにキレイだ。お風呂も最新の設備で、獄の中ということを忘れそうになる。

次はオリエンテーション。施設での生活様式についてのビデオを見たり、話を聞いたりする。こういうのはたいてい無意味だ。その場面になってみないと分からないことも多く、結局リピーターのような、施設を知っている人以外には理解しきれない。 

その後、医者の健康診断だ。コイツがなかなかのクセ者だった・・・。

つづ

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