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獄中記⑫ 兵庫県への帰還 県警本部留置へ

3月下旬、静岡へ来て2か月と少し経った日、やっと移送されることとなった。しかし行き先は山梨ではなく兵庫。いったいどういうこと?

片道6時間半の移動

朝8時に御殿場署を出た。前原刑事も一緒に行くようだ。基本的に県をまたぐ移動は車だ。 この時も高速を使って6時間半かけて移動した。一緒に移動する警察は4人。両サイドと真ん中の列に一人。運転手が一人だ。   前原刑事とは色々勉強の話をした。後、前に頼んでいたトラブル相手方についても多少調べてくれたようで、教えてくれた。

検察や本庁からこれ以上捜査する必要がないと言われて終っちゃったということも、「K」が少年院に別の事件で行っていることも、一切捜査には協力してもらえなかったことも教えてくれた。前原刑事には色々お世話になったので、お別れは多少寂しかったが、午後2時半神戸市内についてしまった。何となく鑑別所に入った時に見たような街並みで、ああ・・・戻ってきちゃったか、という何とも言えない感覚に陥った。5か月ぶりである。

元気ハツラツ、本部留置所 

兵庫県警の本部は20階近い高層ビルで、しかもキレイだった。地下の駐車スペースから施設内に入り、エレベーターで4階か3階に上がる。      留置は男性女性に分かれていて、当然男性の方へ入った。        留置所の前へ行くと面会室に入れられ、金属探知機で検査をする。その後、「入場します。出入口開錠準備よーし!開錠!」と大きな声で担当さんが号令をかけて入場した。 「14時40分入場!施錠」 あまりに声が大きいので、正直ビックリしてしまった。

その後お決まりの検査、荷物チェックをする。獄中受験生としてはこの瞬間は少し面倒だ。参考書を持っている人なんて、ここでは面白おかしく言われる。しかし、兵庫県警本部は違った。                 「何、医学部行くんか?」 私は医学部に行く人用のパンフレットのようなものを持っていたので、それで分かったのだろう。            「うちはええで。自分ひとりやから。静かに勉強できるわ。ほな、本はここに全部しまっとくから、いつでも変えたい時は言ってや。」 たいていの場合、本が多いのは嫌な顔をされる。私はここの係員の人達はものすごくいい人達なのかもしれないと思うようになった。部屋は3部屋で、一人6畳くらい。トイレは和式だが全体としてはとてもキレイだった。

急な検察の呼び出し

兵庫に来て3日後に、急に検察から呼び出しがあった。バスで地検に行くと、中年の男の検事からカメラの回っていない部屋に呼ばれ、取り調べが始まった。

 共犯者の一人「S」が公判の直前になって突然、今までの主張をひっくり返した。私にボコボコにされて無理やり連れて行かれたと言い出したらしい。「なんか裁判を前にして、ビビっちゃったみたいなのよ。どう?協力できる?公判に来てほしいんだけど。」 ということで私は「S」の公判に、検察側の証人として出廷することとなった。その日は一通りの事件の内容の確認。

「そういえばさ、録々(録音録画)見たんだけど、山口(検事)、特捜行きたいって言ってたよな(笑)」「ああ、言ってましたね。でも公認会計士持っているなんてすごいですよね。」「君に特捜行きたいってアピールしても行けないのに、あれは笑っちゃったよ。うん、優秀だね。1期か2期後輩なんだよ。」 この検事は人当たりが良く面白い人だったが、3月末に異動してしまった。

毎日のコンビニ弁当 

この施設は食堂があり、普段はそこから自弁の弁当を持ってくるらしい。しかしコロナの関係で業者との調整ができていないので、しばらくはコンビニのパスタ系になると言われた。                    喜んで頼むと、初日はペペロンチーノがきた。”うわっ、コンビニのパスタって美味しいんだ“ 涙がでるほど美味しかった。しかもチンしてくれるので温かい。次の日はミートソース、その次の日はボンゴレだった。       毎日ご馳走を食べている気分だった。ファミリーマートの弁当はイマイチというイメージがあったが、ここに来てそれが変わった。ファミマのパスタはとてつもなく美味しい。 唐揚げ入りのパスタや五目あんかけ焼きそば、和風パスタなどを食べた。

超大物ヤ〇ザと一緒に・・・

2週間くらい1人で過ごした後、1人の60代くらいの人が入ってきた。旅行カバンのようなものを持っていて、新品のスウェットも持っている。     ”え?準備して来る人なんているんだ・・・”と思ったが、少しして担当さんがいつもより少し緊張感を持っていることに気づいた。          この老紳士、とにかくオーラが普通の人と違うのだ。丁寧でオロオロしていなくて、堂々としている。                      次の日から大量に(1日に3~5回)差入れが届く。私は何となく「大物」なんだな・・・と思っていたが、風呂で2人になった時に話しかけられた。(ちなみに全身にキレイな絵が描かれている)             当時は別の部屋だったが、私の本が見えたらしく、「勉強してるな。偉いぞ。政治が好きなのか?」から始まって、北朝鮮、中国の情勢や文化について、いろいろ教えて頂いた。 歴史が好きなようで、色々な話をした。  

その2日後、突然担当さんから部屋の移動を告げられ、一緒の部屋になってしまった。さすがに本物の人だとは分かっていたので緊張したが、一緒に生活してみると面白い人で、たくさん笑わせてくれた。          一番衝撃的だったのは、差入れできた大衆紙のヤ〇ザ情報のところに、大きく目の前の人の写真が載っていたことだ。 

私はヤ〇ザ事情に詳しくはないが、日本で最も大きく、米国からもテロ組織に登録されている巨大組織の大幹部だった。さすがに私が驚いていると、  「何?載ってるか?ありゃ、トップ2人と並べられて、こんなん怒られるわ」とアッサリしているので、「こんな大きく写真が載るような方と初めてお会いしましたよ。」と笑って言うと、「そうか、よかったな。俺とトモダチになれて。」と笑っていた。                    ちょっと怖かったが、仕事のやり方や、バブル時代の話、刑務所の話や、中国とのビジネスについての議論、愛国論など色々面白い話が聞けた、よい時間だった。

つづく


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