見出し画像

キンモクセイの香りで思い出す人     ②中3の夏から秋

夏休みの残りを俺は浮かれて過ごした。                横浜のみなとみらいに遊びに行ったのを覚えている。          蘭ちゃんは白と紺のチェックのシャツに真っ白のパンツ。        俺は黒のトランスだかサーティンのTシャツに白の短パン。       ちょうどポケモンのイベントがあったみたいで、あの辺り一帯がピカチュウだらけだった。                           何を食べたのか、どこを見たのかもあんまり覚えていない。       ただ、初々しいプリクラが残っていたから、多分ワールドポーターズには行ったのだと思う。                          映画でも見たのかもしれない。

それから、最初に行った祭りとは別の祭りにも行った。         そこでは蘭ちゃんのお姉さんにばったり会ったのを覚えている。     身長140㎝台のお姉さんは、両腕に入れ墨を隠すためのサポーターを巻いた、190㎝台の男と一緒。                     蘭ちゃんのお姉さんは俺の地元の先輩と付き合っていたことがあるから、何となく知っていた。                         それから何度か地元のショッピングセンターにある、フードコートで勉強を一緒にしていた。                          といっても時々、蘭ちゃんが訳の分からない答えを出すので、それを茶化すだけだった。                            ちょっとゲーセンやスーパーもぶらついて、帰りは公園で蚊に刺されながらダラダラする。                           キスもしない。                           ハグはした。というかそのためだけに公園に寄っていた。

恋愛は始めましてって感じ。                     お互い過去に誰と付き合っていたとか、そういう話はしなかったし、多分知らなかった。                            俺は蘭ちゃんが相当遊び慣れていると思っていたので、こういう初々しさは意外だった。
後から聞いた話だと、2人としか付き合ったこともないし、手をつないだとこすらほとんどなかったらしい。
どこかへ出かけると、蘭ちゃんは必ずネットのフリー素材から拾ってきた絵日記の画像をアプリで編集して、小学生みたいな絵日記を送ってくれた。
顔がキレイな女の子ってこういうマメなことはしないものだと思っていた。俺のことも周りの友達が呼ぶあだ名ではなく、ヨシと呼んだ。こういう呼び方をする人は初めてだったと思う。
月9か何かで、福士蒼汰と本田翼のドラマがあって、毎週このドラマを見ながらラインで、ああだ、こうだと話した記憶がある。

夏休みが終わる前、俺は学校に行くのが面倒くさいといつも蘭ちゃんに愚痴っていた。                             すると夏休み明け初日の朝から電話がかかってきて、「ヨシ、起きてる?あ、起きてる!早く制服着て、1分で。」と言われた。
今考えると、こんなことに大喜びしていたのだから、ホントに俺は浮かれていたと思う。まんまと乗せられて、毎日学校に行っていた。
俺の学校も蘭ちゃんの学校も9月の前半にテストがある。そのテストが終わったら会おうと約束していた。
俺としては付き合ってないけど、両想いでたまに会う関係が、これはこれで楽しかった。だからもう少し続けたかった。
けど蘭ちゃんは
ー今、彼女作ろうとは思わないの? とか、
ーヨシはどんなシチュエーションで告白するの? 
なんて聞いてきた。
俺はなんて答えたか覚えていない。けど、
ーいつ?
と聞かれたので、
ー近いうちに
と答えた。

テストが終わった後、俺たちはいつものフードコートで会った。     その日は早くフードコートを出て、裏の公園で少し時間をつぶした後、地元にある、米軍基地の前の原っぱへ向かった。              思い出してみると、何だか「君の名は」とかあんな感じのアニメの世界にいたみたいな感覚になる。
俺と蘭ちゃんは大きな雲が数えられるくらいしか出ていない快晴の空を見ながら、草むらで寝転んでいた。風もいい感じで吹いている。
蘭ちゃんがラインで話した告白のくだりを投げかけて来る。
「ヨシは告白するときは『付き合ってください』とか言うの?」
ちょっとバカにしたように笑って言った。
俺は「言うかも」とだけ答えた。
「いつ?言うの?」俺はちょっと緊張していた。なぜだか分からないけど。
俺は草むらで寝転がりながら、蘭ちゃんを抱き寄せて、告白した。
かしこまった言い方はしなかったけど。                蘭ちゃんは自分から言わせておいて、「いいよぉ~」と嬉しそうに答えて、そしてこう言った。
「チューしてみたい。」
どうしてだかは覚えてないけど、俺たちは立ち上がって、近くに1本だけ生えてた木の下で、初めてキスをした。

つづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?